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「改めて自己紹介してくれんかな?」

 三反田の知らせを受けた学園長は、はじめ二人を学園長室に呼び出そうとして三反田と善法寺と、たまたま居合わせた食満から却下を喰らった。

「意識回復したばかりの病人歩かせるって学園長あんた何考えてるんだ!」
「そんなこと言ったってわしは年寄りなんじゃぞ! 少し労ってくれても良かろうに」
「ほぉ、昨日まだまだ若いもんには負けんと年甲斐もなくはしゃいで、生垣とヘムヘムの小屋をぶち破ったお方の言葉とはとても思えないですね」
「ヘム!」
 怨みがましいヘムヘムの一声も生徒達に味方する。三反田はまだ無惨な様を晒す庭の一角に、そんな理由だったのかと虚ろな視線をくれた。

 三人と一匹の説得で渋々腰をあげた学園長は、それでも保健室に着くと威厳を取り繕うように背筋をしゃんと伸ばして尋ねた。

「わしがこの忍術学園の学園長、大川平次太秦ぢゃ。娘達よ、改めて自己紹介してくれんかな?」

 ひなとひわは顔を見合わせ、後者がコクンと首を動かしてから口を開いた。
「お目にかかれましたこと、望外の喜びと存じます。わたくし遠方を旅しておりました、ひわと申します。この度は不測の事態に御慈悲をいただきましたこと、まこと感謝に堪えません」
「ひなでございます。改めまして御礼申し上げます」
 相似の表情、穏やかで丁寧だけれど平淡な声。着物は変わらず藍と緋だったが、上衣は軽く羽織るだけ、装飾も取り払った今は、眠りに就いていた時よりも線の細さが際立った。

 まるで、色違いの人形のように。

「ふむ、そこまで畏まられると逆に落ち着かんのう」
 学園長が呟いたのは、最前の食満達とのやり取りを連想したのだろう。二人の反応は、眉根がぴくりと動いたのみ。静かなみなものように凪いだ視線は、戯れに付き合うつもりはないようだ。

「ふむ」
 学園長は居心地悪げに身じろぎした。

「バサラ者のお主らならば、この時勢、引く手数多、がっぽり儲けて左団扇も夢ではなかろう。望みの城があるならば、送り届けてやらんこともないんじゃが……」
 ちらり、学園長は片目で二人を見遣る。
「……その前に、ちぃとばかしお主らのバサラ技を見せて貰えんかのう」

「「学園長!」」
 善法寺と食満はダブルで叫んだ!
 三反田がそうしなかったのは、多少なりと学園長の思いつきに惹かれたからだったりする。少し前にひわ一人の怒気に気圧された筈だが、それとコレとはまた別のようだ。

「何考えてるんですか! 全くミーハーなんだから」
「その交換条件は明らかにおかしいでしょうが! 病み上がりなのに二人とも困惑してるじゃないですか!」
 食満が指差すとおり、ひわの目は反応に惑ったように揺らいでいた。ひなは顔色を悪くして目を伏せ、着物の端をギュッと握り締めている。

「学園長」
「「──いえ」」
 善法寺が説得の言葉を口にしようとするのに被さって、凛とした声が彼らの思惑を否定した。
 俯いたままのひなと、視線を真っ直ぐ学園長に定めたひわと。

「今この日ノ本であたくし達の属すべき城はありません」
「帰るべき場所へ還る道筋は、わたくし達自身で見出ださなければならないでしょう」
 宣言する声は変わらず平坦。だがそれはどうやら感情を押し殺したもので、二人の真摯さを損ねるものではなかった。

「ふむ……ならばどうぢゃ? 時が来るまでこの学園に身を寄せるのは」
「学園長?!」
 今度の反対を含む声は、食満だけからあがった。
「なんじゃ、お主はさっきからいちいちわしの言葉に反対して」

「あの」
「なんじゃ」
「属すべき城がなくて、帰るべき場所はあるんですか?」
 恐る恐るの声をあげたのは三反田。学園長は眉を上げ、二人の少女へと視線を移す。
 ひなに至っては泣き出すかもと善法寺は身構えた。

 ひわの右手がひなの手に重ねられる。

「今はまだ──見出だされていないけれど」
「見つけ出すと互いに誓っていますから」
 ひなの顔が上がった。
 涙は浮かんでいない。
 その年齢の少女が見せるには深い感情を秘めた眼差しが、真っ直ぐ学園長を見据える。
 二対の視線を身に受けた学園長は、珍しく真面目に彼女達を見返し──

 ぽっ

 頬を赤く染めて頭を掻いた。
「そんなに見つめられると照れるのう」

──がくがくがくっ
 食満と三反田と善法寺は、一斉にその場にずりこけた。ついでに棚から落っこちた救急箱が、善法寺と三反田の頭に相次いでバウンドする。

「学園長ぉ……」
「珍しくシリアスだったのに……」
 涙を流す最上級生をよそに、学園長はふぉっふぉっふぉと笑ってひなとひわに続けた。

「それならばなおのこと、学園に留まるのが良かろう。今なら三食昼寝にわしのブロマイド付きぢゃ!」
「……その対価としてこちらが支払うものは?」
「ひわちゃんは冷静ぢゃのう」
「……」
「…………ぅほん。そうぢゃな、お主らをばさらについての特別講師として雇おうかの」

