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「ちょっとそこのお姉さま♪」
 ユキヤが声をかけられたのは、一人で商店街を歩いているときだった。

「おもしろ~い相をしてるわね。まるでこの世界の外側を知ってます、みたいな珍しい気配」
 浮き浮きとした声の主は、一目でシルターン系の召喚獣とわかる容姿の少女。ユキヤが足を止めると、ばっと背後に構える物を腕で示した。
「ここで袖振りあったのも何かの縁! シャオメイちゃんの所で1つ運試しでもしてみな~い?」

 赤を基調とした派手派手しい建物。そんなものが路地裏に突然どでん、と存在するのだから、呆れてしまう。つい先日通りかかったときには、こんな目立つ建物は存在しなかった。

「お嬢ちゃんこそ、龍殺しとか何本も飲み干すうわばみの相が透けて見えるよ」
「ぎ、ぎくっ! シャオメイちゃんお子様だからわかんな~い! そ・れ・よ・り、当たるも八卦当たらぬも八卦、今なら特別お試し特価! で籤を引かせてあげちゃいますぅ」
「特価……なんだ?」
「そ! 大特価!」
 シャオメイはふふん、と胸を反らした。
「いつもならお題はおいし~い飴玉ひとつ! お願いするところなんだけどぉ、今回は特別、金平糖一粒で引かせてあげちゃう!」
「こ、金平糖……?」
 ユキヤが歪な笑顔になったのは、指定されたものが理解できなかったからではない。
 留守番しているコーラル達へのお土産にと、先ほど入手したばかりの物だったからだ。

──なんでわかってるんだ、このヒト……ていうかメイメイさん。

「えー、その……一粒、で、いいんだよね?」
「おーるおっけー、じゃ、こっちへどうぞ~」

 一人分ずつ小袋で買ったのであれば応じることはできなかった。が、量り売りでまとめ買いしたので一粒くらいなら問題はない。恐ろしいのは、それさえ見越したようなシャオメイの要求だった。
 ピンク色の金平糖を嬉しそうに口に運んで、シャオメイは見覚えのあるスクラッチ籤を一枚ユキヤに手渡した。
 ゲームの画面ではともかく、改めてリィンバウムでスクラッチ加工を目にすると異質である。ユキヤは深く考えないように思考に蓋をして、銅貨で適当に丸い銀色を擦った。

 結果は──

「……大当たりい~♪」
 カランカラン。
 他に誰もいないのにわざわざ鐘を鳴らしてシャオメイはユキヤを祝福した。

「え~と、今日の特賞は……黄太鳥の鞄ね♪」
「き、黄太鳥……!?」
 聞いたこともない生き物の名前。ユキヤは自分の知る限りのメイトルパの召喚獣を思い出し、次に、勢い余って思い浮かんだ胡麻通りの大きな黄色い鳥のイメージを頭を振って追い払う。いくらなんでもない、それはない。
 するとシャオメイは、得意げになって説明した。

「かつて名もなき世界に存在したっていう伝説の黄太鳥をヒントに作られた万能鞄よん♪
 黄太鳥っていうのはぁ、黄色くて太った鳥の事で、ギサ……ギザギザの野菜? とかそんな感じの名前のお野菜が好物なの! ふつうの消化する胃袋の他に、物を溜め込んでおける不思議な器官を持ってて、持ちきれない荷物の預かりサービスとかに使われてたらしいわ。
 一説によると、その不思議な器官は異次元に繋がっててて、他の黄太鳥との間で物の共有もできてたととか言われてるの!」
「それってまさか……デブチョコボ?」
「そうとも言うかもね。さっすがお姉さま素敵にも・の・し・りなんだからぁ♪」
「……(そうか、この人やっぱ何でもありか)」
 けたけた笑うシャオメイに、ユキヤはがっくりと項垂れた。

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 一人で泣いていた私は幼子で、たまたま通りかかった医者に拾われて養子となった。

