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「え、何ちょっとそれ本気!?」
 モニターの前で、彼女は期待を込めた声を発した。

──態々こんなところに引き込んで、冗談と言うのは大掛かりすぎだと思いますが。
 やれやれ、と言いたげなペンギンのイラストから、皮肉げな文字が吐き出される。

──鈴木菊様。確かに当機関のvariabletravelに当籤されておいでです。

 モニターとそれを乗せる台しかない、奇妙な空間だった。
 椅子もなく、モニターは彼女の顔の高さなので仕方なく、立ったままペンギンの説明を眺めていた。
 曰く、幸せ探しの異世界旅行権に当籤したのだと。

「異世界トリップってことは、向こうと釣り合う年齢に若返ったり、トクベツな力がもらえたりする感じ?」

──若返り……と気にされるほどのお歳ではないのでは?

「十三、四の子達から見たら二十歳過ぎてる時点でおばさんなの!!」

──つまり、そのような年齢層のお相手を希望されるということですね。理解しました。

「何かムカつくわね。例えばよ、例えば!」

──訪れていただく世界の状況に応じて、旅立たれた先の開始年齢は変更されます。少なくとも、現在の年齢より歳上からのスタートはございません。

「んー……場合によっては若返るってことね、ならいいわ」

──特殊能力についてですが、魔術師特性や剣士特性等を選んでいただけます。

「魔術師……? 何か打たれ弱そうでやだな。剣士とかって、脳筋職って感じだし」

──この二つは人気の定番特性なのですが……

「折角釣り合う年齢になるんなら、それを堪能できる設定が良いわね。どんな世界に行けるの?」

──……左様ですね、世界の片鱗を御覧頂く方が、特性付加の必要性をご理解頂けるやもしれません。

 ペンギンは頭を押さえ、画面からフェードアウトした。
 代わってモニタに映し出されたのは──


「決めた!」
 彼女が叫んだ瞬間、見ていた映像は掻き消えて、再びペンギンが現れる。

「そういう世界なら、王道は決まってるじゃない!」

──と、仰られますと?

「学園の中のやさしいお姉さん! それっきゃないわ」

──家政婦属性やメイド属性を御希望でしょうか?

「は? 誰がそんな下働き」

──それではどの様な?

「だから、折角あんなステキな所に行けるんなら、みんなと平等に仲良くなりたいでしょ」

──……それは所謂、逆ハーレム属性ということでしょうか?

「そんな節操ないこと言わないわ。外に出る必要なんてないもの。学園の中──生徒と担任の先生方位までで良いわ」

──……生徒と、担任の先生方、ですか。

「あ、もちろん女の子は別よ。女の子達に囲まれたせいで仲良くなるチャンス持ってかれるなんてナンセンス」

──成る程。しかし、感情に作用する設定は、その他の特性よりも色々と制限事項がございます。

「例えば?」

──元々特定の相手と強い絆を持つ相手には殆ど効果がありません。

「……まあ、仕方ないわね」

──それから、特異な経験をしてきた者の中には、こちらの干渉に耐性をつけている場合があり、やはり効果は期待できなくなります。

「それってどのくらい? 流石に八割とか言われたら考えるわ」

──…………一割程度でしょうか。

「なら誤差と思って諦めるわ」

──そして、干渉を受けていない者との強い絆を想起させる出来事があると、効果が解けてしまう場合がございます。

「は? 何それどういうこと?」

──例えば、殴りあいで友情を確かめ合うケース等。相手が干渉の外にいる者であった場合、常日頃のコミュニケーションとして殴りあいを実行した後、干渉が解けてしまう事がございます。

