忍者ブログ
管理サイトの更新履歴と思いつきネタや覚書の倉庫。一応サイト分けているのに更新履歴はひとまとめというざっくり感。 本棟:https://hazzywood.hanagasumi.net/ 香月亭:https://shashanglouge.web.fc2.com/
〓 Admin 〓
<< 08   2025 / 09   1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30     10 >>
[112]  [113]  [114]  [115]  [116]  [117]  [118]  [119]  [120]  [121]  [122
 一人で泣いていた私は幼子で、たまたま通りかかった医者に拾われて養子となった。

 その世界ではあらゆる住民がデータベースに登録されていて、登録されていない人間は裏社会の中でも更に忌避される「人でなし」扱いだった。
 私は拾い主が変わり者の医者だったおかげで、年齢は若干細工されているものの、一般人としてデータベースに登録されることになった。
 私は毒殺された失敗を教訓に、普通の読み書きを学ぶ傍ら薬品に関する研究に没頭した。
 学校には通わなかった。

 年端もいかない子供がやることではなかったけれど、普通でない育ての親は、私の好きなように学ばせてくれた。その普通でない育ての親が医療系ハンターだと知ったのは、拾われてからゆうに十年は過ぎてからの事だった。
 まだ成長期とはいえ身体もだいぶ出来上がり、薬物に関する研究もだいぶ進んだ頃、彼は私にハンター試験の受験を勧めてきた。
 研究分野は裏世界から狙われるような危険な物──自身の身を守るためにも、今後の研究費用を確保するためにも、プロハンターになっておいて悪いことはない、と。

 私は勧め通りハンター試験を受験し、これまでの世界の経験を活かし一発合格を決め、うっかりと幻影旅団の誰かさんと知己を得てしまった。
 試験中のくじで一時期パートナーになってしまったんだからどうしようもない。

 ライセンス取得後その足で家にとって帰り、育ての親に念の師匠になるよう頼み込んだ。
 念を起すところまでは比較的簡単だったけれど、それをきちんとしたものにするまでにはなんと一年半も掛かった。成長速度鈍化のデメリットがこんなところで幅を利かせたらしい。
 開花した念の系統は操作系──私は最初に、自分の身体能力を向上させるための発を作り出した。
 制約や誓約についてはおいとくとして、その能力は「セルフオーバーコントロール」念の発動媒体は、BASARA者らしく天花六花にしておいた。

 シャルナークを始めとする幻影旅団からは度々狙われるようになっていたけれど、彼らが欲しがったのが単なる研究成果ではなくて研究者そのものだったおかげで、私の命は無事だった。
 過去の拷問史で登場した毒の調査だとか、盗み出した骨董品に含まれていた未知の毒物の解析だとか、ただ調べるだけの内容であれば多少は協力した。フィンクスがその未知の毒にうっかり侵されてしまったしまったときはもう……うん。流石に助けないわけにもいかないかと思って旅団のアジトの一つに大人しくついて行ったよ。
 そんなことを続けているうちにゾルディックからも声がかかるようになった。
 ちゃんと表の医療向きの製薬とか薬効の発表とかだってしてるのにだよ? お得意様が賞金首だらけっていうのは医者の養子としても医療系ハンターとしてもいただけない。

 あぁ、そういう連中ばかりじゃなくて、研究材料採取中にかの有名なジン・フリークスにも会った。
 あれはまだハンター試験受験前だったか後だったか。弟子が秘境の毒虫に噛まれたからって連れられて行った密林では、カイトが片手の指では足りない多種多様の毒物に当たって半死半生になっていた。毒虫に噛まれ、刺され、毒蛇に噛まれ、傷口から毒花の花粉が入り込み、更には毒草の汁が溶け込んでしまった水を口に含んでしまったらしい。あれは別の意味で苦労した。
 立ち直った後カイトがジンの弟子を辞めず、ハンター試験に合格してプロハンターになったのはある種の奇跡のように感じたよ。