 その世界ではあらゆる住民がデータベースに登録されていて、登録されていない人間は裏社会の中でも更に忌避される「人でなし」扱いだった。
 私は拾い主が変わり者の医者だったおかげで、年齢は若干細工されているものの、一般人としてデータベースに登録されることになった。
 私は毒殺された失敗を教訓に、普通の読み書きを学ぶ傍ら薬品に関する研究に没頭した。
 学校には通わなかった。

 年端もいかない子供がやることではなかったけれど、普通でない育ての親は、私の好きなように学ばせてくれた。その普通でない育ての親が医療系ハンターだと知ったのは、拾われてからゆうに十年は過ぎてからの事だった。
 まだ成長期とはいえ身体もだいぶ出来上がり、薬物に関する研究もだいぶ進んだ頃、彼は私にハンター試験の受験を勧めてきた。
 研究分野は裏世界から狙われるような危険な物──自身の身を守るためにも、今後の研究費用を確保するためにも、プロハンターになっておいて悪いことはない、と。

 私は勧め通りハンター試験を受験し、これまでの世界の経験を活かし一発合格を決め、うっかりと幻影旅団の誰かさんと知己を得てしまった。
 試験中のくじで一時期パートナーになってしまったんだからどうしようもない。

 ライセンス取得後その足で家にとって帰り、育ての親に念の師匠になるよう頼み込んだ。
 念を起すところまでは比較的簡単だったけれど、それをきちんとしたものにするまでにはなんと一年半も掛かった。成長速度鈍化のデメリットがこんなところで幅を利かせたらしい。
 開花した念の系統は操作系──私は最初に、自分の身体能力を向上させるための発を作り出した。
 制約や誓約についてはおいとくとして、その能力は「セルフオーバーコントロール」念の発動媒体は、BASARA者らしく天花六花にしておいた。

 シャルナークを始めとする幻影旅団からは度々狙われるようになっていたけれど、彼らが欲しがったのが単なる研究成果ではなくて研究者そのものだったおかげで、私の命は無事だった。
 過去の拷問史で登場した毒の調査だとか、盗み出した骨董品に含まれていた未知の毒物の解析だとか、ただ調べるだけの内容であれば多少は協力した。フィンクスがその未知の毒にうっかり侵されてしまったしまったときはもう……うん。流石に助けないわけにもいかないかと思って旅団のアジトの一つに大人しくついて行ったよ。
 そんなことを続けているうちにゾルディックからも声がかかるようになった。
 ちゃんと表の医療向きの製薬とか薬効の発表とかだってしてるのにだよ? お得意様が賞金首だらけっていうのは医者の養子としても医療系ハンターとしてもいただけない。

 あぁ、そういう連中ばかりじゃなくて、研究材料採取中にかの有名なジン・フリークスにも会った。
 あれはまだハンター試験受験前だったか後だったか。弟子が秘境の毒虫に噛まれたからって連れられて行った密林では、カイトが片手の指では足りない多種多様の毒物に当たって半死半生になっていた。毒虫に噛まれ、刺され、毒蛇に噛まれ、傷口から毒花の花粉が入り込み、更には毒草の汁が溶け込んでしまった水を口に含んでしまったらしい。あれは別の意味で苦労した。
 立ち直った後カイトがジンの弟子を辞めず、ハンター試験に合格してプロハンターになったのはある種の奇跡のように感じたよ。

 マフィアやらゾルディック家やらその他の暗殺稼業の連中やら、そうじゃなくても面倒な客だらけで疲れ果てる私に、クロロは「最初から旅団の専属になってしまえばよかったんだ」等とのたまった。絶対面白がっていた。

 この世界でのゲームオーバーも、やっぱりこの面倒なお客さん達がきっかけだった。
 彼ら同士の抗争に巻き込まれて、とばっちりでウヴォーギンの大声を浴びた。
 慌てていた私は周りに注意しないまま抗争圏から離れるためにセルフオーバーコントロールを発動してしまい──驚いた顔をしていたから、向こうに害意はなかったんだと思う。もしかしたら、私が動けないと思って、逃がすために操作媒体を打ち込んできたのかもしれない。

 でも。

 連続稼働時間10分が、この発の制約。

 発動中に他からの操作を受けた時には操作も記憶の読み取りもできないような肉塊となるのが、この発の誓約。

 私は彼らの目の前で、肉の塊になった。


 ほんの一瞬の出来事だった。

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「説明になってない!!」
 無駄だとわかりながら叫ばずにいられなかった。

 私自身のフラグ? ゲームの大団円じゃまだ足りない?

