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「「「ええーっ?!」」」

 誰かの叫ぶ声で彼女の意識は浮上した。全身のぎしぎしとした痛みと、ぼんやりと霞のかかった頭は決して本調子ではないが、思考を著しく妨げるほどではない。

──あたし……確か恐山の麓で……

 目覚める前の出来事を反芻すると、不可解なことがあった。

「ここ……?」
「「「「「──?!」」」」」

 ばばっと勢いよく振り返るいくつもの気配は、彼女の身に覚えがない。いや──その中の一つだけ。うっすらと開けた瞳に映り込む見慣れぬ人々。その見慣れぬ 中に、その時一つだけ面影を見出だせたのは、後から考えれば熱に浮されてぼんやり霞む視界の賜物だったかもしれないと彼女は言う。

 それを見つけて、それを認識して、瞬間、真っ赤だった顔が真っ青になる。

「──斉藤、三反田、富松」
 彼女の視線を追ったらしい男性が、「彼」を含む三人を呼んだ。彼女の直感を裏付ける呼称に、彼女の肩がビクリと震える。

「こちらはもういい。そろそろ授業も終わる時間だ、校庭の連中に解散を伝えて来い」
「「「はい、先生!」」」

 三人は口を揃えて応えると、チラチラと彼女達を気にしながらも部屋から出ていった。

 彼女の頭はグルグルと混乱の渦に巻き込まれていた。見た物が信じられない。けれど、うたぐったところで状況が好転する筈もない。彼女はふと、たった一人の彼女の同郷を思った。十年近く前のあの日、「彼女」もやはり、このように混乱したのだろうか。

 ふっと彼女の上に影が落ちる。視線を転じれば、知り合いと似た──こちらは明らかに別人とわかる女性が屈み込んで問うてきた。
「名前は言える?」

「…………ひな」
 つかえた喉の奥から、正しくも間違ってもいない呼び名が出たところで、彼女の意識は再び闇に沈んだ。

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 短いけどここで切ります。
 このシリーズは下書きファイル名「ひなたーん」
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