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 私の名前は阪上雪弥。男みたいな名前だとよく言われる。つまり、女だ。

 そもそもの始まりについては0夜で述べたので、改めては語らない。
 よくわからない機関とやらに白羽の矢をたてられて以来、色々な世界に飛ばされてきた。その色々について、詳細を改めて語る機会があるかわからないので、かい摘んで話してみようと思う。


 最初に飛ばされた先は、一見これまでと変わらない日本。
 中学生に逆戻りしているのと居住地が珠閒瑠市なんて場所でなければ、おかしな夢を見ただけだと思うところだ。

 世間をセベクスキャンダルなんて事件が賑わせたのはその中学在学中のこと。
 始まりがマヨナカTVなのに、ペルソナ4じゃなくて初代とか罪罰の世界かよ! と空に向かって突っ込んだことは今でもよく覚えている。
 中学のクラスメイトの付き合いと、戦えないとのっけからろくなことにならないと悟っていた私は、ペルソナ様遊びをしっかりこなしてアクマとの遭遇に備えた。

 私のポジションはゆっきーとかうららとかみたいな、仮面党的には部外者のペルソナ使い。
 もそっと具体的に言えば、主人公(「たっちゃん」じゃなくて「しぃくん」。茜淳士が彼の名だ)のクラスメイトで、セブンスのエンブレム事件で協力しあった成り行きで、メインストーリーにガッツリ噛むことになった。

 しぃくんには隣のクラスにみぃちゃん──茜温海という双子の妹がいて、だから、彼が所謂主人公だって解ったのもエンブレム事件が起きてから。同じ時期にペルソナ使いとしてパーティに加わったみぃちゃんは、摩耶さんに並ぶヒロインとして事件に関わっていった。
 何しろギンコと並ぶミスセブンス候補、兄弟はブラコンでシスコンのハーレム漫画かギャルゲーで出てきそうな相思相愛関係。不良とかなんとか怖れられてるしぃくんに対し、運動部の部長で先生方の覚えもめでたいよな完璧少女がみぃちゃんだった。
 まぁ仮面党ごっこの一員だった彼女は彼女で、完璧な女の子の仮面を被らなきゃいけない苦しみがあった訳なんだけどね。
 彼女が居てくれたお陰で、私は却って気兼ねなくパーティに参加することができた。

 そうそう、私の武器はしぃくんと同じく片手剣にしておいた。ほら、魔法「剣士」だし。

 初期ペルソナはまさかのヒーホー君で、他の皆みたいにカッコいい「我は汝、汝は我」みたいなシリアス召喚シーンは一度たりとて巡ってこなかった。みぃちゃんなんて蔡文姫とかムネモシネとかちゃんと固有ペルソナらしい特別なペルソナだったのにな。ちぇ。

 それでも合体技出しまくって噂システム駆使しまくって、変異に変異を重ねたウチのジャックフロストは規格外の高パラメータに成長した。私のレベルアップよりもペルソナの変異回数の方が早くて多かった、と言えばヒーホー君の異様さが分かりやすいだろうか。
 同じだけ戦ってもレベルがなかなか上がらない私が主力メンバーたれたのは、結局ヒーホー君のステータスによる底上げのお陰だった。

 この変異フロストが、私の固有ペルソナとなった。

 ちなみに、ペルソナの使用にレベルアップがおっつかなくて、私はパーティのチューインソウル使用率ナンバーワンを誇った(誇れない)。レベルアップでSP全快って、現実に起こるとなんか理不尽。いじけてたらユキノさんから、ジャックフロストがこんなん成長するなんてそっちの方が納得いかない、と言われた。納得した。

 しかし。

 いくらパーティメンバー和気藹々仲良くやろうとも、舞台はペルソナ2なのだ。
 しかも、罪の方。
 あれをハッピーエンドに導く方法があるなら誰か教えてほしい。

 用意周到なニャル様に私やみぃちゃんがいたくらいで太刀打ちできることもなく、ほぼゲーム通りの流れで地球は滅ぼされた。

 フィレモンとの話のあと、罰の世界に移行してく皆には同調できず、私はその世界からリタイアした。みぃちゃんは何となく、私の決断に気付いてた気がする。「またね」でも「向こうの世界で」でもなく、「サヨナラ」って、泣き笑い。それが最後に見たみぃちゃんの顔。