 途方に暮れる私は、これまでで一番小さな子供の姿に遡っていた。


 四つ目の世界は、和風だった。

 シャオメイのくじで当てた太黄鳥(……)の鞄のおかげで殆どの持ち物を持ち越せた私は、盗み見した人達の恰好に合わせて、着物に着替えてから人里へ降りた。
 ぶかぶかなのは仕方ない。

 そこで物陰に隠れている同じくらいの大きさの幼児を慰めたことで、この世界での私の身の置き所は確定した。

 幼児の名前は梵天丸──金髪じゃないから戦国無双ではないな、ということだけわかった。
 梵天丸の片目の有様を見ても物怖じしなかったことが気に入られて、私は梵天丸の付き人兼遊び相手として伊達家に引き取られることになった。とんとん拍子に話が進んだ後で、性別を誤解されていたことが分かった。
 教育係は乳母の喜多さんとその弟である景綱さん──小十郎さんだ。
 私の他に、時宗丸という同じ年頃の男の子が梵天丸の学友として講義を受けたり身体を鍛えたりしていた。

 最初喜多さんは女と分かった以上もっと侍女的なスキルを私に身につけさせようとしたみたいだけど、武器の扱いに関しては●日の長がある私が課題をこなしてくのを見て梵天丸や時宗丸が奮起するものだから、私個人の育て方よりも次期当主の成長を重視して、八割がた二人と同じ教育を受けさせてくれた。
 残りの二割は着付けだったり、女としての必要最低限の教育に充てられた。

 三人で縺れ合うように転げまわって成長して、ある時はっきり理解した。
 この世界は戦国BASARAだ。

 元服して政宗になった彼はBASARA者としての才能を開花させ、奥州筆頭の座に上り詰めた。
 成実──元服した時宗丸は生憎とBASARA者ではなかったけれど、一般武将としては優れた才能を現して政宗をよく補佐していた。ゲームでは小十郎さんばかりがクローズアップされていたけど、成実も伊達軍にとってなくてはならない重鎮だった。
 私は、と言うと、勿論BASARA者になった。魔法剣士特性なんだから当然。属性はペルソナ通りの氷。ただ、ペルソナや紋章や召喚獣に頼らない純粋なBASARA者としての能力は成長が遅くて、危惧した政宗や小十郎さん、成実達から単独行動は口が酸っぱくなるくらいに禁止されていた。
 形振り構わず戦えば強いんだけどね、特に召喚獣とか目をつけられると要らない火種になるので、戦の時は言われた通り三人の誰かと並びあって刀を振るった。

 刀は双刀で、政宗が奥州筆頭の呼び名を得た時に、「これからもついて来い」と言って贈ってくれたもの。
 扱いは家臣なんだから、下賜されたってことになるのかな。名前は天花六花──勿論、武器自体にも氷属性がついている。その後の世界でも特に支障ない限りはこれを装備していることが多いかな。政宗が直々に選んでくれただけあって、とても使い易い刀だった。

 政宗の六爪流と私の二刀流はある意味対として近隣の武将に恐れられるようになった。
 勿論、小十郎さんは竜の右目として抜群の存在感。単に男女ペアで、二人揃って両手に刀という戦闘スタイルが目立ってしまっただけの事だった。

