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「ひな」という少女が目を覚ましたという報告を上げたのは、綾部だった。正確には、伝えようと外に出て早々蛸壷と罠と塹壕に三連続で引っ掛かった保健委員長の代わりに、通りがかりの立花が遣わしただけだが。(善法寺は足をくじいたので、立花と保健室に逆戻りした)
「話はできそうかね?」
「さあ?」
「これこれ、娘が目を覚ましたと言ったのは御主じゃろう」
「……」
こてん、と首を傾げる綾部に、学園長は溜息をついた。
「……まあ、行ってみればわかることじゃしのう」
下がれ、というように手が振られたので、綾部は遠慮なく学園長の前を辞した。本当は作法室に向かう途中だったが、足を向けたのは保健室。授業の残り時間を 平と三年生の戯れを観察して過ごした綾部は、まだ落下物をきちんと見たことがない。起きて動いているなら見に行こうと単純に考えた。
「助けていただいてありがとうございます。あたくしはひな、こちらはひわ……とお呼び下さい」
学園長の来訪と聞くと、「ひな」は皆の制止も聞かず、寝床から起き上がって居住まいを正した。目覚めてすぐの彼女は、隣に寝かされた赤い着物の少女に 「あ……!」と声を上げて取り乱しかけたが、新野先生から熱はあるが大事ないと伝えられてどうにか気持ちを宥めたようだ。
今も、まだ辛いだろうにピンと背筋を伸ばし、まっすぐに学園長とむきあっている。自制心の強い子だと善法寺は関心した。
「ふむ、お主、如何にして学園に現れたか覚えているかのう?」
既に学園長は名乗り終えている。忍術学園と聞いた瞬間の反応を皆注視していたが、ひなはきょとんとも怪訝とも言える様子で、曖昧に「はあ」と頷くばかりだった。
「何故こうなったのかはあたくしにはわかりません。あたくしが覚えているのは、地割れに足を取られて落ちて行く感覚ばかりでしたから」
「お主らは学園の校庭に降って来たのじゃ。まさに落ちて来たわけじゃな。しかし、凧を見た者もおらんしのう」
「たこ、ですか?」
「そうぢゃ、校庭のど真ん中に落ちて来るなら、凧かカタパルトぐらいじゃろう」
「カタ……」
ひなは困惑の呈で繰り返す。学園長は顔色を変えずに「違うようじゃな」と呟いた。
その後も学園長とひなの問答は続き、居合わせた者は、彼女が相模よりも陸奥よりも更に北の辺境から、空間的な概念を捩曲げたかのようにこの地に落とされたのだと知った。
「ふむ……これはあれじゃな」
「あれ、とは?」
訳知り顔に頷く学園長を見る、ひなの目は真剣だ。
「誰かのぶち抜いた頁の穴から学園の校庭に転がり落ちたのぢゃ!」
「え……?」
真剣だったひなの目が、見事なまでに点になる。一方、彼女の体調を気にして見守っていた新野先生と、奥の寝台の「ひわ」を看ていた善法寺は、
「ああ、それならば辻褄が合いますね」
「足を踏み外したのはその破れ目だったということですね」
「あの……」
「どうぢゃ、ワシの完璧な推理は」
ついていけないひなをよそに、鼻高々な学園長。相槌を打った善法寺は、けれどすぐに眉を寄せる。
「原因がそれだとすると、少し厄介ですね」
「そうですねえ」
「あ……」
「校庭の真上の見えないところだなんて、仙蔵や作法委員の吹っ飛ぶシリーズでもきっと届かないですよ、送り返しようがない」
「まあそう急くこともあるまい。軍属のバサラ者ならばそのうち迎えが来るじゃろ」
しれっと応じた学園長の言葉に、ひなはハッとしたように肩を揺らした。
「迎えは……来ません。きっと、来れません」
痛みを堪えるような瞳は、物影から覗く紫色をじっと見つめていた。
「話はできそうかね?」
「さあ?」
「これこれ、娘が目を覚ましたと言ったのは御主じゃろう」
「……」
こてん、と首を傾げる綾部に、学園長は溜息をついた。
「……まあ、行ってみればわかることじゃしのう」
下がれ、というように手が振られたので、綾部は遠慮なく学園長の前を辞した。本当は作法室に向かう途中だったが、足を向けたのは保健室。授業の残り時間を 平と三年生の戯れを観察して過ごした綾部は、まだ落下物をきちんと見たことがない。起きて動いているなら見に行こうと単純に考えた。
「助けていただいてありがとうございます。あたくしはひな、こちらはひわ……とお呼び下さい」
学園長の来訪と聞くと、「ひな」は皆の制止も聞かず、寝床から起き上がって居住まいを正した。目覚めてすぐの彼女は、隣に寝かされた赤い着物の少女に 「あ……!」と声を上げて取り乱しかけたが、新野先生から熱はあるが大事ないと伝えられてどうにか気持ちを宥めたようだ。
今も、まだ辛いだろうにピンと背筋を伸ばし、まっすぐに学園長とむきあっている。自制心の強い子だと善法寺は関心した。
「ふむ、お主、如何にして学園に現れたか覚えているかのう?」
既に学園長は名乗り終えている。忍術学園と聞いた瞬間の反応を皆注視していたが、ひなはきょとんとも怪訝とも言える様子で、曖昧に「はあ」と頷くばかりだった。
「何故こうなったのかはあたくしにはわかりません。あたくしが覚えているのは、地割れに足を取られて落ちて行く感覚ばかりでしたから」
「お主らは学園の校庭に降って来たのじゃ。まさに落ちて来たわけじゃな。しかし、凧を見た者もおらんしのう」
「たこ、ですか?」
「そうぢゃ、校庭のど真ん中に落ちて来るなら、凧かカタパルトぐらいじゃろう」
「カタ……」
ひなは困惑の呈で繰り返す。学園長は顔色を変えずに「違うようじゃな」と呟いた。
その後も学園長とひなの問答は続き、居合わせた者は、彼女が相模よりも陸奥よりも更に北の辺境から、空間的な概念を捩曲げたかのようにこの地に落とされたのだと知った。
「ふむ……これはあれじゃな」
「あれ、とは?」
訳知り顔に頷く学園長を見る、ひなの目は真剣だ。
「誰かのぶち抜いた頁の穴から学園の校庭に転がり落ちたのぢゃ!」
「え……?」
真剣だったひなの目が、見事なまでに点になる。一方、彼女の体調を気にして見守っていた新野先生と、奥の寝台の「ひわ」を看ていた善法寺は、
「ああ、それならば辻褄が合いますね」
「足を踏み外したのはその破れ目だったということですね」
「あの……」
「どうぢゃ、ワシの完璧な推理は」
ついていけないひなをよそに、鼻高々な学園長。相槌を打った善法寺は、けれどすぐに眉を寄せる。
「原因がそれだとすると、少し厄介ですね」
「そうですねえ」
「あ……」
「校庭の真上の見えないところだなんて、仙蔵や作法委員の吹っ飛ぶシリーズでもきっと届かないですよ、送り返しようがない」
「まあそう急くこともあるまい。軍属のバサラ者ならばそのうち迎えが来るじゃろ」
しれっと応じた学園長の言葉に、ひなはハッとしたように肩を揺らした。
「迎えは……来ません。きっと、来れません」
痛みを堪えるような瞳は、物影から覗く紫色をじっと見つめていた。
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