 出会いをなかったことにした皆と、その世界で足掻くことを選ばず他の世界に居なくなる私は結局大差ないことぐらい、フィレモンに指摘されなくても解っていた。

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○月×日委員会業務終了後
今日こそ十六夜に告白しよう。そう思って委員会に参加したが、十六夜は委員会の間中上の空だった。雷蔵と何かあったのかと訊ねたところ、不思議そうにされたものの、明白な回答は得られなかった。何れにせよ、十六夜が調子を崩すのは概ね雷蔵か鉢屋の絡みと見て間違いない。日が悪いため告白はまた折を見て試みよう。

同日帰宅後
後輩達の勧めで十六夜を送って帰ることになった。十六夜は少し顔が赤い。上の空の原因は発熱によるものかもしれない。不謹慎だが雷蔵絡みではないことに安心してしまった。小平太に取っ捕まったのは私への罰だろう。
3組の二人はそれとなく察して見ぬふりをしてくれたようだが、小平太は一直線に訪れ、勝手に色々言いふらしてくれた。止めに来た平は相変わらずの苦労性だ。しかし、平の学年でも十六夜は雷蔵と、等という噂が罷り通っている事を知る。由々しき事態だ。
二人が去ってから腹を括り、その場で十六夜に想いを伝えようとした。
──十六夜は唐突に約束を思い出した、と慌て出したので実現しなかった。
私の話より、雷蔵との約束が大事かと少しだけ腐った。いや、誰の約束であれ、先約を優先する心根は間違ってはいない。私の被害妄想だろう。

○月□日
おかしい。
今日で5日十六夜を見掛けていない。十六夜が当番であるのに他の者が現れたので訊ねたところ、課題の期限により当番の日付を交換したのだという。先日は家の都合だった。日誌を読む限り他の当番にはきちんと参加しているようだから、サボりではないらしい。しかしこうも重なると、避けられている気がしてならない。
明日は私の当番ではないが、図書室に様子を見に行こう。

○月△日
廊下を歩いている十六夜を見つけた。声をかけようとしたが、急に走り出したので機会を逸した。十六夜はしばしばそそっかしい。私に気付いて逃げたのだとは、考え過ぎだろう。
放課後、図書室に向かう途中雷蔵と連れだって歩く十六夜を見掛けた。心なしか以前より睦まじく並ぶ距離も近い。 これではまるで──いや、あの二人の仲の良さは今更の事だ。今更の事だ。

○月○日
相変わらず十六夜に会わない。当番で一緒になった雷蔵に何か知らないかと訊ねたが、
「比菜子ですか?」
と惚けられて追及する気持ちが萎えた。比菜子、と呼び捨てにするのは鉢屋だった筈だ。何故今になって雷蔵まで呼び方を変えたのか。追及するには、その答えを覚悟せねばならない。

○月◇日
最悪だ。
当番ではないが十六夜が来ている、ときり丸が教えてくれた。
私は準備室での仕事があったため、図書室に出られたのは閉館間際になった。久しぶりに顔を合わせた十六夜は以前より綺麗になっているように見えた。急がなければ、雷蔵を警戒している間に他の男にさらわれると気が急いた。
常ならば図書室で私語など認められないが、図書委員のみのその時間、気付いたときには書架の陰で、十六夜に暫しの時間を請うていた。十六夜は是とも否とも語らず、惑っているようだった。だが──そこで雷蔵が現れた。
「比菜子」と呼ばれた十六夜は、迷いなく雷蔵へと駆け寄った。十六夜の肩を抱く雷蔵は、勝者の憐れみで私を見返してきた。私は、想いを口にする暇さえ与えられないのか!!
雷蔵に奪われたことよりも、十六夜の本心をその言葉で知らされることがなかったことが私の胸に重くのし掛かった。

○月▼日
さーやが放課後になって教室に来た。姓が異なることを気にするさーやが、校内で声をかけてくる事は滅多にない。何事かと思ったが、真剣な顔をしていたので邪魔が入らぬよう裏庭に出て話を聞いた。
さーやは、鉢屋達のグループがこそこそ企んでいることを伝えてくれた。十六夜と会うことができなくなったのは、鉢屋の策略だった。そしてその策略の根底には、さーやが発した言葉への誤解があるのだという。
しかし鉢屋は知っている筈だ。さーやが私の兄妹であるということを。
私は十六夜の本心を訊きたいと願った。鉢屋や雷蔵が阻んでいるのだとしたら、十六夜自身に私を避ける意があるのか──
これまでの願いが弱かっただけなのか、計ったように十六夜は現れた。曲がり角の出会い頭、千載一遇の機会を逃しては私は度しがたい愚か者だ。
急いでいるのは瞭然だったが、腕をついて進路を遮った。はじめからこうしておけば良かったのだ。両腕と壁に退路を塞がれた十六夜は、観念したように大人しくなった。私は訊ねた。
十六夜自身が私を避けていたのかどうかを。
そして答えを聞いたとき、私は己のふがいなさに、どうしようもなく笑いが込み上げてくるのをこらえられなかった。
十六夜が私を避けていた!!
十六夜には私の言葉を聞く気など無かったのだ……