 小田原遠征を勝利で飾り凱旋したその夜──政宗は言った。

「焦らすのも程々にしてやんな。jealousyで枕を濡らすところなんざ気色悪くて見てらんねぇぜ」
「気色悪って! どういう意味だよ、梵」
「言われなきゃわかんねェってか? おいおいjokeは止してくれよ」
 両手をあげてニヤニヤ笑う顔は憎らしかったけれど、言われた意味は分かっていた。

 景気づけに手元の杯を飲み干して、仏頂面で立ち上がったところまでははっきり覚えてる。

「怖気づいたか? no problem,万一の時は胸くらい貸してやるさ」
 そのまま動きを止めた私に、政宗が軽口を寄越したことも。

 だけど。

「Hey! ユキヤ! What's happened?! しっかりしろ!」

 私の視界はそこで暗転。

 遠ざかる意識が認識できたのは、取り乱した政宗の叫び声と、あ、毒を盛られたんだ、なんていう他人事めいた感想だけだった。

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 私はまた子供の姿に戻っていた。

 今度の場所は、旧街道沿いの鄙びた宿場町。湖こそ近くにあるけれど、潮の香りは遠い、内陸部だった。

 字幕が宣言した通り、そこは長閑なところだった。
 町の顔役はどこかのフィンガーフート氏みたいな身勝手ではなかったし、駐在武官が一人しかいなくても、町はきちんと機能していた。
 正式な学校はなく、穏やかそうな退役軍人の先生が開く私塾に私も通った。そこで召喚術の素養を見出だされ、顔役であるブロンクスのおじ様からも召喚術について学ぶようになったのが身体年齢十二、三歳くらいのこと。
 それから一年と少しで、機属性の才能はないからと紹介状と共に金の派閥本部に送り出された。

 田舎の子供である私には知らされていなかったことだけど、その少し前に、召喚師の失踪事件があったり傀儡戦争という悪魔との戦争があったりで、本部のある聖王国辺りでは召喚師の数が少なくなっていた。
 世襲が基本の召喚師の家系でも、跡取りの心配が出ているようで、私みたいな素質のある子供が派閥に集められたのには養子縁組という狙いもあったようだ。

 私は──けれど、相性のアンバランスさが興味を引いたらしく、議長直々の指導を受けることになった。
 美人でスパルタな議長様は多分、私が宿してるペルソナや紋章にも気付いていたと思う。だってファミィ様だもの

 ファミィ議長の下で修行を積んで、二、三年はファナンに隠った。
 修行を始めた見習い召喚師が修了前に派閥から遠出を認められるのも珍しいことだけど、四年目に里帰りを認められた。
 ファミィ様の仕事が立て込んだのが建前。派閥内部のゴタゴタから遠ざけてくれたのだとは、親しくなったミニス嬢から聞いた。

 それにしても、このタイミングでそんなゴタゴタが起きたのは誰かの恣意的なものに思えてならない。

 里帰りしたその夜、トレイユの近郊に流れ星が墜ちた。
 竜の子と響界種を巡る事件の始まりだった。


 私塾の後輩だったり、ブロンクス家の兄弟が深く関わっている事件に私が巻き込まれない筈もなく、私はファナンへ戻る機会を失ってしまった。
 コーラルは可愛くて良い子だ。

 行き掛かり上家じゃなくて面影亭で寝起きすることになった私は、宿代稼ぎも兼ねて、ちょくちょくシャオメイのお店を利用した。兼ねてるのは勿論、私のレベル調整だ。
 このシャオメイの店で取得したアイテムは、その後の世界でも重宝するものが多かった。

 ユニット召喚は霊属性しかできないでいた私が、鬼属性のユニットも召喚できるようになったのは、無限回廊で疑似鬼界の魔力を体感できたお陰だと思う。機属性や獣属性の召喚スキルも多少は上がったけれど、多分私につけられた能力特性オプションなんだろうな、そっちのユニットは一向に召喚できそうな気配はなかった。