「……両方が影響受けてたら関係無いわけよね?」

──……左様ですね。

「なら大丈夫でしょ。あ、影響解けたらどうなるの? いきなり嫌われとか両極端なのはやなんだけど」

──反動が起きるかどうかは夫々でございます。干渉エネルギーの総量は一定ですので、残りの対象への呪縛はより強まることもございます。

「ヘエええ。裏切り者が出た分!気持ちが高まるって感じ? そういうのも素敵かも!」

──そのほか、
「あ、もう良いわ、これ以上聞いても覚えてらんないし」
 彼女はペンギンの台詞が出揃う前に手を払った。

「いっそ印刷して渡してくれない? あ、でも女の子とかに盗み読みとかされたくないからローマ字で」

──御希望でしたら、フランス語やドイツ語、アラビア語等にてお渡しすることも可能ですが……

「あんたね、私が読めないって解ってるでしょ!? いーのよ、ローマ字で!」

──これは失礼いたしました。では、此方に対象範囲だけご確認お願い致します。

慇懃に頭を下げたペンギンに代わって、対象範囲がカテゴリー表示で表された。彼女は満足そうに頷いて、承諾のボタンをタップする。


 一気に排出された設定資料を手に、彼女の姿は消えてなくなった。

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 気が付いたのは森の中だった。
 目線がずいぶん低くて、また幼児化したのが解る。バサラの時と同じくらい、かな?
 マルクトの軍服はブカブカだと身動きが取りにくいので、鞄の中からTシャツを引っ張り出してそれに着替えた。
 人里離れているようで、円で確かめても離れたところに二人、三人位しか人の気配はなかった。
 兎に角情報収集しなければ始まらない──私は気配を殺して人のいる方へと移動した。

 気配は殺気を伴っていた。
 二対一の戦闘中らしい。念とか使わない人にしては結構動きが早い。
 二対一だけど、優勢なのは一人の方だ。

 さて、どちらかだけでもどんな陣営かわかるといいんだけど。

 私は岩陰にしゃがみこんで勝敗がつくのを待った。
 面倒だから誰か情報をポロリと喚いてくれ、何て言っても声の届く距離じゃないしな。
 

 待ってる間に辺りの植生を見る──この広葉樹の感じだと、日本かそれに近い世界で良さそうだけど……


 あ、戦闘が終わった。
 やるな、予想より早い。

 勝ったのは一人の方みたいで、ただ、命までは取らなかったようだ。二人はばらばらの方向に逃げてく。


 んー……関わるなら、勝者の方かな。


 少しだけ考えてそう決めて、私は絶を緩める。

 勝者の進行方向。わざと音をたてて茂みを掻き分ける。


「──誰だ!?」


 警戒を露に叫んだ人は、壮年の男性だった。
 若い頃にはなかなか目立ったろう彫りの深い西洋風の整った顔立ちに、服装は渋い風合いの着物。足元は足袋。

「幼子……? 何故こんな山奥に……」
 男性は離れたところに留まったまま訝った。
 用心深い質らしい。

 私も男性と目が合った、その時点で進むのをやめた。
 勢いで攻撃されるのは面倒。

「童、この様なところでどうした?」
「……」
「一人か? この辺りに家はなかったと思うが……」
 何も答えない私に問いを重ねる男性。
 その問いには、目を伏せて淡々と返す。

「一人です。此処が何処なのかも存じません。先程目が覚めてから、人に御会いしたのは、おじ様が初めてです」
「何と面妖な。こんな山奥でこれ程達者に喋る幼子に逢うとはの」
 男性は感慨深げに顎を掻いた。

「童、名を何と申す?」
「……」

「ふうむ、名はないか、はたまた、簡単には名乗れぬ、か」
「……」

 名は時として呪力に縛られる──そんな話をしたのは、ディード達と旅をしていたときだっけか。

「歳は幾つじゃ?」
「解りません」

「ほう、解らぬか、ほう」
 答えてないのと大差ない回答なのに、男性は面白がるように目を輝かせた。

 じり、と心持ちだけ、距離が詰まる。

「目覚める前は何処に居った? 見慣れぬ衣を纏っておるが、南蛮人には思えぬのでな」

 南 蛮 ──!

 つまり、此処は日本で合ってるのか!

 しかも服装と話ぶり的に、室町とか戦国?!


──時宗丸は……成実はいるんだろうか。

 連想して、心が痛んだ。



「……どうじゃ?行くところがないならば、儂についてくるか?」
 私が余程沈痛な顔をしてたんだろう。男性は表情を改めて誘い掛けた。

「行く処なんて、特にありません」
 私はとっくに朧気な成実の笑顔を追い払ってポツリ、呟いた。

 もし仮にこの世界に時宗丸が居たとしても、それは私の知る時宗丸じゃない。会えばきっと、思い知らされて辛くなる。

 もし仮にこの世界の時代が時宗丸達と過ごしたのと同じくらいの時間だったとして、訪ねた先に時宗丸が存在していなければ──虚しくなるだけだから、そんな仮定はやめにしよう。

「ならばひとまず、儂の所に来るといい。山奥の小さな襤褸屋じゃが、幼子の一人くらい世話できぬほど落ちぶれちゃいない」
「宜しいのですか?」
 おずおずとした調子で、私は言った。遠慮勝ちな子供、それを装うように。