○月▼日後半
さーやには叱られてしまった。私の振る舞いは十六夜を威嚇するものだったらしい。仕方なく壁から腕を離した。しかし雷蔵が現れるとさーや自身が十六夜を留めた。そうか、私もこうして十六夜を困らせていたのだな。
驚いた事に、さーやと十六夜を見ていた雷蔵は、十六夜ではなくさーやを連れて私の前から離れていった。釘を指す言葉と視線からは、私を容認したわけではないことが知れた。
つまり、十六夜が私と話すことを望んでくれたということだろうか。
私は十六夜を見下ろした。
いつかのように微かに頬を赤くした十六夜は、やはり美しかった。普段の天真爛漫で無邪気な様も、ふとした瞬間に覗く艶めいた表情も、私の心を深く掴んで放してはくれない。
口下手な私は、ただ訥々とありのままに胸の裡を十六夜に告げた。十六夜は──

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「気まずい話題を振られたくないなら、最初から顔合わせなければ良いんだよね!」

 ひらめいたあたしは、当番を交替したりして、出来るだけ先輩と会わなくてすむように調整した。
 交換するときの理由は……あたしが考えつけられるわけもなくて、悔しいけどこれまた三郎に色々ネタをもらった。協力的な三郎は不気味だったけど、何か奴自身の面白がるポイントあるみたいなので今はよしとしておこう、うん。
 どうにもならないときも、とにかく二人きりになるのは全力で回避してきた。近くに他の誰かがいるときには、中在家先輩もそんな話はしてこないだろうから。

 そして、紗彩ちゃんの口からあれ以来中在家先輩の名前が出てくることはなかったけど、特別教室の掃除中、窓から見た。二人で何か話してるところ──
 紗彩ちゃん、頑張ったんだな。
 うまく、行くといい……な。そしたらあたしは、こんな頑張って先輩避けなくてもよくなるし。
 これまでみたいに──

「比菜子~、不破君迎えに来たぞ、このラブラブめ!」
「はっはっは、うらやましかろ?」
 からかってくるクラスメイトにふざけ返したけど、頭の中はぐるぐるしてた。

──これまでみたいに、何……?


「比菜子ちゃん、大丈夫?」
 雷蔵が、久しぶりに呼び捨てじゃなくあたしを呼んだ。

 その日の帰り。
 ちょっ早で荷物片付けて、廊下で待ってた雷蔵の所に走ってくと、雷蔵は何故かはっとした顔になって。でもその場では何も言わないで、昇降口まで降りてきた後になってから訊いてきた。
「大丈夫って、何が?」
「何がって……大丈夫なら、いいんだけど」
 奥歯に物が挟まったみたいって、こういう時に使うんだよね?
 思わせぶりな雷蔵の言葉に首を傾げて、傾げて──

「大丈夫じゃ、ないかも!?」
 
 あたしはさあっと青くなった。

「えっ?!」
「明日提出の被服の課題っ! ロッカーに入れっぱなし!!」
「ええっ(そっち)?!」
「ちょっと取ってくる!」
 ついてくるって言ってくれた雷蔵には流石に悪い気がして、ダッシュで教室を目指す。
 ただでさえ家庭科の成績よくないのに、提出遅れで減点なんて、目も当てられない。

 焦ってたあたしは、周りがよく見えてなかった。

 どしんっ
「っ!」
「っ!?」

 曲がり角で誰かと衝突。
 転ばなくて済んだのは、ぶつかった相手が咄嗟に腕を掴んでくれたからで。

「あ、す、いませ──?!」
──まずった!