 魔法剣士特性を選んだとき、私は一部の属性に制限を掛けることで別の属性の成長上限を緩める事を選択した。
 世界により設定されている属性が違うので、どの属性が制限されたのかは世界に出てみてからじゃなきゃわからない。例えば、火の紋章や雷の紋章が低威力でしか発揮できないのに、流水や旋風の紋章なら高威力で応用まで効いたのもそのオプションのお陰。
 召喚属性としては、霊属性特化は早い段階でわかってた事だけど、一番制限を受けてるのは……獣属性。気付いたのもやっぱり無限回廊の中でだった。



 私の歪な魔力バランスは、トレイユ組はともかく、御使い達からは警戒対象だったみたいだ。

 最初に遭遇したデコ天使──もとい、リビエルは相性がいいのかジャックフロストが見えてるみたいで、変なものを憑けた私が主の側に居ることを物凄い勢いで拒絶した。
 そんなこと言われても……ジャックはコーラルの遊び相手でもあるし(コーラルに見えてても不思議には思わなかったんだよな、何故か)キャンキャン騒ぎ立てる金切り声はコーラルのお気に召さなかったらしく、鬱陶しがられてリビエルは落ち込んだりますます私を憎んでくれたりした。
 取り成してくれたのはルシアンだ。後は群島名物のおまんじゅうを振る舞ったりしてどうにか懐柔した

 セイロンは……どうだろうな。表向きあまり露骨な警戒反応は見せなかったけど、かなり長い間観察する視線を感じた。アルバとシンゲンが仲間になった辺りで漸くかな、視線から冷感がなくなったのは。

 アロエリはリビエルと似たり寄ったりだった。
 流石にジャックまでは見えてなかったようだけど、本能的に異質な魔力を感じ取って、でもそれがなにかよくわからなくて、苛々したらしい。リビエルとセイロンからの情報だ。
 アロエリに関しては何がどうして緩和されたのかよくわかんないんだけど……フェアを認めたから、フェアが太鼓判押してくれた私のことも一応は容認してくれたってところかな。

 それにしても、こうまで警戒されるんじゃ、魔力を抑える事を身に付けなきゃいけないだろうな。
 そう思い立ったことも、リィンバウムに来たからこそだ。

 群島では、ジャックの存在を覆い隠すように流水の紋章を宿した。
 おまけで旋風の紋章がついてきて、瞬きの紋章は趣味だ。
 紋章師じゃない私に紋章を付け替える力はないから、これからずっと、この三つの紋章と共に生きてくことになるんだろう。
 つまり──今度はジャックだけじゃなくこの紋章についても、うまく誤魔化す方法を探さなきゃいけないわけで。もっと上位の力とか言ってたら、逆に悪目立ちしてしまう。
 殲滅者アシュタル? 聖鎧竜スヴェルグ? そんなん常駐させてたら余計警戒されるわ

 気のコントロール、ということで、その辺りはセイロン、シンゲンのシルターン組が力になってくれた。
 お礼にはやっぱりおまんじゅうを所望された。やったねカトル! 群島のおまんじゅうは世界を越える評価だよ!

 後半になると、巡りの大樹自由騎士団創成メンバーであるルヴァイドやイオスも参戦してきたので、すっかり大所帯になった。
 あれ、こんな展開だったっけ? とか思わないでもなかったけど、本人達が良いと言うのだから大丈夫なんだろう。
 魔力を抑える訓練も落ち着いてきたことだし、人数が増えたことで見直すことになった襲撃警戒班の当番ローテでは、前衛改め召喚師枠で組み込んでもらうことにした。

 出来上がった当番表を皆に見せたら、いつの間にかユキヤ=見習い召喚師の称号は皆から忘れ去られていたらしく、ブロンクス兄弟にまで「あれ」なんて顔をされた。
 確かに、標準装備が片手剣で鋼の軍団と物理で渡り合ったりもしてたけど、私、君達のお父さんの口利きで金の派閥に行ってたんだけどなぁ?
 

