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「あ、来た来た」

 三郎の灯した灯明に先導されてひな達が食堂にたどり着くと、入り口から顔をのぞかせた勘右衛門がほっとしたような笑顔で迎えた。

「あんまり遅いから見に行こうかと思ってたんだよ。三郎が何か迷惑かけなかった?」
「「…………」」
 示し合せずともひなとひわは揃って無言で三郎を見つめる。

「失礼な奴だな! ていうかひなちゃんもひわ姐さんもその視線は何?!」
「やっぱり僕が迎えに行った方が良かった……」
「あー、ははははは」
 肩を落とす雷蔵の横で兵助が苦笑いする。流石に可哀相になって、ひなは三郎を弁護する。

「長屋を案内していただきながら来たので時間がかかったんですよ」
「ま、騒ぎを起こしたんじゃなけりゃ何でも良いさ──ってあんたなんでそんなじゃらじゃらしてるんだよ?!」
 目を剥いた八左ヱ門が見たのはひわだった。
 彼の声に釣られて彼女を見た勘右衛門達もひきつった顔をする。

 じゃらじゃら──確かにその形容が似合う首飾り。ひわは保健室では外していた装身具を全て身に着けて食堂に来ていた。
 ひなは取り敢えず巾着に入れて持ち運んでいるが、表だって身に着けてはいない。
 ひわは億劫そうに髪を掻き上げ、八左ヱ門と兵助、雷蔵の順に見てから口を開く。

「今はこっちの方が楽だから」
「は?」

「まあまあ、いいじゃん。とりあえず座って座って、食べながらでも話はできるんだしさ」
 怪訝な顔の八左ヱ門をとりなして、勘右衛門が三郎達を空き席に促した。
 食堂の中には他の五年生の姿はない。ひなとひわはそれぞれであたりを確かめてから、勘右衛門の勧めに従った。

 今日の献立は豆腐の味噌汁と、油揚げと大根の煮つけだ。
 全員が着席したところで、兵助の号令で食事が始まる。

「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 食べながら、と勘右衛門は言ったが、いざ箸を手にすると食べ盛りの少年達は食事を掻き込むことにより重きを置いた。つまりは、無言。
 ひなとひわは彼らの様を目にして何とも言えない表情になり、互いが同じ顔になっているのに気付くと、どちらからともなく味噌汁の椀に口をつけた。

「……あ」
流石ね……」

「流石って?」
 早くも味噌汁のお代わりをよそってきた兵助がひわに聞き返す。その後ろから八左ヱ門が「兵助お前具の豆腐とりすぎ!」と文句を言ってきた。
 ひわは箸ですくい上げた不揃いな豆腐の塊を口に押し込んで咀嚼、嚥下してから兵助に応じる。

「この年できちんと味の整った味噌汁を作れるのが流石」
「そりゃ、五年もやってればね」
「それはいいんだが雷蔵が作ると豆腐がやたらと歪なんだよな」
「雷蔵君は庖丁を使わず、木杓子で掬っているんじゃないですか?」
「ああ、うん。なんだか面倒で」
 八左ヱ門の愚痴にひなが尋ねると、雷蔵の苦笑が返った。
「面倒って、おまえなぁぁ!」
「まあまあ、豆腐ならまだいいじゃん。この大根に比べたら!」
「あ、ごめん……」
 笑顔の勘右衛門に赤面する雷蔵。
「今日は味付けを全部三郎に任せたから、僕はひたすら具材を切ってただけなんだ」
「そんなこったろうと思ったぜ」
 八左ヱ門は大仰に息を吐く。三郎も苦笑して、
「二人にいきなり大味の飯を食わせるのは拙いだろうって気を遣ったんだよな」
「三郎!」
一気ににぎやかになった。

 大騒ぎする少年達を余所に、ひなとひわは黙々と箸を進める。
 本当は、ひなが声をあげたわけも、ひわが流石と言ったわけも他にあったのだ。ひなはそれが気になって、早く部屋に戻ってしまいたかった。

「竹谷、久々知──」
 箸を置いたひわは、ぎゃんぎゃん騒ぐ八左ヱ門とマイペースに茶を飲んでいる兵助を小さな声で呼んだ。

「あ?」
「うん?」
 二人が振り返ると、ついでとばかりに他の声も止んでひわに視線が集中する。ひわは眉を寄せたが、そのまま言葉を続けた。

「さっきはいろいろと世話をかけて……いや、助かったから、ありがとう」
「「──?!」」

「あー、ホントに二人名指しで言った! 勘右衛門はともかく俺とか雷蔵だっていろいろ頑張ったのに!」
 虚を突かれた二人の向かいの席で口をとがらせて突っ伏す三郎。誰の目にもはっきりと拗ねた「ポーズ」だとわかる言動だが、勘右衛門にしてみれば納得がいかない。