 顔を上げたと同時にまた迂闊さを知った。
「十六夜……廊下を走るのは危ない、モソ」
「で、デスヨネ~……すみませんでしたっ! では急いでるのであたしはこれでっ!」
 頭を下げる勢いと挨拶のフリで、掴まれた腕をほどいた。
 踵を返して、後は全力競歩で──

──どんっ

 離脱することは、できなかった。
 どんって今の音は、あたしの進行方向が遮断された音。目の前を中在家先輩の腕が遮って、危うくその腕にぶつかりそうになった。

「十六夜」
「っ先輩!?」

 ニタァ、と中在家先輩は笑顔の様な表情を浮かべていた。

 ま・ず・い……! これは相当に怒ってる!

 くるり、反対方向に逃げようとしたのは、殆ど条件反射だった。

──どんっ

 すると今度は反対側も、塞がれてしまった!

「少しの話も聞けないか」
「ひぃっ!」
「十六夜」
「は、っはぃ!」
「近頃私を避けているな?」
「そっ……そんなメッソウモゴザイマセン!!」
「あ゛ぁ?」
 ギロリ。
 見下ろされた眼力に小心者なあたしの心臓はミジンコサイズまで縮み上がった。
「…………オッシャルトオリデゴザイマス」
「そうか。ふへっ……うぇっへっへへ」

 にぎゃーっ!? わ、笑ってる=ますますお怒りに!!
 神様仏様七松様……! ど、どうか中在家先輩のお怒りをお抑えくださいぃっ!

 追いつめられた壁際で、先輩の大迫力な笑顔を見返すなんてアリエナイし絶対ムリ!
 あたしはギュッときつく目を瞑って俯いた。

 雷蔵、らいぞー! この際三郎でもくくっちでもいい!(勘ちゃんは面白がって放置しそうだし、たけやんは迫力負けするからあてにしない)頼むから誰か何とかしてくれーーーっ!!

 とはいえ。

「ぉ、お兄ちゃん!!」
 パタパタパタっ
 可憐な声と軽い足音が耳に入った時は、さすがに「逃げて、超逃げて!」と思った。誰かわかんないけどどこかの可愛い妹さんを巻き込んで助けを乞うほどは落ちぶれちゃいない(えへん)!

 ……いや、助けてくれるならこの際見知らぬ赤の他人でも。
 いやいや、それはいくらなんでもダメだろう……

「お兄ちゃん!」
 思考という名の逃避をしてる間に、声はすぐ近くまで来た。
 いや、マジ逃げて! 誰かの妹さんっ!

「十六夜さんに当たらないでって言ったでしょ!」

 へ?

「……さーや」
 
 さーや。

 さあや……
 
 紗彩ちゃん!?

 あたしは恐る恐る片目を開けた。
 
 相変わらず両サイドは中在家先輩の腕。背後は壁。
 でも、圧迫感が薄れてるのは、中在家先輩の目が横の方に流れてるから。

 そこにいたのは、やっぱり紗彩ちゃんだった。
 紗彩ちゃんは頬を膨らませて中在家先輩を睨んでいた──そんな強気な態度なんて、ちょっと意外。でも、可愛い。
「思い通りにならないからって力づくなんてサイテイ!」
「む……」
「ほーら、う・で。早く外して!」
「だが……」
「はーやーくー!」
「……モソ」

 中在家先輩はしぶしぶ両腕を引っ込めた。
 自由になったあたし。
 けど何が何だかわからなくて、結局その場を動けなかった。
 ととと、と紗彩ちゃんはあたしの方に近づいた。
「あの……ごめんなさい、十六夜さん」
 目を伏せて謝る紗彩ちゃんは、あたしの知るいつも通りの控えめな感じの女の子だった。間違っても、誰かをしかりつけるなんてことしなさそうな。
「お前が謝ることではない、モソ」
 中在家先輩の表情も、見慣れた仏頂面に戻ってた。
 すごいな。
 紗彩ちゃんが、来たから──だよね。

 チクン。

 心臓のあたりを原因不明の痛みが襲う。き、緊張から急に解放されて一気に血の流れが戻ったせいか!?