 そして同じ頃に、もう一つの転機があった。

 それは、ギアンの仕掛けてきた、マナ枯らしという病。生粋のリィンバウムの人間にだけは抗体がないという、ご都合主義的な病気
 トリップ時リィンバウムの存在ということになってる私の場合はどうなるかと思ったけれど、影響はなにもはなかった。マナ枯らしに苦しむ仲間達の介護や、不安がる若年召喚獣組を宥めて、解決策捜しに奔走する双子や成年召喚獣組をサポートするのが私の仕事になった。
 双子には御守りのブレスレットがあったから、それで発症を免れたんだって思われてた。私には傍目なんの根拠もなくて、そりゃあ警戒して外には出さないようにするのも道理だった。

 本当は、試してみたいことがあった。

 けど失敗すると余計に苦しめることになるから実験台になってとも言えず、とばっちりを受けた赤き手袋の暗殺者でも町外れに転がっていたら、拾ってきて実験台になって貰おうかと考えていた。召喚術やリィンバウムの術では逆効果、なら、紋章術では──?
 問題が解決した後でシャオメイに訊ねてみたら、やっぱり、回復するか悪化するか五分五分の確率だったろうって言われた。仲間で試さなくてよかった。

 だから窮地を救ったのは、定石通り、双子の祈りがもたらした慈雨。
 快癒の後で、ギアンから双子の素性──響界種であることを突き付けられ、仲間達の間には何とも言えないぎこちなくぎすぎすした空気が漂った。
 その空気を和らげたがったのか、これまで敢えてスルーしてたものが飽和してしまったのか、私は「じゃあ何でお前は平気だったんだよ!?」と仲間達から総突っ込みを貰った。

 私はものすごく大雑把に、私の置かれている境遇を明かした。
 元々召喚とか名もなき世界とかの概念がある世界だ。私がその名もなき世界のどこかから不思議な力で生まれ直した(?)存在だとしても、そのせいで距離を置かれたり疑われたりすることはなかった。むしろ、そんな事かとがっかりされた。ちょっと理不尽。
 まぁそれはそれとして。

 それぞれの不安だとか葛藤を乗り越え、結束はむしろ強くなった。

 諸々あって(狂血の呪いを掛けられたカサスに母なる海使ったら、思いがけず凶暴化が収まった。ちび共にむちゃ感謝された)和解したエニシア派ご一行を交えての最終決戦──フェアとエニシアの涙ながらの訴えとか、ライの激情を乗せた拳とかで見事ギアンを改心させることに成功した。
 助っ人に現れた超律者がライフェア同様の双子だったことには驚いたけれど、とにかく大団円。

 これで漸く家に帰れる──とは思わなかった。群島諸国での十年余りとリィンバウムでのこの十数年。経験した物事は、現代日本での「普通の生活」に帰ることへの自信を喪失させていたから。
 いや、まぁ、家に帰ることに自信も何もないんだけどさ? 

『ハッピーエンドを迎えた後、帰還を希望された方には元の世界・元の時間にお帰りいただけます』

 それが字幕の告げる条件だった。

 だとすれば、今望めば家に帰れる?

 この血に塗れてしまった私が?

 それよりもコーラル達の成長を見守ってリィンバウムに留まる方が幸せじゃないだろうか──


 そんな風に迷っている間に、視界が暗転した。

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 二つ目に飛ばされた先は、海と共に生きる町だった。十歳そこそこの子供になっていた私は、その町で士官学校に入学し、そのままガイエンの誇る海上騎士団の一員となった。
 幾つか下の後輩に、領主の子息だとか小間使い扱いのあの子とかがいた。いわゆる4様は拾われ子同士でもあり、それなりに私になついてくれた。名前がそのまんま「カトル(quatre)=4」だったことには初対面時絶句してしまったけど。

 ペルソナ使いとしての経験と、対アクマの戦闘経験は、士官学校の成績や海上騎士としての活動にも有用だった。
学費に関わる負債は、在学中のアルバイト、モンスター退治や卒業後数年の働きで完済できた程だった。それがカトル達の卒業と被ったのは偶然だったけれど、私は完済と同時に騎士団を辞した。
 本格的な戦乱になる前に、群島の島々を訪ねておきたかった。

