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そこに至るまでの七夜7
2014 / 05 / 22 ( Thu )
 送られたその場所は、冬の奥州並みに雪深くて、欧州の様なつくりの家が立ち並ぶ雪の街だった。
 此処でも私は、私塾に通うことになった。

 もとはローレライ教団のお偉いさんらしいという美人のネビリム先生は授業が面白くて、学ぶことが何度目かよくわからない私にも新鮮な話が多かった。
 同じ私塾にはまだ目が赤くないジェイド少年や、大人になってからの揶揄通り洟垂れ小僧なサフィール少年も通っていて、二人とも優秀な成績を修めていた。つんけんしたジェイド少年に目をつけられるのも、甘ったれなサフィール少年に絡まれるのも面倒そうな気がしたので、私は目立たないよう適度に誤った回答を織り交ぜるようにしておいた。例によって、ネビリム先生にはお見通しだったようだけれど。

 ファンタジー世界の女性陣ってなんでこう勘が鋭いかな。

 ジェイド少年とサフィールが何かしでかして、私塾にはフランツと名乗る傍若無人な金髪少年も顔を出すようになった。ジェイドも美少年だけど、表情の乏しい彼に比べて、ふてぶてしい位の笑顔が似合うフランツ少年は種類の違う美形だった。塾の数少ない女の子達は、フレンドリーなフランツ少年にきゃあきゃあ楽しげに騒いでいた。

 私は学友達の騒ぎからは常に一歩身を引いていた。
 身体の震えはとうに収まっていたけれど、四肢は自由に動かせるようになっていたけど、私の惨状を目の当たりにした時の大切な人達の表情がふとした瞬間に目の前の相手にダブってしまって、親しくなることそのものが怖くなった。
 それに。
 天才と讃えられることになるジェイド少年の目が、時に訝るようにこちらに向けられる瞬間があって、怖かった。 いつもは見られないことをいいことに気ままに周りを観察しているジャックフロストでさえ、好奇心よりも警戒心を優先させて私の奥底に引っ込んでいるくらいだった。
 成人したジェイドは食わせ物だけれど、このころのジェイドには人として基本的な箍がどこか外れっぱなしだった。関わるのは正直、一番怖い相手だった。

 だから勿論、ケテルブルクにいる間「フランツ」と話をしたことも数えるほどのことでしかなかった。
 数年後グランコクマで再会した時に、まさか覚えていて声をかけられるなんて考えてもみなかったくらいに。

 グランコクマに移る前の一時、私は家族の(この世界では、珍しく、血縁関係のあることになっている家族がいた)預言の影響でホドに移り住んだ。
 ガルディオス伯爵家の邸宅は遠目に見たくらいで、願ったわけでもないのにフェンデ家の少年とは知り合いになった。いや、シグムント流の剣術を習いに行ったのだから必然か。

 ホドに移ってすぐ、ネビリム先生の訃報を聞いた。

 数年後、キムラスカとの戦争激化によって私は家族ともどもグランコクマに移住することになった。
 共に引き上げてきた研究者達の中には、カーティス家の養子となったジェイドもいたようだった。
 目の色はもう赤くなっていた。

 シグムント流剣術を修めていることを何故か知っていたジェイドの勧誘(と言う名の脅し)で、私はマルクト軍に入隊した。ピオニー殿下との出会い(と言う名の再会)はその後だった。
 上官として無茶振りしてくるジェイドの所業にささくれ立った心を癒してくれたり逆撫でしてくれたりする殿下とは、いつしか気の置けない関係になっていた。恐れ多いとか、そんなものは感じなかった。あの人の破天荒ぶりは、そういった形式ばった感情をたやすくどこかに押し流した。

 ジェイドの課した無茶振りに、経験+オールドラントで得た全技能を駆使して応えていたら、私の階級は馬鹿らしいほど簡単に佐官に到達していた。と言っても少佐どまりだ。上官が大佐より上に行きたがらないための頭打ちだった。肩書としては、第三師団師団長付補佐官が私の公の立場になった。
 ホドは崩落して跡形もなく、戦争はうやむやのうちに冷戦へと移行した。殿下は即位して、立派な皇帝として人民に慕われるようになった。


 ジェイドが陛下の勅命を受けタルタロスで旅立った時、私は残された第三師団の調練を委ねられたので別行動だった。
 本当はついて行ってマルコ達の運命を変えてしまいたかった。けれど異論は認められず、委ねられた部下を放置もできずグランコクマで燻っていた。
 タルタロス襲撃の方が届いて初めて、陛下は私に真偽の調査の密命をくれた。部隊の調練は、第一師団のアスラン少将が持ってくれることになった。
 向こうがごたごたもたもたしてたのと、こっちが裏技を持っていたおかげで、セントビナーを出発するところに合流することができた。ジェイドには陛下の事を含めて呆れられた。

 以降は概ね、筋書き通り。
 変えることができたのは、瘴気に蝕まれかけたティアをあらかじめ救うこと──主に念能力が役に立った。それにより、レプリカイオンの存命期間は長引いた。
 あとは、崩落編後に命を落とすはずだったアスラン少将を助けた、はず──断定できないのは、その後の出来事を私が知らないからだ。

 アスラン少将が襲われるはずの場面で、私も軍事演習を手伝っていた。
 その場で襲われたのは、私の方だった。
 その時かそれより前なのか、レプリカ情報も抜かれたらしい。その場では襲撃者は撃退して、ケテルブルクの山奥に出没する化け物──レプリカネビリムの討伐に参加するあたりから体調が思わしくなくなった。
 それがレプリカ情報を抜き取られたせいだとわかったのは、不覚にも自分自身のレプリカと対面した時になってからだった。レプリカユキヤは、レプリカネビリムとは別の意味で不完全だった。完全になりたがって、私に襲いかかってきた。でもその攻撃は無駄だった。

 それより先に、私が倒れたから。

 余裕をなくして必至そうな顔のジェイドを、初めて見た。

 私が倒れると同時に、レプリカは自然分解されていった。
 だから残る仲間達も警戒を解いて、私の周りに集まってきた。私の身体は元々音素のバランスがまともではなかったから、レプリカ情報を抜かれたのが致命的だったのだとジェイドは言った。普通とは違うあれこれに気付いていながら、指摘することなく実はフォローしてくれていたことを、その時になって私は初めて知った。

 失敗したなぁ、とちょっと思った。

 ジェイドの方を好きになっていれば。もう少し関わり方を変えていれば、私はもっとこの世界で長く過ごせていたかもしれないのに。

 音素乖離が勢いよく進行した私の身体は、絶望に歪むジェイドの腕の中で瞬く間に音素に還って行った。
続きを読む 顔の半分くらいまで乖離したあたりで、私の意識はいつものTVの前に帰ってきた。

『またもやの分解は避けていただきたかったのですが、仕方ありませんね』
「不可抗力」

 別れの余韻が、私の心を鬱々とさせていた。


 私はあの時初めていろいろ知ったけれど、一つだけその前から知っていたんだ。それは、ジェイドが私に向ける好意──まさかあのジェイドがそんな感情を持つなんて半信半疑だったけれど、面白がるピオニー陛下の態度が確信に変えた。
 それでも知らんぷりを通してきたのは……

『過ぎてしまった世界の事を思い返しても始まりません。
 悔やむのでしたら、次の世界に活かせばよいのですよ』

 相変わらず、文字はざっくりと告げて私を送り出すのだった。
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