 マフィアやらゾルディック家やらその他の暗殺稼業の連中やら、そうじゃなくても面倒な客だらけで疲れ果てる私に、クロロは「最初から旅団の専属になってしまえばよかったんだ」等とのたまった。絶対面白がっていた。

 この世界でのゲームオーバーも、やっぱりこの面倒なお客さん達がきっかけだった。
 彼ら同士の抗争に巻き込まれて、とばっちりでウヴォーギンの大声を浴びた。
 慌てていた私は周りに注意しないまま抗争圏から離れるためにセルフオーバーコントロールを発動してしまい──驚いた顔をしていたから、向こうに害意はなかったんだと思う。もしかしたら、私が動けないと思って、逃がすために操作媒体を打ち込んできたのかもしれない。

 でも。

 連続稼働時間10分が、この発の制約。

 発動中に他からの操作を受けた時には操作も記憶の読み取りもできないような肉塊となるのが、この発の誓約。

 私は彼らの目の前で、肉の塊になった。


 ほんの一瞬の出来事だった。

拍手[0回]

PR
 自室の床に寝そべって、八左ヱ門は懐から取り出した櫛を眺めていた。

 長い間大事に使われていたことがわかる、塗りの剥がれかけ、使い込まれた櫛。
 夕食の時に返しそびれたそれの、本当の持ち主はひわだ。

 雷蔵の髪を梳き終えるかいなかで倒れてしまったときに、彼女の手から滑り落ちた櫛。あの時の赤い顔と潤んだ瞳、ぶっきらぼうな対応は、高熱によるものだと把握した。それはいい。
 解せないのは、何故ひわの方が無理をして、バサラ技を連発したのか。疲労に苛まれた身体を圧して、三人の絡まった髪を梳き、一人一人の名を確かめたのか。

──雷蔵の名前を確かめるため……じゃあないだろうな?

 いくら似ているとはいえ、十年前では雷蔵もちんまいお子様だ。守役の可能性があるとすれば、雷蔵の親類縁者。けれどその程度の繋がりを測るためには身体を張り過ぎではないだろうか。
 八左ヱ門は目の前で見ている。雷蔵の名乗りを聞いた直後の、失望と安堵という共存しないはずの感情に揺らいだひわの顔を。
 守役の話を聞いた後のひなの反応にしても変だ。似ているだけの他人を見つけて、何故あそこまで衝撃を受けるのか──悟らせないようすぐ馬鹿騒ぎを演出したので、彼女達は彼等が違和感を覚えているのに気付いていないだろう。

──と思いたいけど、微妙か。兵助達は多少距離を詰めたようだけど。

 八左ヱ門は、別れ際のひわとの会話を思い出し顔をしかめる。

 「ひわ姐さん、俺らも名前で良いと思わない?」
  い組の二人がいつの間にか名前で呼ばれているのに気付いた三郎。自分と八左ヱ門とを指差して提案したのだが、
 「だがことわる」
 「一言かよ!」
 その前に覗かせた柔らかい微笑を何処に忘れたかという真顔でひわは却下した。

 「鉢屋は鉢屋の方が呼びやすい。竹谷は……八左ヱ門て長くて言いづらいからヤダ」
 「勘右衛門だって十分長いだろ!」
 「ちょっと!」
  槍玉に上がった勘右衛門が声をあげるが、ひわはちらっと彼を見た後、
 「長くないでしょう、勘右衛門は……そうだな。十数年後にどこかで無事に再会出来たなら考えても良いよ」
 「遅すぎだろ、どう考えても」
 「じゃあ三郎は?」
 お墨付きを貰った勘右衛門はのほほんと尋ねる。当の三郎は、肩を落とす姿勢の裏で、ひわの反応を伺っている。