「幼子一人放り出して帰るのも寝覚めが悪い。それに童の相手はなかなかに退屈せずに済みそうじゃしな」
 男性はニヤリと笑って私の頭上で手を弾ませた。
 警戒心を刺激しない、絶妙な仕草で距離は詰められていた。

 それから、私の名乗りを促すように、彼は告げた。

「儂は竜王丸と呼ばれておる。引退間際のフリーの忍じゃよ」

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「うわ、機械兵士だ」
 カッコいいなぁ、とユキヤは硬質のボディを見詰めた。

 金の派閥本部一階にある談話室。個別訓練までの時間潰しに訪れたそこに彼は控えていた。
 確実に聞こえているだろうに反応らしい反応を返さないのは、待機モードに入っているのか、はたまた主以外の音声に反応しない仕様になっているのか。
 しかし、この派閥に厄介になって暫く経つが、こんな見事な機械兵士を見るのは初めてだ。機属性と言えばトレイユのブロンクス家も該当するので、本部の機属性召喚師と敢えて絡むこともなかったが、それにしても、だ。

──誰の護衛獣なんだろう?

 見ているだけでかなりハイレベルに鍛えられているのがわかる。ただし最初の師が機属性だったからこそ言える、最新型とは言い難いフォルムのボディ──だからこそなお魅力的。

 ユキヤは時間が来るまで飽きることなく機械兵士を観察し続けた。


「──では、失礼しますね」
 師であるファミィの執務室に着くと、ノックの前に人の気配がしたのでユキヤは扉の前から離れた。

 カチャリ、扉を開けて現れたのは年の頃なら二十代半ば。召喚師が好んで纏うローブよりは若干丈の短いオフホワイトのマント、モスグリーンの衣服を身に付けた黒髪の女性だった。隠されているので詳細は不明だが、マントの下には軽装ではあるが鎧を着用し、背には穂先のない槍──と言うより棍を背負っている。足元は頑丈そうな白いブーツ。あまり召喚師らしくはない。

「……」
「……」

 ペコリ、互いに会釈だけしてすれ違う。
 殺伐した気配は特になく、フル装備のままの面会が許される友好関係にある相手なのだろう、と納得することにした。
 ユキヤ自身は一見無手である。

「失礼します。ファミィ様、お迎えに上がりました」
「あらあらあら、もうそんな時間なのね」
 ファミィはおっとり首をかしげた。

 執務に追われる彼女は、訓練室で待っていても待ち惚けさせることになるからと毎回ユキヤを呼びに越させる。その度にかなりの確率で重要人物と遭遇するのだから、時間のことは方便なのかもしれない。

「今しがた擦れ違った女性は初めてお見掛けしますが……」
「チヒロさんね」
 こうして訊けば、全てではないにせよ答えてくれるし、タイミングによっては紹介してくれる。勿論、相手が無色の派閥の乱や傀儡戦争の関係者だ等ということは明かされたことはないのだが、名を告げられればそうと悟れる知識の土台はユキヤの側にある。
 けれど今回の女性は解らなかった。

「チヒロ様、ですか」
 よくわからない相手には様をつけるに限る。出奔したどこかの王子とか龍人のふりをした竜神だとか、本当の身分を知っている事がうっかりばれないようにするためにも、この統一方針は有効だ。

「フフ、そうね。今回はあなたにとってはチヒロ「様」が良いかもしれないわね。あの子は巡りの大樹自由騎士団の創設メンバーなのよ」
「巡りの大樹自由騎士団!? です、か」
「ええ。そうそう、ユキヤちゃんはレオルドには会ったかしら?」
「レオ……ルド……?」
 ユキヤは演技ではなく声を途切れさせた。

 巡りの大樹自由騎士団と言えば、それこそ傀儡戦争の関係者や無色の派閥の乱の関係者──中でも元は各国の有力騎士である面々を中核にした、国境に縛られない新しい騎士団。
 レオルドと言えば、傀儡戦争の影の功労者たる超律者の護衛獣(かもしれない)の名前。先程談話室で見かけた機械兵士と同じ機体の──同じ、機体の。

「あの、名前の響き的にはロレイラルの機械兵士っぽいんですけど……どちら様の事ですか?」
「ユキヤちゃんの想像どおりよ。チヒロさんの護衛獣だから、あの子を見ればチヒロさんがどのくらいの腕なのか解りやすいと思ったのだけど」
 ファミィは頬に手をあてがい、おっとり小首を傾げた。
 ユキヤは全身にぶわっと興奮の波が広がるのを感じた。

──レオルドだった!

