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 ドサドサゴトンっ

 校庭に落下音が響いたとき、その場にいたのは体術訓練中の三、四年生だった。

「なっ?」
「何奴っ!」
「何っ」

 いくつもの声が叫び、それ以上の気配が息を呑む。寄りにも寄って、それが起こったのは校庭のど真ん中──咄嗟に組んでいた手を離し距離を置いた平と田村に代わり、担当教官である四條畷が落下地点へ接近する。

「……ん?」
 教官はすぐに顔をしかめ、そこに駆け寄ると、片膝をついた。

「斉藤、田村、三反田、富松!」
「「「「はい!」」」」
 呼ばれた四人は教官の元に駆け寄る。

 当然、より克明になる落下物の正体に少年達は目を瞠る。
「女の子?」
「女ぁ?」
 斉藤と田村の声を聞いて、遠巻きの他の生徒が揃って怪訝に声をあげる。

「「女の子ぉ?」」
「おやまあ」
 元よりぱっちりしている目の約一名は、驚いたかどうか傍目にはよくわからない平坦な声で、彼なりの驚きを表した。
「三反田、富松、一先ず保健室に運ぶぞ。田村は学園長先生に報告だ。斉藤はシナ先生へ頼む」
「先生、この学園一優秀な天才、平滝夜叉丸を差し置いて凡才に頼るとはどういうことですか! なにしろこの私ときたら(ぐだぐだぐだぐだ)」
「馬鹿を言え、本当の天才は私のような者を言うんだ!」
「綾部! 平と二人で三年の組み手を見てやれ。時間までサボるなよ!」
「りょーかいでーす」
 ケンカを始めそうになる二人の間から、泰然とした綾部に指示することで張り合いを止める。四條畷はぐったりとした少女の身体を抱き上げ、二人掛かりでもう一人の少女を抱えた三年生を従えて保健室を目指した。


 四條畷の腕にいる上質な緋の着物を身に纏った少女と、自分達が運ぶ、藍の着物の少女。ダラリと垂れた左手の装飾品は繊細で、いかにも高価そうだ。
 熱に浮され歪んだ赤い顔でも、肌の艶やみずみずしさは、衣食住に困らないどこかのお嬢さんであることを裏付けている。
 富松は三反田がバランスを崩しそうになるのをフォローしながら、ちらっと四條畷を盗み見る。彼の見間違いでないなら、赤い着物の袷から覗いていたのは一振りの忍び刀だ。だからこそ四條畷は一番下にいた彼女を抱え、今一人を保健委員である三反田と、何かと面倒に慣れている富松とに連れて来させたのだとは彼にもわかる。

──ということは、トラパーの綾部先輩と、輪刀使いの滝夜叉丸先輩をその場に残したのは保険だろうな。田村先輩なら、火器を持ち出して遠距離対応もできるし。

「新野先生!」
 富松が納得したところで、丁度保健室にたどり着いた。四條畷がガラッと扉を開けると、中では新野先生と山本シナ先生が待ち受けていた。
「確かにひどい熱のようだね。三反田君、水を」
「はい! わあっ!」
 寝台に横たえた二人を、新野先生が早速診療にかかる。額に手を当て、瞼を裏返しつつ、保健委員の三反田に声をかけると、三反田は機敏に桶を担いでいく。
 が、すぐに躓いて転びそうになったので、
「手伝う」
「あ、りがとう」
「すまん」
 富松と四條畷は揃って溜息をついた。



 バタバタと去っていく足音をよそ事に、次に脈をとろうとした新野先生は、
「おや」
少女の腕を飾る装身具に手を止めた。

「これは珍しい」
「珍しいって、何がですか?」
「そういえば斉藤君まだいましたね」
「上級生ならばいずれは知ることだ、かまわんでしょう」
 頷いて見せる四條畷。本気で斉藤を忘れていたわけでもない新野先生は、改めて少女の右手をとった。
 持ち上がることで、斉藤の視界にもそれは入る。
「……? 腕輪ですね」
「これは属性防御装飾という」
「はい?」
 斉藤はきょとんと首を傾げた。彼の目から見ればただの綺麗な腕飾り。それを複雑そうに見る三人の先生の態度が斉藤には不思議だった。
「属性装飾を身につけているのは、天下取りに名をあげるような城の、武将クラスの人間か、その近親者──」
 教官の説明に、斉藤が思い出したのはドクタケやウスタケ等の関係者だ。けれどすぐにその思考は拭い去られた。
「主に、バサラ者と呼ばれる連中だ」
「ばさら、もの?」
「属性防御はバサラ技対策。属性強化は、常人でも効果はあるが、バサラ者が使えば効果は絶大だ」
「はぇ?」
 斉藤の口からおかしな声が漏れた。学園や身の回りではそれなりの脅威ともいえるドクタケやウスタケでも、天下を狙えるかと問われたら、本人達を含めた皆が首を横に振る。

 天下取りに挑む武将達からは競合地域──緩衝地帯として遇されているからこそ、様々な流派・地域の子供達がこの地を学び屋とすることができる。それくらいは斉藤でさえしっている。ドクタケが狙うのは、学園の知識と技術と人脈──それらを含む権益。
 なぜならこの緩衝地帯にバサラ者はいない。
 各地で台頭する諸勢力は、どこもバサラ者の活躍に支えられている。それぞれの城にバサラ者がいて、その上で忍び 働きをするならば、今をもっても忍びの存在意義は大きい。けれど、一方に忍び、一方にバサラ者となればよほどの謀略、よほどの時運を持たなければ忍び側に 勝ち目はない。そういった場合、忍びはむしろ、バサラ者を擁する城にいかにして取り入るか、どのバサラ者の城につくのが得策かを調べる役を担う、らしい。

  髪結い所にいる間に勝手に耳に入った情報と授業で習ったことを合わせ、斉藤が知るのはここまでだ。実際バサラ者とは何なのか、詳しいことはわからない。
「この腕輪は炎防御、この紐飾りは闇防御、首飾りは氷属性強化ですか……」
「この子は腕輪が雷属性、帯飾りが炎防御、耳飾りは氷防御ですわね」
 新野先生とシナ先生が二人の少女を検分する。一つ属性装飾を見つける度に、先生方の表情は深刻になっていった。

「えーと、つまり?」
 話についていけない斉藤は、その意味するところを問う。応じたのは四條畷だった。

「この二人は十中八九、バサラ者だということだ」
「「「ええーっ?!」」」
 驚愕の声が重なったのは、水汲みにいった三年生が、タイミング良く(または悪く)保健室に戻ってきたためだった。

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