 「鉢屋が何?」
 「いやあの、どのくらい経てば名前で呼ぶ気になるのかって話だろ」
  苦笑して、兵助。ひわは眉を寄せ、苦渋の顔付きになり、瞑目した。それを見たひなも何故か(彼女は最初から名前で呼んでいるのに)難しい顔をして顎に手を当てる。
 「おーい、もどってこーい」
  あまりにも間が長いので兵助は再び呼びかけた。ひわは苦い顔のまま、
 「想像もつかない。
  鉢屋は将来的な主君が大体決まってるでしょう。ある意味それに敬意を表しているってことじゃダメなの?」
「ひわ!」
 ひなは慌てたようにひわを呼んだ。

──大丈夫。
  ひわの口が音を立てずにひなへ告げた。

──大丈夫……何がだ?

 くるり、櫛の裏表をひっくり返す。
 皹が入ったのを補修した跡。着ていた衣は上質なのに、そこまでして使い続けるのは、どんな理由なのか──
 八左ヱ門が気になるのは、この櫛をどこかで見た覚えがあるからだ。
 彼女達──少なくとも、ひわは、この学園に関する何かを知っている。それでいて、隠している。先生方がそれに気付かないはずもないのに敢えて五年生長屋に放り込み、臨時講師の役割を与えたのは……

「ただいまーつっかれたよ!」
 ガラッと戸を開けて、同室の吹田新之助が現れた。
「おー」
 八左ヱ門はおざなりに返して櫛の検分に意識を戻す。それを遮ったのは、ひょこっと上から顔を覗かせた新之助だった。
「なんだよー、やっと実習から戻ったルームメイトにそっけなさ過ぎだろ!」
 言って、八左ヱ門の持つ櫛に目を留める。
「あれ? 何でハチが佐助先輩の櫛持ってんだ?」
「は?」
「は? て何だよ! なんか随分ぼろくなってるけど、それ、左助先輩が実習で使ってた櫛だろ? もしかして、俺がいない間に先輩来てたのかっ?
「うわっ、待て! 来てない来てない!」
 クワッと迫られ、八左ヱ門はゴロゴロ転がって新之助から逃れる。慌てて言い足せば、じゃあ何でそれを持っているのかとジト目を向けられる。
 八左ヱ門は新之助から十分な距離を取ってから睨み返した。

「つか、何で新が佐助先輩にこだわんだよ!」
「実習んときにイロイロ迷惑かけたのに、礼言う暇なく卒業しちまったんだもん! 利吉さんは卒業してからもよく来てくれるけど、佐助先輩は全然だろっ、やっと礼言えると思ったのに!」
「お、おーそうか」
 熱く語る新之助に八左ヱ門は引いた。眼に気迫が籠り過ぎて怖い。豆腐小僧の豆腐語りならもう慣れたが、同室五年目にして初めて目の当たりにする迫力だ。

 実習とはいえ、命を預け合うこの環境では、たまにこうして先輩や同輩への崇拝者が現れる。
 互いが学内にいる間は良い。けれど卒業してからも引きずるようだと、忍としては致命的だ。
 崇拝する相手と戦場で遭遇したら──佐助が新之助に顔を合わせないまま卒業したのも、それを懸念したからかもしれない。

 新之助は膨れっ面で八左ヱ門を睨む。
「で、何でハチがそれ持ってんの?」
「拾った。…………なあ、三年ろ組の四條畷先生って左助先輩の就職先知ってると思うか?」
「知ってるだろうけど聞いても無駄だよ」
 迷った上に新之助に尋ねるが、その前の答えが端的過ぎたからか返答は冷たい。
 そして何より、既に確認済みであることに八左ヱ門は戦いた。

 思い浮かべるのは、この櫛の所有者。
 疑わしさは拭えなくとも、新之助の八つ当たりに遭わせるのは気の毒に思えた。

「いや、そういや知らないなと思っただけなんだ。俺兵助に本借りるの忘れてたからちょっと行ってくるな」
 八左ヱ門は引き攣った笑みで新之助に告げると、じりじり出口へとにじり寄った。
「ハチ?」
「あと、小林先生が、戻ったら体育委員の壊した花壇の修繕で相談したいって!」
「まーた七松先輩かよ!」
 それは本当に今まで忘れていた伝言だった。けれどそのおかげで新之助の崇拝モードが解除され、八左ヱ門は寸でのところで追求を逃れたのだった。