 傀儡戦争を戦い抜いた猛者なのだ、相応なレベルに鍛えられているのも当然。
 と、いうことは、デフォルト名とは違っていたが、先程擦れ違った女性はクレスメントの末裔──超律者なのだろうか。

──巡りの大樹自由騎士団に関わっているのは、ルヴァイドエンドかシャムロックエンドか、どっちなんだろう。

 ユキヤは上擦った声で答える。
「見慣れない機械兵士なら談話室で見掛けました!! 凄くレベル高くてブロンクスのおじ様の所でも見たことないタイプだったので気になってたんです!」
「あらあら、ユキヤちゃんたらはしゃいじゃって」
「だって私霊属性以外ユニット召喚できませんし!」

「それなのよねぇ。わたくしが見る限りユキヤちゃんには全属性の素養がありそうなのに、不思議ねぇ」
 ちらり、ファミィの目はユキヤの頭上に向けられた。

──ヒホ? オイラに何かご用かホー?

 興味津々なペルソナがファミィの動きに合わせて首を傾げる。
 この規格外の師匠の場合、見えていそうで何だか怖い。

「と、とにかくあれだけ素敵な機械兵士を護衛獣にしてられるなら、チヒロ様が優れた召喚師で巡りの大樹自由騎士団の重鎮というのも納得です!」
 ユキヤはファミィの視線を背後の雪だるまから逸らすように言葉を紡いだ。
「私も早く護衛獣を召喚できるような安定した召喚技術を身に着けたいです! そろそろご指導よろしくお願いします!!」

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 送られたその場所は、冬の奥州並みに雪深くて、欧州の様なつくりの家が立ち並ぶ雪の街だった。
 此処でも私は、私塾に通うことになった。

 もとはローレライ教団のお偉いさんらしいという美人のネビリム先生は授業が面白くて、学ぶことが何度目かよくわからない私にも新鮮な話が多かった。
 同じ私塾にはまだ目が赤くないジェイド少年や、大人になってからの揶揄通り洟垂れ小僧なサフィール少年も通っていて、二人とも優秀な成績を修めていた。つんけんしたジェイド少年に目をつけられるのも、甘ったれなサフィール少年に絡まれるのも面倒そうな気がしたので、私は目立たないよう適度に誤った回答を織り交ぜるようにしておいた。例によって、ネビリム先生にはお見通しだったようだけれど。

 ファンタジー世界の女性陣ってなんでこう勘が鋭いかな。

 ジェイド少年とサフィールが何かしでかして、私塾にはフランツと名乗る傍若無人な金髪少年も顔を出すようになった。ジェイドも美少年だけど、表情の乏しい彼に比べて、ふてぶてしい位の笑顔が似合うフランツ少年は種類の違う美形だった。塾の数少ない女の子達は、フレンドリーなフランツ少年にきゃあきゃあ楽しげに騒いでいた。

 私は学友達の騒ぎからは常に一歩身を引いていた。
 身体の震えはとうに収まっていたけれど、四肢は自由に動かせるようになっていたけど、私の惨状を目の当たりにした時の大切な人達の表情がふとした瞬間に目の前の相手にダブってしまって、親しくなることそのものが怖くなった。
 それに。
 天才と讃えられることになるジェイド少年の目が、時に訝るようにこちらに向けられる瞬間があって、怖かった。 いつもは見られないことをいいことに気ままに周りを観察しているジャックフロストでさえ、好奇心よりも警戒心を優先させて私の奥底に引っ込んでいるくらいだった。
 成人したジェイドは食わせ物だけれど、このころのジェイドには人として基本的な箍がどこか外れっぱなしだった。関わるのは正直、一番怖い相手だった。

 だから勿論、ケテルブルクにいる間「フランツ」と話をしたことも数えるほどのことでしかなかった。
 数年後グランコクマで再会した時に、まさか覚えていて声をかけられるなんて考えてもみなかったくらいに。

 グランコクマに移る前の一時、私は家族の(この世界では、珍しく、血縁関係のあることになっている家族がいた)預言の影響でホドに移り住んだ。
 ガルディオス伯爵家の邸宅は遠目に見たくらいで、願ったわけでもないのにフェンデ家の少年とは知り合いになった。いや、シグムント流の剣術を習いに行ったのだから必然か。

