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図書委員(女子)の話9
2014 / 05 / 08 ( Thu )
「気まずい話題を振られたくないなら、最初から顔合わせなければ良いんだよね!」

 ひらめいたあたしは、当番を交替したりして、出来るだけ先輩と会わなくてすむように調整した。
 交換するときの理由は……あたしが考えつけられるわけもなくて、悔しいけどこれまた三郎に色々ネタをもらった。協力的な三郎は不気味だったけど、何か奴自身の面白がるポイントあるみたいなので今はよしとしておこう、うん。
 どうにもならないときも、とにかく二人きりになるのは全力で回避してきた。近くに他の誰かがいるときには、中在家先輩もそんな話はしてこないだろうから。

 そして、紗彩ちゃんの口からあれ以来中在家先輩の名前が出てくることはなかったけど、特別教室の掃除中、窓から見た。二人で何か話してるところ──
 紗彩ちゃん、頑張ったんだな。
 うまく、行くといい……な。そしたらあたしは、こんな頑張って先輩避けなくてもよくなるし。
 これまでみたいに──

「比菜子~、不破君迎えに来たぞ、このラブラブめ!」
「はっはっは、うらやましかろ?」
 からかってくるクラスメイトにふざけ返したけど、頭の中はぐるぐるしてた。

──これまでみたいに、何……?


「比菜子ちゃん、大丈夫?」
 雷蔵が、久しぶりに呼び捨てじゃなくあたしを呼んだ。

 その日の帰り。
 ちょっ早で荷物片付けて、廊下で待ってた雷蔵の所に走ってくと、雷蔵は何故かはっとした顔になって。でもその場では何も言わないで、昇降口まで降りてきた後になってから訊いてきた。
「大丈夫って、何が?」
「何がって……大丈夫なら、いいんだけど」
 奥歯に物が挟まったみたいって、こういう時に使うんだよね?
 思わせぶりな雷蔵の言葉に首を傾げて、傾げて──

「大丈夫じゃ、ないかも!?」
 
 あたしはさあっと青くなった。

「えっ?!」
「明日提出の被服の課題っ! ロッカーに入れっぱなし!!」
「ええっ(そっち)?!」
「ちょっと取ってくる!」
 ついてくるって言ってくれた雷蔵には流石に悪い気がして、ダッシュで教室を目指す。
 ただでさえ家庭科の成績よくないのに、提出遅れで減点なんて、目も当てられない。

 焦ってたあたしは、周りがよく見えてなかった。

 どしんっ
「っ!」
「っ!?」

 曲がり角で誰かと衝突。
 転ばなくて済んだのは、ぶつかった相手が咄嗟に腕を掴んでくれたからで。

「あ、す、いませ──?!」
──まずった!

 顔を上げたと同時にまた迂闊さを知った。
「十六夜……廊下を走るのは危ない、モソ」
「で、デスヨネ~……すみませんでしたっ! では急いでるのであたしはこれでっ!」
 頭を下げる勢いと挨拶のフリで、掴まれた腕をほどいた。
 踵を返して、後は全力競歩で──

──どんっ

 離脱することは、できなかった。
 どんって今の音は、あたしの進行方向が遮断された音。目の前を中在家先輩の腕が遮って、危うくその腕にぶつかりそうになった。

「十六夜」
「っ先輩!?」

 ニタァ、と中在家先輩は笑顔の様な表情を浮かべていた。

 ま・ず・い……! これは相当に怒ってる!

 くるり、反対方向に逃げようとしたのは、殆ど条件反射だった。

──どんっ

 すると今度は反対側も、塞がれてしまった!

「少しの話も聞けないか」
「ひぃっ!」
「十六夜」
「は、っはぃ!」
「近頃私を避けているな?」
「そっ……そんなメッソウモゴザイマセン!!」
「あ゛ぁ?」
 ギロリ。
 見下ろされた眼力に小心者なあたしの心臓はミジンコサイズまで縮み上がった。
「…………オッシャルトオリデゴザイマス」
「そうか。ふへっ……うぇっへっへへ」

 にぎゃーっ!? わ、笑ってる=ますますお怒りに!!
 神様仏様七松様……! ど、どうか中在家先輩のお怒りをお抑えくださいぃっ!

 追いつめられた壁際で、先輩の大迫力な笑顔を見返すなんてアリエナイし絶対ムリ!
 あたしはギュッときつく目を瞑って俯いた。

 雷蔵、らいぞー! この際三郎でもくくっちでもいい!(勘ちゃんは面白がって放置しそうだし、たけやんは迫力負けするからあてにしない)頼むから誰か何とかしてくれーーーっ!!

 とはいえ。

「ぉ、お兄ちゃん!!」
 パタパタパタっ
 可憐な声と軽い足音が耳に入った時は、さすがに「逃げて、超逃げて!」と思った。誰かわかんないけどどこかの可愛い妹さんを巻き込んで助けを乞うほどは落ちぶれちゃいない(えへん)!