 吹田新之助──緑化委員会委員長代行。

「で、俺らんとこ逃げてきたわけね」
 八左ヱ門が自室での出来事を伝えると、兵助は苦笑混じりの相槌を打った。
「新之助が佐助先輩に傾倒してるのは知ってたけどさー、三木ヱ門が照星さんに憧れてるようなもんだと思ってたよ」
 兵法書をパラパラとめくりながら、勘右衛門。
「田村の傾倒ぶりも相当だけどよ、新之助、あいつ佐助先輩の就職先判ったら、それが何処だろうと追っかけ就活やりかねん勢いだったぞ」
「まさか。大袈裟すぎじゃないか?」
「大袈裟なもんか! 佐助先輩の事問い詰めてくるときのあいつの目、マジヤバかったんだからな!」
「ほんじゃさ、佐助先輩仕えてる殿様が気に食わなかったら闇討ちで城潰そうとするとか?」
「今のあいつならマジでやる」
 八左ヱ門の断言に、兵助と勘右衛門は顔を見合わせた。

 それはあまりにも行き過ぎではないか──?

「けど、今までそんなそぶりなかったんだろ?」
「そもそも俺に佐助先輩との接点がねーよ。話出なきゃ知りようねぇだろ」
「佐助先輩は用具だったっけ」
「きっかけがなけりゃ表に出てこない執着、なぁ……で、これがきっかけ?」
 兵助は櫛の歯を爪で弾いた。
 ぺん、と間抜けな音が三人の真ん中に落ちる。
「確かに佐助先輩が女装の小道具にしてた櫛と似てる、気はする」
「でもそれにしちゃあ年季が入りすぎてない?」
 反対側から櫛を眺める勘右衛門。
「まあな。そう珍しいもんじゃないし、普通に考えりゃ偶然だろ。ただ、あいつらの素性が判らないからな。単純に無関係で切っても良いのかどうか……」
 八左ヱ門は腕組みした。

 櫛に見覚えがあったのは、新之助や兵助の言う通り、佐助が使っていたものと似ているからだろう。実習で使う程度の櫛だから、大した値打ちものでもなく、「似たようなもの」ならいくらでもありそうだ。けれど、それをバサラ者であるひわが持っていた──学園に持ち込んだというのは、何か裏があるのではないかと疑いたくもなる。
 卒業生である上月佐助がバサラ者であることは、接点の薄い八左ヱ門でも知っている。

「四條畷先生に聞くだけ聞いてみたら? 就職先教えてもらえなくても、櫛の事なら確認してもらえるかもしれないし」
「やっぱそれしかないか」
 勘右衛門の言葉に、八左ヱ門は溜息をついて肩を落とした。

拍手[0回]

「説明になってない!!」
 無駄だとわかりながら叫ばずにいられなかった。

 私自身のフラグ? ゲームの大団円じゃまだ足りない?

 途方に暮れる私は、これまでで一番小さな子供の姿に遡っていた。


 四つ目の世界は、和風だった。

 シャオメイのくじで当てた太黄鳥(……)の鞄のおかげで殆どの持ち物を持ち越せた私は、盗み見した人達の恰好に合わせて、着物に着替えてから人里へ降りた。
 ぶかぶかなのは仕方ない。

 そこで物陰に隠れている同じくらいの大きさの幼児を慰めたことで、この世界での私の身の置き所は確定した。

 幼児の名前は梵天丸──金髪じゃないから戦国無双ではないな、ということだけわかった。
 梵天丸の片目の有様を見ても物怖じしなかったことが気に入られて、私は梵天丸の付き人兼遊び相手として伊達家に引き取られることになった。とんとん拍子に話が進んだ後で、性別を誤解されていたことが分かった。
 教育係は乳母の喜多さんとその弟である景綱さん──小十郎さんだ。
 私の他に、時宗丸という同じ年頃の男の子が梵天丸の学友として講義を受けたり身体を鍛えたりしていた。

