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 あたしの体調を能勢くん達がスゴく心配するもんだから、あたしは途中まで中在家先輩に送ってもらうことになった。

 気まずいんだけど、まさか後輩に送ってもらうわけにはいかないし、選択肢なかっただけなんだからね!
 並んで黙々と歩くあたし達は奇妙だったに違いない。通りかかった善法寺先輩が目を丸くしてなにか言いかけて──盛大にこけたり、中在家先輩に声をかけようとしたらしい食満先輩が、笑顔で息を吸い込んだ所で固まって言葉をなくしたり。
 空気を読まずに突進してきたのは、七松小平太体育委員会委員長(三郎:「何で委員会の肩書-w」)位だった。

「お、なんだなんだ、長次今帰りかぁ?」
「小平太、モソ」
「おぉう? 二人きりで下校って事ぁ、ついに仕留めたか!! やったな!!」
「しと……?」

「な、七松先輩! いきなり進路を逸れるのはやめてください!」
 七松先輩の勢いに呑まれてると、息を切らせた平までやって来た。

「お? すまんすまん。長次を見かけたからついな」
「それに声が大きいです!! あと、「仕留めた」じゃなくて「射止めた」じゃないんですか」
「うん? そうとも言うな。ははは、細かいことは気にするな!」
「全くもう!」
 すみません、としおらしく平に頭を下げさせるのは、さすが七松先輩なんだけど。

「しっかし良かったな、長次! 長かったもんな!」
「だから先輩、声が大きいですって!」
「目出度い事なんだから別にいーじゃないか!」

「小平太、ダマレ」
「なんだ長次、照れるな照れるな」
 七松先輩はバシバシ中在家の肩を叩いた。それで初めて、平はあたしに目を止めた。

「あれ、十六夜先輩……?」

「知ってるのか、滝夜叉丸」
「え、ええ。図書室で何度か。ですが──」
「そっか~滝夜叉丸は頭良さそうな場所好きだもんなー」
「おかしな言い回しはやめてください!」
「事実じゃないか」
 七松先輩はけろりと言う。

「私の事は今は良いんです!! 十六夜先輩ですよ」
「そうそう、十六夜比菜子ちゃん! それがどうかしたか?」
「不破先輩か鉢屋先輩とお付き合いされてるのではなかったでしょうか?」
「それは単なる噂だろう。誤解が解けたから二人は付き合う事になったんだろ?」

「ダマレ、と言っている、モソ」
 七松先輩は全く訳が解んない。平の話は確かに単なるガセネタだけど。
 中在家先輩は少しだけ大きな声で言った。
「十六夜は体調がすぐれないモソ。余計な話を聞かせるな、モソ」
「──!」
 あたしを七松先輩から隠すように、中在家先輩は片手を広げた。ヤバい、オトコマエだ。

「体調悪いのか?」
 多分七松先輩は首を傾げた。
 中在家先輩が動いたからあたしには見えない。

「んじゃ引き留めて悪かったな」
「そうですよ、七松先輩! 中在家先輩、出過ぎたことを申し上げて済みませんでした。十六夜先輩もお大事に」
「こら滝夜叉丸そんなに慌てて戻らなくても良いだろう!! 十六夜、長次は良い奴だからな!!」

「小平太」

「わ、怒るなよ、本当の事だろう!!」
「七松先輩! もう! 行きますよ!!」
 体育委員の二人は賑やかに離れていった。騒がしい声が聞こえなくなるまで待ってから、やっと中在家先輩は腕を下ろした。あたしはその間することもなくて、ぼーっと先輩の広い背中を眺めていた。

 何の事かわかりませんって、七松先輩に声かけられた時点で離れておけば良かったのかも。
 そうすれば七松先輩と平のおかしな会話を聞くこともなくて、オトコマエな中在家先輩を再認識することもなくて、それから。

「十六夜」

 振り返った中在家先輩は静かな顔をしていた。
「こんな形で知られるのは本意ではないモソ。が、誤魔化すつもりは毛頭ないモソ。
 他に想う相手が無いならば考えてみてほしいモソ。私は──」