「僕はともかくって酷くない?!」
「尾浜も、さっきは余裕がなかったら済まない。鉢屋には勿論ひなさん共々感謝してるよ?」
 ひなも彼女に同意するように首を縦に振った。
「皆さんにいろいろ気を遣ってもらって、助かっています」

「そんな、気にしないでよ、ね? ねえみんな?」
「ああ──あんだけばっさりやられた後で却って気持ち悪ぃ」
「ハチ、こら、もう!」
 三郎は勘右衛門達がまた騒ぎだす下で突っ伏したまま、ちろりとひわを見遣った。
 ツンツン娘二人の僅かなデレに盛り上がっている三人は忘れているようだが、今のひわの台詞には欠けているところがある。
 盛り上がりのきっかけを作ったひなにしても、ひわの意図を気にして、その横顔と空の食器の間に視線を彷徨わせている。

「あ、えーと、食器は今洗いに行くから気にしなくていいよ?」
 どちらかといえば三郎とひなの空気に居心地の悪さを覚えたらしい雷蔵が、少々強張った笑みで言い出した。
「いや、そこでお前が抜けたらダメだって!」
 三郎は小声で言って雷蔵の服を引っ張る。
「え? でも」
「でもも何もないだろー。ひわ姐さんツンでもデレでもいいから早いとこ済ませちゃって?」
「わけわからないこと言わない」
 促されたひわはむっとするが、ひなにも三郎にもはっきりわかる──照れていると。
 ひわは微かに頬を上気させ、視線を彷徨わせながら小さな声で言った。

「その……雷蔵、心配かけてごめんなさい」

「デレだ!」
「かんっぜんにデレだ!」
「すごいデレてるよ!! 信じられん!」

 瞬間、兵助を始めとする三人はずささささっと身を引いて、一か所でひそひそとささやき合った。
 直後、報復に対して身構えるのが彼等の日常を伺わせる。けれどひわはむすっとして彼等を睨むばかりで、代わりに雷蔵が失礼だと三人を怒鳴った。
 勿論、彼等のからかいの標的がその瞬間雷蔵に移ったのは、言うまでもない。

「…………」
 いつもならばからかいの輪に入っているはずの三郎は、何かいいたげな視線をひわに送った。
 ひわはそれも黙殺する。

「だいたい雷蔵一人だけ名前呼びされてるしなー?」
「「なー?」」
「たまたまだよ、たまたま!」
 息を合わせる三人に、顔を赤くした雷蔵は反論するが、

「ひわ姐さん」
「……何」
「保健委員長は?」
「善法寺でしょう?」
「起きて最初に会ったのは?」
「…………三反田」
「じゃあ──」
「三郎君」
雷蔵をからかうためと言うより、何かを確かめるようにひわに問い掛ける三郎を、ひなは遮った。
 他の三人はまだからかっているだけだから良い。けれど三郎は目が笑っていない。

「どうしてひわさんはひわ「姐」なの?」
 三郎の目がひなに移った。
 話を反らそうとしているのはばれているだろう。
 微妙な緊張状態は、じゃれていた四人にもすぐに伝わる。

「そーいやそうだよな」
 ぽん、と兵助の打った手が、その場の空気を軽くした。

「まあ、気持ちはわかるけどね」
「え? なんで?」
 雷蔵が勘右衛門に聞き返したのは、本心なのだろうがこの場合は自爆と言える。
「雷蔵」
「お前はいーんだよ、お前は!」
「最初の挨拶が三郎にはだいぶ効いたみたいだしなぁ」
 勘右衛門はのほほんと言う。ガシガシと頭を掻いた八左ヱ門が、逆の手でひわを指差した。

「あの眉間に皺か無表情で、気にしてるところ指摘されてみろ! しかもそれをオブラートに包んで敢えて気にするなとか言われた日には、ごめんなさいと謝りたくなって来るだろう!」
「その割にハチも噛み付きまくるけどね」
「こらこら、人の心情捏造するな」
 兵助と三郎からツッコミが入る。指を突き付けられたひわはまた眉をひそめていたが、その言い合いに参加する気はないようだ。