 最初喜多さんは女と分かった以上もっと侍女的なスキルを私に身につけさせようとしたみたいだけど、武器の扱いに関しては●日の長がある私が課題をこなしてくのを見て梵天丸や時宗丸が奮起するものだから、私個人の育て方よりも次期当主の成長を重視して、八割がた二人と同じ教育を受けさせてくれた。
 残りの二割は着付けだったり、女としての必要最低限の教育に充てられた。

 三人で縺れ合うように転げまわって成長して、ある時はっきり理解した。
 この世界は戦国BASARAだ。

 元服して政宗になった彼はBASARA者としての才能を開花させ、奥州筆頭の座に上り詰めた。
 成実──元服した時宗丸は生憎とBASARA者ではなかったけれど、一般武将としては優れた才能を現して政宗をよく補佐していた。ゲームでは小十郎さんばかりがクローズアップされていたけど、成実も伊達軍にとってなくてはならない重鎮だった。
 私は、と言うと、勿論BASARA者になった。魔法剣士特性なんだから当然。属性はペルソナ通りの氷。ただ、ペルソナや紋章や召喚獣に頼らない純粋なBASARA者としての能力は成長が遅くて、危惧した政宗や小十郎さん、成実達から単独行動は口が酸っぱくなるくらいに禁止されていた。
 形振り構わず戦えば強いんだけどね、特に召喚獣とか目をつけられると要らない火種になるので、戦の時は言われた通り三人の誰かと並びあって刀を振るった。

 刀は双刀で、政宗が奥州筆頭の呼び名を得た時に、「これからもついて来い」と言って贈ってくれたもの。
 扱いは家臣なんだから、下賜されたってことになるのかな。名前は天花六花──勿論、武器自体にも氷属性がついている。その後の世界でも特に支障ない限りはこれを装備していることが多いかな。政宗が直々に選んでくれただけあって、とても使い易い刀だった。

 政宗の六爪流と私の二刀流はある意味対として近隣の武将に恐れられるようになった。
 勿論、小十郎さんは竜の右目として抜群の存在感。単に男女ペアで、二人揃って両手に刀という戦闘スタイルが目立ってしまっただけの事だった。

 小田原遠征を勝利で飾り凱旋したその夜──政宗は言った。

「焦らすのも程々にしてやんな。jealousyで枕を濡らすところなんざ気色悪くて見てらんねぇぜ」
「気色悪って! どういう意味だよ、梵」
「言われなきゃわかんねェってか? おいおいjokeは止してくれよ」
 両手をあげてニヤニヤ笑う顔は憎らしかったけれど、言われた意味は分かっていた。

 景気づけに手元の杯を飲み干して、仏頂面で立ち上がったところまでははっきり覚えてる。

「怖気づいたか? no problem,万一の時は胸くらい貸してやるさ」
 そのまま動きを止めた私に、政宗が軽口を寄越したことも。

 だけど。

「Hey! ユキヤ! What's happened?! しっかりしろ!」

 私の視界はそこで暗転。

 遠ざかる意識が認識できたのは、取り乱した政宗の叫び声と、あ、毒を盛られたんだ、なんていう他人事めいた感想だけだった。

拍手[0回]

 私はまた子供の姿に戻っていた。

 今度の場所は、旧街道沿いの鄙びた宿場町。湖こそ近くにあるけれど、潮の香りは遠い、内陸部だった。

 字幕が宣言した通り、そこは長閑なところだった。
 町の顔役はどこかのフィンガーフート氏みたいな身勝手ではなかったし、駐在武官が一人しかいなくても、町はきちんと機能していた。
 正式な学校はなく、穏やかそうな退役軍人の先生が開く私塾に私も通った。そこで召喚術の素養を見出だされ、顔役であるブロンクスのおじ様からも召喚術について学ぶようになったのが身体年齢十二、三歳くらいのこと。
 それから一年と少しで、機属性の才能はないからと紹介状と共に金の派閥本部に送り出された。