 ホドに移ってすぐ、ネビリム先生の訃報を聞いた。

 数年後、キムラスカとの戦争激化によって私は家族ともどもグランコクマに移住することになった。
 共に引き上げてきた研究者達の中には、カーティス家の養子となったジェイドもいたようだった。
 目の色はもう赤くなっていた。

 シグムント流剣術を修めていることを何故か知っていたジェイドの勧誘(と言う名の脅し)で、私はマルクト軍に入隊した。ピオニー殿下との出会い(と言う名の再会)はその後だった。
 上官として無茶振りしてくるジェイドの所業にささくれ立った心を癒してくれたり逆撫でしてくれたりする殿下とは、いつしか気の置けない関係になっていた。恐れ多いとか、そんなものは感じなかった。あの人の破天荒ぶりは、そういった形式ばった感情をたやすくどこかに押し流した。

 ジェイドの課した無茶振りに、経験+オールドラントで得た全技能を駆使して応えていたら、私の階級は馬鹿らしいほど簡単に佐官に到達していた。と言っても少佐どまりだ。上官が大佐より上に行きたがらないための頭打ちだった。肩書としては、第三師団師団長付補佐官が私の公の立場になった。
 ホドは崩落して跡形もなく、戦争はうやむやのうちに冷戦へと移行した。殿下は即位して、立派な皇帝として人民に慕われるようになった。


 ジェイドが陛下の勅命を受けタルタロスで旅立った時、私は残された第三師団の調練を委ねられたので別行動だった。
 本当はついて行ってマルコ達の運命を変えてしまいたかった。けれど異論は認められず、委ねられた部下を放置もできずグランコクマで燻っていた。
 タルタロス襲撃の方が届いて初めて、陛下は私に真偽の調査の密命をくれた。部隊の調練は、第一師団のアスラン少将が持ってくれることになった。
 向こうがごたごたもたもたしてたのと、こっちが裏技を持っていたおかげで、セントビナーを出発するところに合流することができた。ジェイドには陛下の事を含めて呆れられた。

 以降は概ね、筋書き通り。
 変えることができたのは、瘴気に蝕まれかけたティアをあらかじめ救うこと──主に念能力が役に立った。それにより、レプリカイオンの存命期間は長引いた。
 あとは、崩落編後に命を落とすはずだったアスラン少将を助けた、はず──断定できないのは、その後の出来事を私が知らないからだ。

 アスラン少将が襲われるはずの場面で、私も軍事演習を手伝っていた。
 その場で襲われたのは、私の方だった。
 その時かそれより前なのか、レプリカ情報も抜かれたらしい。その場では襲撃者は撃退して、ケテルブルクの山奥に出没する化け物──レプリカネビリムの討伐に参加するあたりから体調が思わしくなくなった。
 それがレプリカ情報を抜き取られたせいだとわかったのは、不覚にも自分自身のレプリカと対面した時になってからだった。レプリカユキヤは、レプリカネビリムとは別の意味で不完全だった。完全になりたがって、私に襲いかかってきた。でもその攻撃は無駄だった。

 それより先に、私が倒れたから。

 余裕をなくして必至そうな顔のジェイドを、初めて見た。

 私が倒れると同時に、レプリカは自然分解されていった。
 だから残る仲間達も警戒を解いて、私の周りに集まってきた。私の身体は元々音素のバランスがまともではなかったから、レプリカ情報を抜かれたのが致命的だったのだとジェイドは言った。普通とは違うあれこれに気付いていながら、指摘することなく実はフォローしてくれていたことを、その時になって私は初めて知った。

 失敗したなぁ、とちょっと思った。

 ジェイドの方を好きになっていれば。もう少し関わり方を変えていれば、私はもっとこの世界で長く過ごせていたかもしれないのに。

 音素乖離が勢いよく進行した私の身体は、絶望に歪むジェイドの腕の中で瞬く間に音素に還って行った。

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 気が付いた場所は、どちらかといえば群島かリィンバウムのどこかを思わせるような小村だった。

 戦災孤児の一人として私が引き取られた先には、同じ年くらいの穏やかな性格の男の子がいた。
 男の子の名前はエト。村には他にも同じくらいの年齢の子供が何人かいたけれど、騎士の子だというパーンがエトの一番の仲良しだった。
 エトは至高神ファリスに仕える神官となるべく修行を積んでいる子で、パーンは騎士を志して体を鍛えていた。治癒系と物理系ときたら魔法系かなぁ、とバランスを考えて、賢者の学院へ進んでいたスレイン宅へ忍び込んで私は魔術の勉強を進めていた。