「「「なんだってぇ?!」」」
 ガバッと起き上がったうち、善法寺は先程の救急箱に手をついて再び床に転がった。それにも特にリアクションせず、二人の少女は瞬きだけで学園長へ視線を戻す。

「あたくしにバサラ能力の適性は殆どありませんが?」
「戦闘たいぷはひわちゃんの方かのう?」
「わたくしもバサラ者としては三軍以下ですが──」
 水を向けられたひわも淡々と返す。ちょっぴり期待していた三反田はしょんぼりし、食満は引き攣った笑みで、こんな子供のバサラ者なんておかしいと思ったとうそぶく。ひわはちらっと食満を見た。

「──バサラ技を何も見ないで実戦にしくじるよりは、確かに生還率には影響するかも知れませんね」
「はっ! ……はぁっ?!」
 ひわの言葉を鼻で笑った食満は直後、怪訝な顔で振り向いた。

「油断、大敵」

「え? ひなちゃん?」
 三反田は目を擦った。ひなは変わらずひわの隣に姿勢正しく座しているのに、いつの間にか食満の真横にもひながいて、頭巾の隙間へ花を一輪差し込んでいた。

「分身の術?! ではないみたいだね」
「御明察。蜃気のようなめくらましの術技──花は本物」
「何っ!」
 淡々と言われた食満は慌てて頭に手をやる。ひなは静かに元の場所へ戻る。食満に気を取られている間に、ひわの隣の幻は消えている。

「……」
 食満は花とひなを微妙な表情で見比べた。ひなは善法寺に目を向け、
「善法寺殿、あなたは冷静ですね」
「アハハ、何年か上の先輩に、よくからかわれていたからね」
「佐助先輩か……」
「「──!」」
善法寺の答えと食満の相槌で、初めて明確にひなとひわの表情が動いた。

──ふむ。
 学園長は片目で二人を観察する。

 単純に動揺の色を滲ませたひな、痛みのような悲しみのような色を3秒かけて飲み込んで、無表情ぶりに拍車のかかったひわ。そのひわが溜息の後に食満を冷たく見る。

「……バサラ者を見知っていながら侮るなんて、気楽者だな」
「えっ! その佐助先輩ってバサラ者だったんですか?」
「我々の三学年上だから、丁度数馬とは入れ違いかな。上月佐助先輩。バサラ者の才能を開花させて、結構立派な大名のところに就職したはずだよ」
 三反田の問いに答えるのは善法寺。食満は、
「佐助先輩と才蔵先輩はバサラ技等に頼らなくても優秀な忍びだ、格が違う」
クルクルと抜き取った花を弄びながら負け惜しむ。

「その二人が共闘してもままならないことが起きるのがバサラの戦。機会があるならばバサラに慣れておいて損はないと私は思う」
「何っ?!」
「留さんっ! 二人が言うのも一理あるよ」
 一定の調子で言葉を発するひわに身を乗り出した食満を、善法寺が慌てて抑える。

「てめえ伊作どっちの味方だ!」
「味方とか敵だとかそういうんじゃなくてさ」

「これからの戦は、敵にも味方にも複数のバサラ者がいるのが当たり前になっていくということ」
「学園長殿の考えは、教え子の生存率を上げる意味で不適当とは言えない──授業で対応をしくじってもやり直しはできるけれど、戦場でしくじって命の保証はないのだから」
「くっ……!」
 善法寺の言葉を継いで、ひなとひわが食満を諭す。
 三反田は二人の言葉を噛み締めるようにして俯いた。

 忍びとしての覚悟を決めた者だけが、後半の学年へと進んで行ける。まだ三年生の彼には遠く思えていた「その先」を、いきなり目の前に突き付けられたように思えたのだ。己と同じ歳に見えるひなの言葉が特に重い。
 食満と三反田の重い空気に構わず、学園長はひなとひわに向かい、

「そう言うからには、特別講師の話──」
「……お請け、します」
「微力ながら」

「それならこれからは先生と呼ばなきゃね」
ほわんと笑って、善法寺は食満の神経を逆なでした。

「傍から見て先生は変でしょう」
 揃ってせんせー、せんせーと声を上げ意図なく食満をからかう善法寺と三反田を止めたのは、溜息混じりのひわの言葉だった。

「というかそもそも私は学園長殿の名しか聞いていない気がするんだけど」
「「「あ」」」

それにしても長さがまちまちなのはどうにかならないか。
一応元いた時代の武田には真田十勇士がいる設定です(武田に真田十勇士とか言葉には物凄い違和感……それがBASARAですけどね)

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