「ああっ!!」
 あたしは大声でその先を遮った。

 沙彩ちゃんがいる。

 偶然、だろうけど校舎の方から歩いてくる、ところで。

 その先は聞いちゃいけないと思った。だから、

「すみません先輩! 帰りに家に寄るって約束してたんです!!」
空気が読めてないふりをして、勢いよく頭を下げた。誰と、なんて言わなくても察してくれるって前提での逃亡だった。

 先輩は、あたしを引き止めたりはしなかった。

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「──つまり、お前は、クラスメイトの言葉をきっかけに気付かされた中在家先輩の意外な一面に気をとられて、委員会の仕事をサボってしまったというわけだな?」
「ええっ、今のってそんな話かなぁ?」
 あたしがリンゴジュース飲んで一息いれたところで、三郎は身も蓋もない話のまとめに入った。

 悔しいが、今までの部分を要約すると別に間違っちゃいない。
 三郎はじろりとこっちを見る。
「それが何で雷蔵に関係してくるんだ」
「まだ話の途中」
「ならさっさと続きを話せ」
「うー……わかってる」


 話しにくいから、あそこで切ったんじゃないか!

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 今日の昼の事だ。
 クラスの女の子達とワイワイしゃべくりながらご飯を食べてた。
 その時、どんな流れでそんな話になったのかは解らない。あたしは食後にオレンジジュースを買って戻ってきたところだったから。

「え、えっと……中在家先輩って、優しくて素敵だなぁって……」
 恥ずかしげに顔を俯かせてか細い声で言ったのは、沙彩ちゃん──大人しくて、華奢で、守ってあげたくなる系女子。誰が好きとか嫌いとか、先輩カッコイイとか仲良くなりたい、とか。そんな話に混じってる事なんてあたしが知る限りこれまで一度だってなかった。

「え、中在家先輩?」

 ビミョーに顔を歪めるのは、図書室でうるさくしたりして先輩に怒られたことがあるような子達。それ以外の子は、沙彩ちゃんが初めて話題に乗ってくれたことに喜んで、
「た、確かに物静かな所なんて沙彩ちゃんと気が合いそうだよねっ」
「頼り甲斐はスゴくありそうな存在感だしね!」
とかなんとかてきとーなことを言ってる。

「そ、そんなんじゃなくて、ね?」
 顔を赤くした沙彩ちゃん。助けを求めるようにあたしを見てくるから、

「ほらほら、はしゃぎすぎて困らせない。ちよ子次の授業、当たるんじゃなかったっけ?」
 わざとガタガタ音をたてて椅子を引きながら、視線を散らした。
「そりゃ、あんたは良いよね~、身内にあんなカッコイイのが二人もいるし」
 ブーブー言われるのはいつもの事。やつらだって別に本気じゃないの解ってるから。

「羨ましいだろ」
「ちくしょー、羨ましいっどっちか寄越せ!!」
「素直でよろしい。だが断る」
 いつものじゃれ合いで解散した。ホッとした沙彩ちゃんがまだ赤い顔のままで小さく「あの、ありがとう」って離れてったのが、いつもと違ったところ。

 ホントにスキ、なんだろうな、なんて考えたら、少しだけモヤっとした。


「十六夜、何かあったのか?」

 放課後の図書準備室。
 あたしは図書委員の当番で、破損図書の修繕をしていた。間が悪いって言うのかな、当番四人で役割分担したときに、今日の相方が図書委員長──つまり、件の中在家長次先輩になっちゃったのは、さ。

 いつもは意識なんてしてないのに、赤い顔した沙彩ちゃん思い出したら、先輩の事が、姿勢のよさとか爪が切り揃えられた指先とかちょっとした仕草だとかが、気になって仕方なかった。罪悪感──だと思うんだよね。大人しくて引っ込み思案なあの子のスキナヒトと二人きりでいるってことに。
 それで気が散って、ついつい手が止まって。
 先輩に思いきり心配そうな顔をされてしまった。