 スレインが村で隠遁生活を送るようになってからは勿論、忍び込むなんてできなくて、正直に教えてほしいとまとわりついて押しかけ弟子の地位をもぎ取った。スレイン兄てば村の女の子に問答無用で魔法攻撃仕掛けてこようとするんだもの、つい流水の紋章で対抗しちゃったよ。おかげでその魔法は何だ、みたいに問い詰められてちょっと辟易した。エトを盾にして許してもらって、代わりにエトから説教を喰らった。
 のどかな生活だった。

 独り立ちしても良いくらいに成長して、つまりはそろそろどこかに嫁に行けと言われるくらいの年齢になって、私は冒険の旅に出るエト達にくっついて村を離れることにした。
 ゴブやホブゴブ程度で苦戦している彼らの事が心配だったし、仲の良いエト、パーン、スレイン兄がいなくなる村にあまり魅力は感じなかった。
 旅には他に、近くのマーファ神殿から攫われた侍祭を探すドワーフのギムも同行した。

 トラブルホイホイであるパーンの働きでハイエルフのお姉さまが仲間に加わり、胡散臭い盗賊のウッド・チャックも加わった。主要メンバー勢揃いで迎えたクエストは、攫われた侍祭ならぬ神聖王国ヴァリスの姫君を助け出す快挙となった。これをきっかけに、後に英雄戦争と呼ばれることになる動乱の真っただ中に飛び込んでいくことになったわけだけれど、私はどうにも乗り切れなかった。

 ハイエルフのディードには、私の隠し持つ力の事やペルソナの事が漠然と見えているようで常に警戒されていたし、フレイムのカシュー王や名だたる剣の使い手達からは、身のこなしが魔術師じゃないと興味を惹かれ、パーンよりも先に仕官の話を貰いそうにもなった。
 途中からは開き直って「戦う魔法使い」なんて未来の誰かさんが自称する名乗りをあげるようになったけど、もやもやする気持ちはずっと胸の奥にくすぶっていた。

 私は作戦の都合上、他のパーティメンバーとは別行動することが多くなっていった。
 その方が気楽だったし、フレイム騎士の剣技を眺めたりしていると気が紛れた。勿論、単独で与えられた仕事をこなしている間は集中せざるを得ず、余計なことを考えている暇もなくなった。

 だから私は、英雄戦争の終結間際にも、エトやパーン達とは離れたところに居た。
 父王を喪い悲しみに沈むフィアンナ姫を慰めるエトを、シャダムの後ろから見ていた。


「要するに、あなたは少し前までの私と同じなのね」
 久しぶりに合流したディードは私に溜息を吐いた。

「自分の気持ちに臆病になっている。本当はとっくに、気付いている気持ちに、ね」
 そんなことを言われても、どうしようもなかった。
 だから私は笑ってごまかして、カーラとの最終決戦に加わった。それがこのパーティでの最後のクエストになることを知っていたから。

 この戦いが終わったらほどなく、エトはヴァリスで神官王として推挙される。王妃はフィアンナ姫──それが正しいロードス島の歴史。それを覆す度胸を、私は持ち合わせていなかった。

 代わりに私がしたことは──

 仲間達一人一人の驚愕の顔をはっきり覚えてる。
 命を落とす運命だったギムは、紋章の力で存えさせた。戦いの行方がどうなるにせよ、私が全力で叩き折ったフラグの結果、私がこの場所に居られる時間は残り僅かと想像できたから、出し惜しみなくあらゆる力を使った。
 一番驚いていたのは、幼馴染の二人だった。スレイン兄はあまり驚かなかったけど。

 いや、彼らが驚愕したのはそんな事ではなくて。

「後始末はよろしくね?」

 すばしっこさが売りのウッドをすら出し抜いたことにほくそ笑んで、私はセルフオーバーコントロールを発動したままに、カーラの意識が籠ったサークレットを額に装着した

 肉塊の中に埋もれたサークレットを、流石のウッド・チャックも改めて額に嵌めようとは思わないだろう。
 私がしたことは、ウッド・カーラの暗躍を未然に防ぐことだった。



 私がしたことは、大好きな幼馴染達にこの上もないトラウマを刻みつける行為だった──


 真っ青な顔のエトを見て、初めてそんな単純な重罪に気付かされた。

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