 某商会とは違う商船の護衛としてミドルポートからオベルを目指し、ネイ島に向かう所で王様にはとても見えないおっさんに捕まる。いや、とても見えなくともそれが王様なんだけどさ。
 そこで何が気に入られたんだか、岩壁の隠れ家サロンとの連絡係を任命されたり、弓兵であるお転婆姫の護衛として彼女の哨戒任務に同行させられたり。まあ後者は多分、歳の近い戦う同性が余りいなかったせいだとは思うんだ。
 オベルに馴染んでる私を見たときの、みんなの唖然とした顔は面白かったなぁ。

 そこから先は結局ゲーム沿いに話は進んだ。カトルはサロンに集められた仲間達のリーダーになる事を固辞しようとしたけど、そこは先輩特権で強引に押しきった。だって私の役目は半分姫様の茶飲み友達。本拠地──本拠船が出航するときも、私も半ばオベルへ留まることになる気がしてた。
 そうならなかったのは、姫がそう望んだから。だから船出から先は、大体カトルと一緒に行動した。
 エレノアさんとこ行ったときは、大丈夫だって解ってても薬入りの食物を摂取する気にはなれなくて、振りで誤魔化したけど(軍師様には猿芝居と言われた。ヒドイ)。
 あの霧の変な船にも、勿論乗り込んだよ。
 私としてはアルドがお勧めだったんだけど、リノ王とカトル、二人がかりで指名してきたんじゃ流石に断れない。余計なことペラペラ喋る船長をみんなで吹っ飛ばして、ちょっとばかりトゲトゲしてるテッドおじいちゃん(笑)を確保した。

 霧の彼方に消えていただいた船長と、そのあと仲間になったジーンさん、それからレックナート様は私が純粋なその世界の存在ではないことに気付いてるようだった。船長はぶっ飛ばしたし、ジーンさんは言いふらすよな人じゃないし、レックナート様は……レックナート様だから仕方ない。
 本来はカトルが寝てるところに現れるはずのレックナート様が、カトルとお饅頭の試食会してる最中に現れたとしても。言いたいことだけ言って消えてきそうなレックナート様の口にお饅頭を突っ込んだのは、別に腹いせじゃありませんからね? ふふ。

 あと、何かあったかな……あぁそうそう。ペルソナを誤魔化すために流水の紋章と瞬きの紋章を宿したんだっけ。魔術師系統の疑り深い奴とか、天間星とか天間星とかが気にしてたから。
 そうしたら紋章砲の砲手としてもう一属性くらいつけろと言われて、なし崩しに旋風の紋章まで割り当てられてしまった。烈火とか雷鳴は……うん、持ち腐れになるからね。そして大地は、単に在庫がなかったんだ。

 装備で優遇されたし、昔馴染みの気安さから海戦でも通常戦闘でもかなり酷使された。
 お陰で成長速度遅めってどういうことだっけ? と言いたくなるくらいにはグイグイレベルが上がっていった。勿論、同じくらい酷使されまくってたタルやハーヴェイ、何よりカトル自身はラズリル奪還時点でとっくにレベル完ストしてたんだけどさ。
 私のレベルは大体出動回数が3分の2くらいのジュエルやシグルトと同じくらい。あのまま騎士団に所属してたら、私の成長の遅さはもっと際立ってただろう。

 そしてラスダン──私でさえレベル完スト目前でのエルイール潜入は、軍師様の護衛という重責まで預かってしまった。
 それがいけなかったと言えばいいのか、どっち道どうしようもなかったと言うべきか、この世界の私の記憶は、エルイール要塞の中で途切れている。
 肝心の時に魔力切れで、崩落する要塞から脱出しはぐってしまったから。

 瓦 礫 に 押 し 潰 さ れ る ──!!

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