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 抜けるような青空だ。

 人がこぼれ落ちそうな歪みなどまるで見えない蒼穹を、善法寺はじっと睨みあげる。

 保健室で眠る二人の現れた所。
 あの後彼女らは、学園長の計らいでひわの回復まで引き続き保健室預かりとなった。今は新野先生と三反田がついている。彼は最低限各委員長には共有が必要だろう、と他の委員会の活動場所に向かおうとしているところだった。

「……何をやっているんだ、お前は」
 不意に視界の青が遮られ、すっきりとしたシルエットが善法寺に呼び掛けた。
 善法寺はへにゃりとした笑みで友人を見上げる。
「やあ、仙蔵、さっきぶり」

「足をくじいているのを忘れて外に出たな」
「あー、うん」
 差し出された手に掴まって、嵌まっていた蛸壷からはい上がる。
 仙蔵は細身でも、引き上げる力への不安はない。

「ありがとう、助かったよ」
 パタパタと汚れを叩きながら礼を言う善法寺を、立花は呆れを隠さない冷たい目で見返した。

「お前が罠にかかるのは今更だけど、まさか開いたままの同じ蛸壷にはまることはないだろう」
「えっ?!」
 言われて慌てて振り返ると、確かに。学園長を呼びに行こうとした時に善法寺が落ち込んだ蛸壷の場所だった。
 目印を見落としたならまだしも、カモフラージュもされていない単なる縦穴に嵌まるのは不運とは言わない。ただの不注意だ。
 善法寺は苦笑いして、それから肩を落とした。

「ごめん、考え事してた」
「「迎えはきっと来られない」か?」
「どうしてっ!」
 善法寺はガバッと上体を起こした。弾みで捻った筋を刺激して、イテテと顔をしかめる。
 立花は涼しい顔で応じる。
「聞いていたからな。喜八郎が珍しく興味を持ったようだし」
「て、もしかして喜八郎も?!」
「「ひな」は気付いていたぞ。喜八郎を睨んでいた」
「そんな、素人が気付いたのに気付かない僕って……」
「伊作はもう一人を看ていたからな」
「そんなの理由にならないよ」
 善法寺は落ち込んだ。
 救護に気を取られて室外の気配に気付かないようでは忍び失格だ。
 立花はこっそり溜息をつくと、矛先を変えるように言葉を継いだ。

「あれだけ上質の着物と装身具を纏った娘を迎えに来られない状況に、心当たりはあるか」
「それはっ……言わせないで。そりゃ珍しい話ではないけどさ」
「陸奥は遠いからな」
「うん……ありがと、仙蔵」
 善法寺は微笑んだ。
 立花は肩を竦め、
「召集先は保健室で良いのか?」
「え? うん」
「文次郎には伝えといてやる。小平太は長次に言えば伝わるだろう」
ひらひらと手を振ると、善法寺の前から去って行った。

──確かに、生国が滅びれば捜索手配などしようにもないが……
 浮かんだ疑念を語るのは、今ここである必要もない。

 いやぁ、ひなは誰に聞かれてたのかまでは把握していないんですが、ね。

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