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 はあっはあっはあっはあっ

 彼女は息を乱しながら、懸命に夜の森を走っていた。
 後ろを振り向きそうになるのを必死で堪えて、両腕に抱えたものがずり落ちそうになるのを何度も抱え直して、とにかく真っ直ぐ走りつづけた。

 雑多な物が焼け焦げた厭な臭いと、そこにまじる金臭さ、怒号や悲鳴やげびた笑い声。全てが彼女を駆り立てる。

 逃げなければ。この狂乱の宴の犠牲になる前に。

 逃がさなければ。せめて、この腕に抱いた二つの幼い命を。

 それだけを己に言い聞かせて、置いてきたものを無理矢理意識から締め出して。

「──!」

 けれど彼女は唐突に足を止めた。

「ぃやっ……!」
 怯える彼女に、追っ手がニヤニヤ近付いて来る。
 彼女はその場に立ちすくんだ。

「嫌っ! 止めて! そんなこと望んでない!」

────カッ!

 嫌がる彼女を下品な笑みでねめつけていた追っ手は、何かを感じて彼女に伸ばした手を引いた。
 それは確かに正解だった。
 彼女を軸に、膨大な魔力が渦を巻き、周囲の空間を飲み込み始める。

「何だぁ?」
 その異様さに戸惑う追っ手。

 彼女は魔力に抗うように、逆に追っ手に近付いた。しかし──

「止めて、アビィ! 私はまだあなたといたい!」

 ホギャア、ギャア、オギャア!

 彼女に触発されて、腕の中の双子が泣き喚いたのは追っ手にも解った。
 或いは、赤子達が泣き喚いたのはこの異様な魔力に触発されて、かもしれないが。

 けれど、魔力の生み出す風に耐え切れず追っ手が目を庇っている間に、それは前触れもなしに消えてなくなっていた。
 赤子達の泣き声も、彼女の悲鳴も、双子を抱いた女性の姿も。

 魔力の渦は、彼女達を飲み込んで満足したように静まっていた。
 追っ手は他の仲間達が探しに来るまでぽかんと全てが消えた空間を見つめていた。



 その日、聖王国の辺境にあるエニアと呼ばれた小村が盗賊によって滅ぼされた。
 駆け付けたトライドラの騎士が調べた限り、生存者はない。

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