「な、何でもナイですよ? ただ最近破損図書多いなーって気になって」
「……無理をするな」
 先輩は作業の手を止めて、少し迷うようにしてからあたしの頭を撫でた。
 安心を誘うような大きな手。あぁ、沙彩ちゃんはこういうところが好きなのかな。

「十六夜」
 慣れないと聞き取れないようなモソモソした低い声。でも、その時の言葉ははっきりと聞き取れた。

「雷蔵と、何かあったのか?」

「え?」
「……気のせいならば、それで良い、モソ」
「…………」
 視線が合っていたのは、ほんの数秒だったと思う。いつものモソモソに戻ると同時に、先輩は目を伏せた。
 なのにあたしは、その先輩の両目に、縫い止められてしまったみたいに動けなくなった。

 何で、今日に限って。
 いつもならそんなネタを振ってくるヒトじゃないのに。
 そんな真剣な目で、そんなこと──

「……十六夜先輩?」
 気が付くと委員会の時間は終わってた。
 中等部の能勢くんが不思議そうな顔であたしを呼んで、はっと手元を見ると、修繕するはずだった本は全部綺麗に片付けられていた。

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「雷蔵、御願い付き合って!!」

 部屋に飛び込んでくるなりそんなことを叫んだあたしに、雷蔵はキョトンとした顔をして、それからおっとり微笑んだ。

「どうしたの、いきなり? 買い物?僕でよければ荷物持ちに付き合うけど」
「そっちじゃなーい!」
 予想通りの誤解をしてくれた雷蔵。あたしはヤツの襟首を掴んでぐいっと自分の方に引き寄せる。

「雷蔵今フリーだよね!? だったらあたしと付き合っても問題ないよね!?」
「へ、え……ええっ!?」

「何ともムードのない告白だな。下らない冗談で雷蔵をからかうな」
 ガスっとあたしの頭を叩きやがった三郎は、読みかけの雑誌をあたしと雷蔵の間に差し入れる。それからその雑誌であたしの顔を押し返した。

「ぶべっ……! 何すんのよ、三郎!!」
「猛牛が雷蔵に襲いかかってるように見えたからな」
「何だとコノヤロ」
 三郎は我が物顔で寛いでるけど、ここは雷蔵の部屋だ。同じイトコ同士でも、幼馴染みでもあるあたしの方が過ごし慣れた場所なんだぞ。つか、何でいるんだ。

「んで」
 三郎は雑誌をベッドの上に放り出して促してきた。

「何のつもりなんだ? 突然」
「……! そ、そうだよ!! 比菜子ちゃん。理由を言ってくれなきゃ解らないよ」
 唖然として固まってた雷蔵も、動きを取り戻して身を乗り出す。あたしは俯いて唇を尖らせる。
「……雷蔵が好きだから、ては思ってくれないわけ?」
「へ?!」
「そんな態度じゃなかったろう。ホレ、貴重な時間を割いて付き合ってやってるんだ、さっさとはいちまえよ」
 これだから三郎はイヤなんだ。
 勢いに任せて雷蔵と付き合ってるって既成事実さえ作ってしまえば、色々丸く収まるのに。

「……」
「比菜子ちゃん、流石に僕も訳が判らないままそういう「付き合う」はできないよ」
「雷蔵もこう言ってるぞ」

 お前のせいだ。
 けど。

「…………はぁ」
 あたしは溜め息を吐いて、愛用のクッションに顔を埋めた。
 ホントは聞いてほしかったのかもしれない。
 三郎に見透かされたのは悔しいからそんなこと言わないけど。

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【如何しようか】
 このカテゴリは香月亭・縁側のどちらのメニューに並べるところを想像しても自分でしっくりこなかった話などをまとめていくスペースです。
 ジャンルそのものはすでに手を出してるジャンルが中心になると思うけど節操なしにはびこる恐れも無きにしも非ず……あと、タイトル決められない奴とかも話しできた奴はカビを生やす前に上げてこうかと思ってます。だって寝かしてたって熟成じゃなくて発酵してくだけだし。
 ばさらんの注意書き同様、このページの下の方に各話リンク貼ってく予定です。

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