「もちろん今怖い思いさせたこと謝るのはお兄ちゃん!」
「う……」
「う、じゃないでしょ!」
 紗彩ちゃんは中在家先輩には強気になれるみたいだ。
 ん……? ていうか。

「比菜子ちゃん?」
「あ、雷蔵……」
「なんだか気になって来ちゃった」
 反対側から声かけてきたのは雷蔵。
 できればもっと早く来てほしかった……けど、待っててって言ったのはあたしだっけ。照れたように頭を掻く雷蔵は、ちら、とあたしと中在家先輩、それから紗彩ちゃんの距離を見比べた。
「比菜子ちゃ──」
「十六夜さんっ!」
 きゅっと、制服の袖口を掴まれる。
 雷蔵の声を遮るように、紗彩ちゃんがあたしを呼ぶ。
「え?」
 紗彩ちゃんはいつかみたいに顔を赤くして、下を向いたままにまくしたてた。

「ごめんなさいごかいなのっ! 私ただお兄ちゃんのこと十六夜さんにアピールしたくてだけどちゃんと言葉に出来なくて! 私べつにそういう感情この人に持ってなくて、嫌いなわけじゃなくてむしろ大好きだけどそれってたった一人のお兄ちゃんだからでわたし十六夜さんの事も大好きだからふたりが仲良くなってくれたらうれしいなっておもっただけだったのになんでこうなっちゃったのかなぁ……」

「え?」
「さーや」
 言われた言葉、呑み切れないでいるうちに溜息を吐いた中在家先輩が紗彩ちゃんの頭を撫でた。
「落ち着け。それから手を離せ、モソ」
「だ、だって! はなしたら十六夜さん不破くんのところに行っちゃう」
「え……」

「モテモテだね、比菜子ちゃん」
「雷蔵!」
 雷蔵は笑っていた。
 さっきまでの中在家先輩みたいな笑い方じゃなくて、優しくてあたしが昔から大好きな、あったかい笑顔。で、目を細めて。
「あ…………」

 唐突に、気が付いてしまった。
 雷蔵の呼び方が、さっきから元通り。オツキアイ前の呼び方に戻ってること。
「姉小路さん……だっけ? 比菜子ちゃん被服の課題を忘れたらしいんだ。ロッカーの場所わかるかな?」
「不破くん……?」
「すぐ戻ってくるから、何かあったら僕を呼んで」
 雷蔵は言ってから、初めて中在家先輩を見上げた。
「すぐ戻りますから、比菜子ちゃんを泣かせたりしないでくださいね」
「っ雷蔵!」

 中在家先輩を挑発するみたいなこと言い放った雷蔵は、ごく自然にあたしの袖口を掴んでた紗彩ちゃんの手を取って歩き出した。
 残されたのはあたしと、目をぱちくりさせた中在家先輩──

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「バカだな、お前」
 経過を聞くなり嘲笑ったのは勿論三郎だった。

「どうせならそんときに付き合ってる宣言しときゃ良かったんだろうが」
「──! それは、そうなんだけど!!」
「それとも何か、言えない理由でもあるのか?」
「別に、そんな……!」
「雷蔵や私を巻き込んでるんだ、詰まらん幕引きは認めんからな」
「詰まるとか詰まらんとかの問題じゃないわ!!」
 ムカついたからグーで殴った。

 言われなくても、何なん、自分? って思ってるわ。

 そもそもあたしと雷蔵が付き合ってるって噂は前からあって、どこからか(ていうか明らかに三郎から)現状聞き付けた勘ちゃんとかは、
「もっとベタなアピールすれば良いじゃん♪ お弁当あーん、とかさ」
なんて面白がった。でもその提案は──

「ばっかお前。そんなん付き合う前からやってるぞ、コイツら」
「ナニソレ、幼馴染み怖い」
「勘ちゃん入院中だったから知らないんだな。だから付き合ってるとか噂が出たんだよ」
「三郎もあったしな、あーん、事件」
「事件と言えば事件だが……こいつの壊滅的な魚の身のほぐし方見たら、誰だって手出ししたくなるだろうが!!」
「っ悪かったねぇ!」
「僕も魚の食べ方巧くないから、やっぱりそういうのは三郎になるよね」
「雷蔵……」

 そんな風に茶々を入れられながら、あたしと雷蔵のオツキアイは続いていた。

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「あれ、十六夜先輩当番じゃないのに珍しっすね」
 放課後、図書室。

 顔を出すときりちゃんが目を丸くした。
 悪かったなー、図書委員のクセに図書室の似合わない先輩で。

「あたしの目が届かないところでもきりちゃんが真面目にやってるか見に来た」
「なんすか、それ。十六夜先輩はともかく、中在家先輩いるのに手抜きなんてできるわけないじゃないっすか」
 生意気に半目で見てくるきりちゃん。ちょっとくらい乗ってくれても良いじゃんか。

