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もし風音が後5~10歳くらい若くて、お相手は本編どおり緑葉君だったら。
何て言うか後味の良くない終わり方。書き上げてみて、ここでくっつかないことの意義を再確認した、みたいな?

◇本編未読の方のための補足
本来の年齢はピピンの1つか2つ位年下……三十路。このifでも風音は成人女性ということです。
諸事情あって、箪笥の角にぶつけた足の小指を癒す程度の微弱な癒しの力を持っています。
場面はヘルム峡谷の戦い後です。ボロミアを全力で救済した関係で彼から結婚を申し込まれ動揺中。

◇本編をご覧になっている方への補足
本日アップした「想いの在処2」の途中からの展開分岐です。
緑葉君との間は一応、甘くなってる筈。

それでもよいという方は下の「続きを読む」から(携帯・スマホの方は単なるスクロールですが)

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 窓を開けて、冷たい空気を思い切り吸い込むと、風音は幾らか心臓が落ち着いた気がした。
 昨日から纏めたままでいた髪を下ろし、夜風に遊ばせる。手の中の髪留めは、それを与えてくれたエルフの奥方や髪を整えてくれたエルフの青年を彼女に連想させた。

「ガラドリエル様はこんなことになるかもってご存知だったのかなぁ」
 風音は溜め息を吐いた。

 得られるものは少ないと彼女は風音に忠告した。
 少ないどころか過剰な愛情が惜し気もなく注がれようとしている。
 けれど、図らずも彼をそう仕向けたのは風音の行動であり、それでありながら彼を拒もうというならば、これ以上風音は彼の傍に留まるべきではないのだろう。旅の仲間の元を離れるとなれば、風音は一人でロリアンか裂け谷か、護りの力の有効な土地に逃げ込むことしかできない。そうなってしまった時に彼女が得られるものは、孤独と後悔──ガラドリエルの忠告はまさに的を射たものとなる。

 ローハンの人々は彼女の選択に失望するだろうし、旅の仲間達は彼女をどう思うだろうか。
 先程助け船をくれたギムリや、忠告をくれたアラゴルンやガンダルフは言わんこっちゃないと呆れるかもしれない。ホビット達は、誠実な彼の心を玩んだと軽蔑するだろう。そしてレゴラスは。

「…………うわ」
 風音は窓枠にゴチンと頭をぶつけた。
 想像しようとしても、想像できない。思い浮かべた彼の姿が、そのもしもを考えるとぐにゃぐにゃに歪んで霞み、消えそうになる。

「重症……」
 何故そんなことになるのか、風音はきちんと把握していた。


「凄い音がした。大丈夫?」
「音だけだよ。別になんでもない」
 聞こえてきた声に、彼女は違和感なく応えを返した。

 声は問う。
「でも重症、なんでしょう?」
「そういう意味じゃなくて」
「じゃあ、どんな?」
「雑念で考えが纏まらない。放っておいて」
「カザネ」
 そこで彼女はハッとして顔をあげた。

 今、自分は誰と話している?

「……レゴラス?」
 風音は恐る恐る名を呼んだ。そんなわけはないと思いながら。そうであってほしいと願いながら。

「やっと気付いてくれた。その……中に入っても構わない?」
「良い、けど。何でそんなところから……」
 声は窓の外からで、彼女が首を伸ばすと、壁の凹凸に手と足を引っ掻けている、フードを被った不審人物を見つける。
 風音の了承を得ると、彼は窓枠に手を伸ばし、身軽に室内に飛び込んできた。

 パサッと弾みで外れたフードの下から、目映い金髪のエルフが現れる。

「ギムリのアイデアだ。ローハンの人達の悪気ない興味で君は殆ど見張られているようなものだろう?」
「それでわざわざ窓から?」
「裂け谷での日々を思い出したよ。会議が始まる前の、ね」
「あはは。そういえば散々驚かされた」
 風音が思い出して同意すると、レゴラスも微かに表情を緩めた。彼はふと、視線を彼女の眼から逸らす。

「額」

「え?」
「赤くなってる。さっきの痛そうな音はこれ?」
「あー、うん」
 風音はばつが悪く頷いた。跡に残るほど強く打ち付けた自覚はなかった。

 そっと伸びてきたレゴラスの手が、怖々と彼女の額を撫でる。風音はびくっと肩を震わせたが、外気にさらされてひんやりとしていた彼の指先は、寧ろ逆上せ気味の頭には心地よかった。
「本当に、痛くない?」
「大丈夫。レゴラスの手、冷たくて気持ちいい」
「カザネは顔ばかり怪我して。頬の腫れは引いたようだけど」
「……ごめんなさい」
 額に触れていた手が、彼女の頬を包み込んだ。微かに震えているのが、彼の手なのか自分自身の方なのか、風音にはよくわからなかった。
 レゴラスは身を屈めて、赤くなっているという彼女の額に唇を落とした。

「──!」
「痛々しい跡が残らないように」
「だ、だからって不意討ちはちょっと」
「なら──君の頬にも」
「腫れは引いたって、今」
「赤くなってる」
「それは、レゴラスが!」
「私が?」
「赤くなるようなこと、するから」

「カザネ」
「ひゃっ?!」
 突然強い力で抱きすくめられて、風音は小さく悲鳴をあげた。肺から空気が押し出された弾みに出たような、しゃっくりのような音だった。

「ごめんカザネだけど私には余裕も時間もないんだ」
 レゴラスは力を緩めぬまま、早口で彼女の耳許に言った。

「今赤くなったのは私にも望みはあるということ? カザネの心はまだ誰にも捧げられてない? カザネが帰れないことを喜ぶような最低最悪の私でもまだ傍に居させて貰える? 答えてカザネ。不意討ちはちょっと、なら、そうじゃなければ構わないの? それは誰にでも? それとも私だから?」
「~っ! そんな、一度に答えられないよ!」
 風音はもぞもぞと動いて、どうにか呼吸を確保する。