 ……いや、助けてくれるならこの際見知らぬ赤の他人でも。
 いやいや、それはいくらなんでもダメだろう……

「お兄ちゃん!」
 思考という名の逃避をしてる間に、声はすぐ近くまで来た。
 いや、マジ逃げて! 誰かの妹さんっ!

「十六夜さんに当たらないでって言ったでしょ!」

 へ?

「……さーや」
 
 さーや。

 さあや……
 
 紗彩ちゃん!?

 あたしは恐る恐る片目を開けた。
 
 相変わらず両サイドは中在家先輩の腕。背後は壁。
 でも、圧迫感が薄れてるのは、中在家先輩の目が横の方に流れてるから。

 そこにいたのは、やっぱり紗彩ちゃんだった。
 紗彩ちゃんは頬を膨らませて中在家先輩を睨んでいた──そんな強気な態度なんて、ちょっと意外。でも、可愛い。
「思い通りにならないからって力づくなんてサイテイ!」
「む……」
「ほーら、う・で。早く外して!」
「だが……」
「はーやーくー!」
「……モソ」

 中在家先輩はしぶしぶ両腕を引っ込めた。
 自由になったあたし。
 けど何が何だかわからなくて、結局その場を動けなかった。
 ととと、と紗彩ちゃんはあたしの方に近づいた。
「あの……ごめんなさい、十六夜さん」
 目を伏せて謝る紗彩ちゃんは、あたしの知るいつも通りの控えめな感じの女の子だった。間違っても、誰かをしかりつけるなんてことしなさそうな。
「お前が謝ることではない、モソ」
 中在家先輩の表情も、見慣れた仏頂面に戻ってた。
 すごいな。
 紗彩ちゃんが、来たから──だよね。

 チクン。

 心臓のあたりを原因不明の痛みが襲う。き、緊張から急に解放されて一気に血の流れが戻ったせいか!?

「もちろん今怖い思いさせたこと謝るのはお兄ちゃん!」
「う……」
「う、じゃないでしょ!」
 紗彩ちゃんは中在家先輩には強気になれるみたいだ。
 ん……? ていうか。

「比菜子ちゃん?」
「あ、雷蔵……」
「なんだか気になって来ちゃった」
 反対側から声かけてきたのは雷蔵。
 できればもっと早く来てほしかった……けど、待っててって言ったのはあたしだっけ。照れたように頭を掻く雷蔵は、ちら、とあたしと中在家先輩、それから紗彩ちゃんの距離を見比べた。
「比菜子ちゃ──」
「十六夜さんっ!」
 きゅっと、制服の袖口を掴まれる。
 雷蔵の声を遮るように、紗彩ちゃんがあたしを呼ぶ。
「え?」
 紗彩ちゃんはいつかみたいに顔を赤くして、下を向いたままにまくしたてた。

「ごめんなさいごかいなのっ! 私ただお兄ちゃんのこと十六夜さんにアピールしたくてだけどちゃんと言葉に出来なくて! 私べつにそういう感情この人に持ってなくて、嫌いなわけじゃなくてむしろ大好きだけどそれってたった一人のお兄ちゃんだからでわたし十六夜さんの事も大好きだからふたりが仲良くなってくれたらうれしいなっておもっただけだったのになんでこうなっちゃったのかなぁ……」

「え?」
「さーや」
 言われた言葉、呑み切れないでいるうちに溜息を吐いた中在家先輩が紗彩ちゃんの頭を撫でた。
「落ち着け。それから手を離せ、モソ」
「だ、だって! はなしたら十六夜さん不破くんのところに行っちゃう」
「え……」

「モテモテだね、比菜子ちゃん」
「雷蔵!」
 雷蔵は笑っていた。
 さっきまでの中在家先輩みたいな笑い方じゃなくて、優しくてあたしが昔から大好きな、あったかい笑顔。で、目を細めて。
「あ…………」

 唐突に、気が付いてしまった。
 雷蔵の呼び方が、さっきから元通り。オツキアイ前の呼び方に戻ってること。
「姉小路さん……だっけ? 比菜子ちゃん被服の課題を忘れたらしいんだ。ロッカーの場所わかるかな?」
「不破くん……?」
「すぐ戻ってくるから、何かあったら僕を呼んで」
 雷蔵は言ってから、初めて中在家先輩を見上げた。
「すぐ戻りますから、比菜子ちゃんを泣かせたりしないでくださいね」
「っ雷蔵!」

 中在家先輩を挑発するみたいなこと言い放った雷蔵は、ごく自然にあたしの袖口を掴んでた紗彩ちゃんの手を取って歩き出した。
 残されたのはあたしと、目をぱちくりさせた中在家先輩──
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