 それはともかく。

 今日の当番は中等部がきりちゃんと怪士丸、高等部は中在家先輩とそれから──
「比菜子、早いね。どこかで時間潰してても良かったのに」
「なんだ、雷蔵先輩と待ち合わせっすか」
 きりちゃんは興味を失ったようにカウンターの奥に引っ込んだ。
 勿論、雷蔵も今日の当番の一人だった。でなきゃわざわざ当番休みの日にまで図書室には来ない。
「様子見に来た。雷蔵もカウンター?」
「うん。ここで待ってる?」
「じゃ、そうする~」
 あたしは荷物を適当な机に置いて、書架から重たい画集を持ってきた。普通の本なんて読んでたらお休み5秒だし、真面目に自習なんて柄じゃない。暇潰しっていったら、こういう眺めてるだけでいいのしか思い付かなかった。

「え──十六夜先輩!?」
 怪士丸にまで驚かれたし。

 閉館五分前。

 残ってる生徒の追い出しが始まって、カウンターの辺りは貸出と返却でバタついてる。
 返却棚に溜まった本を抱えて、カウンター当番じゃないほうの二人が書架の間を行ったり来たりしていた。
 カウンター当番じゃないほうの二人──中在家先輩も。

「……」
「……」

 あたしはペコリと会釈した。
 中在家先輩は何か考えるみたいな目であたしを見下ろしてくるけど、会釈を返して重たい本の片付けに入ってしまった。
 私語厳禁の当然の対応。
 だけど、あれ? 何かがしっくりこない……

 ……

 …………

 ………………

「……ま、いいや」
 考えてもわからないならしょうがないし。

 考えてる間に利用者はどんどんはけてく。あたしも何描いてるのかよくわかんない画集を閉じて、帰る準備をすることにした。


 画集のある書架の辺りは、元々利用者が大していないせいでいつもろくに隙間がない。あたしが図書委員じゃなかったとしても、本を戻す位置はすぐに見つけることができた。
 画集をそこに押し込んで、振り返る。

「──っ!?」
 ビックリしたぁっ!!

 目の前に、壁ができてた。

「……」
 いや、壁じゃ、ない。

「十六夜、モソ」
 中在家先輩、だ。

「この後、少し残れるか、モソ」
 図書委員長の中在家先輩が閉館間際とはいえ図書室で私語なんて……!!

 じゃ、なくて。

 カウンターからは死角。後ろは書架。目の前には、先輩の制服──近すぎて、顔を思いきり上向かせなければ先輩の表情は見えない。

 ち、近すぎる……!

「~っにか、急ぎの仕事ですかっ?」
「いや、モソ…………時間は、あるか、モソ」
 いちるの望みをかけて絞り出した言葉は、速攻で否定されてしまった。
 て、事は。

「……」
 あたしは自分の迂闊さを呪った。
 雷蔵と付き合ってますアピールをすることに気を取られ過ぎて、こないだ変なところで先輩の話をブッチした事忘れてた……!

 さっきの「あれ?」はこれだったのか!!

 自意識過剰の思い過ごし──なんて笑い飛ばせないのは、逃げ場のない今の状況とか、モソモソしてる中にそこはかとなく感じる色気というかなんというか……ゴニョゴニョ。

「……」
「……」

「比菜子、どこだい? そろそろ閉館するよ」
「雷蔵!」
 雷蔵の声は、まさしく天の救けだった。

 隣の通路を覗いてたらしい雷蔵は、あたしの声を聞いてすぐこっちに来てくれた。
「……中在家先輩?」
 あたしじゃなくて中在家先輩がまず目についたらしく、雷蔵はきょとんとした声をあげる。

「雷蔵、か……モソ」

「あ、あのっ、約束があるので!」
 あたしは口早に断ると、先輩の前から抜け出して雷蔵に駆け寄った。
 状況を察したらしい雷蔵はあたしの肩を引き寄せて、
「慌てると危ないよ」
ニコッとあたしを安心させる笑顔をくれた。

「…………」
 背中に刺さる、中在家先輩の視線。雷蔵は申し訳なさそうな上目遣いで先輩を見上げる。
「すみません、先輩。比菜子は僕と一緒に帰る約束なので」
「…………わかった、モソ」
 溜め息が、落ちた。
 中在家先輩の視線が剥がれて、荷物を置いてた机に戻るまで、雷蔵はあたしの肩を放さなかった。

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