 ひなはひわの表情を伺いながら、彼等の騒動をいつくぐり抜けようかと考える。

「だがしかしっ! 雷蔵、お前個人にはあの冷たく凍えた、作法委員会委員長、立花仙蔵先輩ばりの視線を向けられたことはない筈だっ!」

「あ! そうか立花先輩だ。ハチ良く気付いたな」
 暢気な勘右衛門の合いの手に兵助は苦笑するが、素早く件の先輩の顔に作り替えた三郎は真面目な顔を作って八左ヱ門に告げる。

「八左ヱ門が私のことをどう思っているのか良く解ったよ。後を楽しみにしてくれたまえ」
「三郎っ!」
「だいたい自分がモテないからと妙齢の女性を無遠慮に指差すのは失礼だよ?」
「その顔で言われるとすっごいムカつくなあ!」
 歯がみする八左ヱ門。矛先が少し逸れてほっとした雷蔵にも、三郎の口撃は続く。
「雷蔵も、女性からアプローチをかけられたときのあしらいがなっていないな。応えるか断るか……利用するのまでは期待しないが、進退ははっきりするべきだろう」
「ええっ?」

「いい加減にしな」
「おっと!」
 三郎は寸でのところでひわの拳を避けた。
 それからしてやったりの表情で、元の雷蔵と同じ顔に戻す。
「ひわ姐さんのそれは照れ隠し?」
 ニヤリと笑う三郎の隣で視線をあちこちにさ迷わせている雷蔵。どの級友を見てもからかいの目をしているので、困ってしまっている。

 ひなはひわを盗み見た。
 まさか本当に照れ隠しだとはひなも思ってはいないけれど、雷蔵に対する扱いだけが違うのは確かだ。もしかしたら──とひなが思うことはある。それを聞きたくて早く部屋に戻りたいと思っていたのだ。ひわは一体、どんな切り返しをするつもりなのか──

 ひなにまでじっと見られて、ひわは内心で舌打ちした。

「……雷蔵は、世話になった知り合いに雰囲気が良く似てるのよ」

「それだけ?」
 些か拍子抜けした勘右衛門。兵助は、
「馬鹿だな、特別なヒトにそっくりってことだろ」
「あ、そっか」
「あ、そっかじゃないだろ」
勘右衛門に裏拳で突っ込む八左ヱ門。
 三人のやり取りを無視してひわは続けた。

「十年近く前の事だから、ひなはよく覚えていないみたいだけど、私達の守役の一人だったから、ある意味特別でしょうね」
「え?」
 ひなは思わず雷蔵を凝視した。
 話の流れからそれは自然なことで、ひなの反応を見て三郎は肩の力を抜いたようだった。
 けれどひなは彼等の反応に頓着する余裕はなかった。

──十年前、の、守役……雷蔵……

 記憶にノイズがかかっているのは、幼かったからではなく、降り懸かった現実をどこかで認められずにいた代償だ。ひなは人の顔と名前がなかなか覚えられなかった。
 その頃に守役として付いていたのは、基本的に草のものと呼ばれる忍。その頭領の年齢を思えば、「今」この場所で忍術を学んでいる少年が「そう」だったとしても不思議はない。

 そして、同盟のために奥州に移ったひなと違って、留まったひわは彼等と長い時間を──深い信頼関係を結んでいる。仲間を見間違えるはずも、冷たく突き放すこともできるはずはなかった。

「確かに雷蔵なら良い守役になりそうだ」
「大雑把とか迷い癖さえなけりゃね」
「ていうか図書委員じゃ間違いなくお守り役だろ?」
「だよなー」
 言葉の裏を知らない少年達が、三つ四つのお子様を想像して言い合うのは仕方がない。むしろひわならわざとそう思わせるように言ったのだろう。

 友人達の、「よっ保父さん」という生温い笑みに逆らって、
「それ言ったらハチも兵助も委員長代理で後輩の面倒よく見てるじゃないか!」
「それとこれとは話が違うだろ」
「うちはホラ、むしろ二年の三郎次がしっかりしてるし、後輩といってもタカ丸さん年上だろ?」
「ハチが面倒見てるのは毒虫だもんなあ」
雷蔵の指摘は揃って却下された。勘右衛門の言葉に八左ヱ門は
「ほっとけ」
と顔を背ける。