 目の前の白い喉元は、彼女にクリバインから隠れた時のことを思いださせた。
 たった一言「大丈夫?」と囁かれただけでくらくらしたあの時には、きっともう彼女の心は囚われたようなものだった。
 あの時と同じ落ち着かない気持ちの中で、風音は辛うじて意識に残った最初の発言について訊き返した。

「余裕も時間もないって、どういうこと?」
「言葉通り、そのままの意味だよ。すごく緊張して、君の顔も見れない。加減できなくて君を抱き潰してしまわないか冷や冷やしてる」
「っそのまえに、私の心臓が破裂するから! そんな色っぽく囁かないで!」
「色気があるのはカザネの方だ。薔薇色の頬、潤んだ瞳、珊瑚のように赤い唇。誰のために色づいている?」
「誇大表現、美化しすぎ! レゴラスみたいな美形に言われたくない!」
「茶化さないで。それともカザネは雄々しいのが好み? アラゴルンや…………ボロミアみたいに」
「違っ……!」
 反射的に否定してから風音は思い出した。

 彼女はそのボロミアに求愛されているのだ。一人で宛がわれた部屋にいたのは、そのことについて考える為だった筈だった。けれど。
「そういうんじゃなくて! その賛辞は分不相応、ていうかあの……もしかして知って、る?」
「知らない」
 レゴラスは即座に答えた。

 彼女は何を、とは言わなかったのに訊き返されず、断言されたことで本当の答えがわかる。
「知ってるんだ……そう、だよね。言われるまで気付かないのなんて私ぐら──」
「カザネ」
 風音の自虐混じりの言葉は、レゴラスの強い呼び声に遮られた。

「その話は聞かせないで。もし、私に少しでも望みを持たせてくれる気があるなら」
「望み、なんて……!」
 風音はぎゅっとマントの裾を握り締めた。
「私の方がずっと諦めてた。叶うわけないって、からかわれてるだけだって、それでも!」
「ほんとうに?」
 初めて力が緩んで、レゴラスは驚いたようにまじまじと彼女を見つめた。
 風音が恥ずかしくなって彼の胸元で顔を埋め隠そうとすると、彼は額を寄せて彼女が俯くのを阻止した。

「……頬が赤くなってる」
「だからっ!」
「反対側も」
「って……!」
「耳まで赤い」
「ぅ……」
 指摘した個所に、彼は次々と唇で触れていく。そうすると風音はますます赤くなるので、暫くキスの雨が止むことはなかった。

「その傷が早く癒えるように」
 最後にレゴラスが触れたのは、噛み傷の残る唇だった。他のどの部位にするよりも怖々と、そっと撫でるような口付けは、風音には物足りなく感じられた。

「れごらす」
「傷に響いた?」
 風音はフルフルと首を左右に振る。舌足らずな発音は風音自身を動揺させた。
 彼の名を呼んで、そして強請ろうとしたことが急激に恥ずかしくなって、風音は顔を俯かせる。

「それとも、嫌だった?」
 風音は再び首を振った。
 また酷く甘えたような声が出るのではと、躊躇が言葉での答えを留める。
「カザネ」
 レゴラスの声に、微かな憂いが混じった。風音がそれと察せられたのは、それだけ全身が彼に集中している証拠でもあった。
 風音は俯いたまま慌てて、どうすれば寧ろその逆なのだと伝えられるか考えた。結果──

「カザネ?」
 今度の呼びかけは、純粋な戸惑いだった。風音はその場で唐突に、癒しの力を使いだした。
 鏡も何もないので指先で状態を確かめ、酷い傷とは言っても部位的に目立つだけだった唇の噛み跡が癒えるまで少し待つ。
 それから彼女は顔を上げて、精一杯背伸びをした。

「──!」
 彼女から唇を重ね合わせると、流石にレゴラスは驚いたように身動ぎした。
 けれど、風音のつま先立ちが限界になる前に抱き寄せる腕に力を籠め、身を屈めて無理を埋める。

 改めての口付けは、不慣れなぎこちなさと精一杯の気持ちを籠めた分、深く長いものになった。自分よりもずっと長い年月を生きている何にでも器用な彼が、この点においては不器用で上手くリードしきれずにいるところが意外でおかしくて、風音は心持ち緊張が解れた気がした。
 こみ上げてくる愛しさに任せ、風音はレゴラスにぎゅっと抱きついた。
 抱き返す力は彼女の全身を締め付けんばかりだったが、それすらも今の風音には甘い喜びだった。

「すきなの。あえないあいだずっとさびしかった」
「私も──てっきり君は彼を選んだのだと恨めしく思ってしまった」
「この好きはレゴラスだけ。ほかのひとは愛せない」

 他の人──ボロミアは愛せない。それが風音の下した結論だった。

 こんなにもレゴラスを想う気持ちで溢れているのに、どうしてボロミアの想いを受け容れることができようか。気持ちに無理やり蓋をしていた間は、彼に対して責任を取るべきかという考えが頭を離れなかったけれど、レゴラスの気持ちを知ってしまったからにはそんな考えはあっけなく吹き飛んでしまった。

 風音は心の中でそっとボロミアに詫びて、再びレゴラスと口付けを交わした。
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