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「水が変な感じだ」
「水底の造詣が見えちゃうと夢がなくなるっていうしね」
「まあ、コンクリートの打ちっぱなしじゃ確かに興醒めだよな」
「でも反射して光がゴンドラや石橋でゆらゆらしてるのは綺麗だよね。これはごまかしじゃない演出」
 理彩が目を細めると、ピエトロはじっと彼女を見下ろした。
「……」
「何?」
「いや、似合わねぇなって思っただけ」
「余計なお世話」

「あ、順番来たよ! 四名です」
 不穏な気配を察したのか、茅紗は声をあげて二人を促した。
「慌てて転ぶなよ」
「平気でーす!」
 ヘンゼルの注意を彼女は軽く受け流す。
「おら、足元気をつけろよ」
「──大丈夫なのに」
 一方理彩は、当たり前のように段差で持ち上げられて、顔を赤くした。

 子供みたいに、と取るかイチャラブなエスコートと取るかは受け取り方次第。どうやら後者と受け取ったらしいキャストは、
「良いですねぇ、カレシさん。皆さんもカノジョさんが落ちないようにちゃーんと支えてあげてくださいね♪」
朗らかな笑顔で周囲のカップルの沈黙を生んだ。


「割と面白かったな」
「パークの雰囲気掴めたしね」
 ゴンドラを降りるときにも持ち運びされた理彩は少し膨れていて、ピエトロに相槌を打ったのは茅紗の方だった。
 ヘンゼルは指をわきわきと動かしながら、のほほんと会話している彼女とピエトロとを見比べている。
 茅紗はさっさと船着き場に降りてしまったのだが、自分もエスコートできるところを見せたかったのかもしれない。
 微妙なヘンゼルの視線に気づかず、ピエトロと茅紗は話を続ける。

「あの時何考えてた?」
「あの時?」
「願いが叶う橋って奴。単なる子供だましなのはわかってるけどさ」
「ああ」
 茅紗は苦笑した。少し照れの混じる仕草に、ヘンゼルは手を止めて彼女の回答を待つ。
「ゴンドラのお兄さん達の音痴が少しでも良くなりますように」
「「は?!」」
 想像の斜め下を行くコメントは青年達を異口同音に叫ばせた。

「何願おうか考える前に、あの音程に全部持ってかれたから」
「インパクトあるよね、多分敢えてなんだろうなーってはわかってるんだけど。私も他考えられなかったかな」
 理彩までがそう同調するので、話を振ったピエトロは「ちょっと待てよ!」と手を泳がせた。
「普通こういう時はあるだろ、もうちょっと、こう! なぁ?!」

「もうちょっと?」
「どうせあれでしょ。ヘンゼルはグレーテルの無事とかグレーテルとの再会とかそういう系」
「え? あ、あぁ」
「ピエトロはワンダと来れますようにとか? スタークさんにお願いすれば一日貸切の慰労会とかもできそうな気がするけど」
「彼奴に頭下げるなんて御免だからな!!」
「二人ともシスコンだよねぇ」
 茅紗は理彩とニヤニヤ笑う。ピエトロは憤然とマップを広げた。

「やめだやめ! 次! どこ行く?!」
「あの山みたいなところ気になるよね、やっぱ」
「山? えーと、じゃあセンターオブジアースかな。人気だからファストパスとる方良いかも」
「ファストパス?」
「行けばわかるよ」
 首を傾げるヘンゼルの背中を押して、四人は次のエリアに向かった。


 茅紗の読み通り、入場口付近に表示された待ち時間は120分とあり、一行はファストパスを取得することにした。
 開園から然程経った気はしないのに、ファストパスによる入場時間は既に16時台となっていた。

「じゃあ、次如何する?」
「何が良いかな?」
「……」
 邪魔にならないよう通路端でマップを眺めていると、ピエトロがある一点に目を留めた。理彩がその視線の先を辿ると、
「ストームライダー?」
マップの文字を読んだのは茅紗だ。

「ヘリキャリアとか戦闘機にも乗ってるのに、これ?」
「別に良いだろ。こういうのは男のロマンなんだよ!」
「緊迫した状況で乗るのと娯楽で乗るのは別なんじゃない?」
「ダメだとは言ってないんだけど。退屈じゃないのかなって──ヘンゼルさんもそれでいい?」
「別にかまわない。それと、ヘンゼル、でいい」
「ん、わかった」
「おいあんた!」
「なんだ?」
「連れが先行ってるぞ」
「ちっあの女っ!」
 ヘンゼルは大股で茅紗の後を追った。

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