「一度飼いはじめたからには最後まで面倒を見るのが人として当然だろう!」
「三郎!」
 三郎がまた八左ヱ門の顔を作って格好つけるので、真似された方は身を乗り出して彼を怒鳴り付ける。
 三郎は素早くまた別の顔を作った。
 ふざける三郎を止めるのは、こうなると同じクラスの二人の役目になる。

 ドタバタ騒ぐろ組の会話をBGMに、勘右衛門はこそっとひなとひわに近づいた。
「二人が雷蔵に打ち解けやすかったのはわかったけどさ、僕らにももっと気楽に接してくれたら嬉しいんだけどな」
「そーそー。講師やるなら贔屓はまずいだろ?」
 二人の後ろからは兵助が。騒ぎを放置して皆の食器を集めて回る。
 ひなとひわは目を瞬かせた。

「知っていたんですか」
「俺、火薬委員会委員長代理。コイツは五のいの学級委員長」
 ニヤッと笑って兵助が告げれば、ひょい、と彼の持つ食器の上に椀を重ねて、勘右衛門がろ組を指差す。
「ついでに、ろ組の学級委員長が三郎。八左ヱ門は生物委員会の委員長代理ね」

「コラ、勘右衛門かさねすぎ!」
「各所属の代表者には先生方から話が伝えられたんだ。
 大丈夫、兵助なら運べる!」
 勘右衛門は無責任に兵助を励まして、更に皿を重ねた。
 ひなはそれが気になって仕方がない。

「…………

 …………

(少なくとも、この二人は知らない)


 ……善処する」

 長考の後、ひわは頷いた。

「勘右衛門、さすがにそれは無理でしょう。兵助、崩れる前にそっち貸して」
「へ?」
「見てる方がハラハラするから。気楽にするのと全部甘えるのは違うでしょう?」
 ひなは勘右衛門が兵助に押し付けようとした湯呑みを横から抜き取った。
 それに同意を見せて、今にもバランスを崩しそうな兵助の手から三割程度の食器を奪い取るひわ。

 兵助が間抜けた声をあげたのは、だがそれら手出しによるものではなく、
「あれ、ひわさん今名前……」
同じように驚く勘右衛門に奪い取った食器を押し付け、ひわは兵助から残りの食器の概ね半分を取り上げる。

「勘右衛門、洗い場はどこ?」
「えっと、あー、こっち……
 じゃなくて!」
 勘右衛門は先に立って歩きだし、すぐに足を止める。彼のノリツッコミに、攻防を続けていたろ組の三人も何事かと振り返った。

「ってか、あんたさっきまで寝込んでいた奴が何やってんだ!」
 真っ先に反応したのは八左ヱ門。速攻でひわから食器を奪い取り、
「兵助、勘右衛門、お前らも気付け!」
い組の二人を怒鳴り付ける。二人は「あ……」と冷や汗を流した。
「悪い、忘れてた」
「うん、ごめん」
「自分だって忘れてたのによく言うよ」
「三郎っ!」
 ボソッと呟く三郎に食ってかかる八左ヱ門を、慌てて雷蔵が押さえ付ける。バツが悪そうな勘右衛門と兵助に、ひわは気にするなと首を振った。

 溜息をついたのはひなだ。

「人が悪いですよ、三郎君」
「鉢屋には先に話していた筈なんだけど」
「え?」
「ひわ姐さんが倒れたのは、場所と気が馴染む前に装具無しでバサラ技を連発したからなんだってさ。今は装具着けてるし、休んで気も調ったから、普通にしてる分には問題無し」

「何だよそれ」
 八左ヱ門は拍子抜けした顔をした。
 兵助も脱力した笑みを浮かべ、

「もしかして、さっき「こっちの方が今は楽」って言ったのは、このことだったり?」
「そう。だから勘右衛門も兵助も気にしないで良いよ」
「本当に無理なことならあたしが止めていますから」
「そっか。でも今日は僕らで片付けるよ、気が利かなくて御免ねー」
二人の肯定に、勘右衛門がほっとした笑みでひなの分の食器を取り上げた。

「済まない、助かるよ」
「ありがとうございます」
 ほわほわした彼等の表情にほだされ、つい、ひなとひわの顔に微かな笑みが浮かんだ。

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■蛇足■

昔の守役に似てる じゃなくて 昔の守役=成長した雷蔵
「この二人は知らない」は、「敵としても味方としても遭遇してない」ということで、裏返せば……
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