 田舎の子供である私には知らされていなかったことだけど、その少し前に、召喚師の失踪事件があったり傀儡戦争という悪魔との戦争があったりで、本部のある聖王国辺りでは召喚師の数が少なくなっていた。
 世襲が基本の召喚師の家系でも、跡取りの心配が出ているようで、私みたいな素質のある子供が派閥に集められたのには養子縁組という狙いもあったようだ。

 私は──けれど、相性のアンバランスさが興味を引いたらしく、議長直々の指導を受けることになった。
 美人でスパルタな議長様は多分、私が宿してるペルソナや紋章にも気付いていたと思う。だってファミィ様だもの

 ファミィ議長の下で修行を積んで、二、三年はファナンに隠った。
 修行を始めた見習い召喚師が修了前に派閥から遠出を認められるのも珍しいことだけど、四年目に里帰りを認められた。
 ファミィ様の仕事が立て込んだのが建前。派閥内部のゴタゴタから遠ざけてくれたのだとは、親しくなったミニス嬢から聞いた。

 それにしても、このタイミングでそんなゴタゴタが起きたのは誰かの恣意的なものに思えてならない。

 里帰りしたその夜、トレイユの近郊に流れ星が墜ちた。
 竜の子と響界種を巡る事件の始まりだった。


 私塾の後輩だったり、ブロンクス家の兄弟が深く関わっている事件に私が巻き込まれない筈もなく、私はファナンへ戻る機会を失ってしまった。
 コーラルは可愛くて良い子だ。

 行き掛かり上家じゃなくて面影亭で寝起きすることになった私は、宿代稼ぎも兼ねて、ちょくちょくシャオメイのお店を利用した。兼ねてるのは勿論、私のレベル調整だ。
 このシャオメイの店で取得したアイテムは、その後の世界でも重宝するものが多かった。

 ユニット召喚は霊属性しかできないでいた私が、鬼属性のユニットも召喚できるようになったのは、無限回廊で疑似鬼界の魔力を体感できたお陰だと思う。機属性や獣属性の召喚スキルも多少は上がったけれど、多分私につけられた能力特性オプションなんだろうな、そっちのユニットは一向に召喚できそうな気配はなかった。

 魔法剣士特性を選んだとき、私は一部の属性に制限を掛けることで別の属性の成長上限を緩める事を選択した。
 世界により設定されている属性が違うので、どの属性が制限されたのかは世界に出てみてからじゃなきゃわからない。例えば、火の紋章や雷の紋章が低威力でしか発揮できないのに、流水や旋風の紋章なら高威力で応用まで効いたのもそのオプションのお陰。
 召喚属性としては、霊属性特化は早い段階でわかってた事だけど、一番制限を受けてるのは……獣属性。気付いたのもやっぱり無限回廊の中でだった。



 私の歪な魔力バランスは、トレイユ組はともかく、御使い達からは警戒対象だったみたいだ。

 最初に遭遇したデコ天使──もとい、リビエルは相性がいいのかジャックフロストが見えてるみたいで、変なものを憑けた私が主の側に居ることを物凄い勢いで拒絶した。
 そんなこと言われても……ジャックはコーラルの遊び相手でもあるし(コーラルに見えてても不思議には思わなかったんだよな、何故か)キャンキャン騒ぎ立てる金切り声はコーラルのお気に召さなかったらしく、鬱陶しがられてリビエルは落ち込んだりますます私を憎んでくれたりした。
 取り成してくれたのはルシアンだ。後は群島名物のおまんじゅうを振る舞ったりしてどうにか懐柔した

 セイロンは……どうだろうな。表向きあまり露骨な警戒反応は見せなかったけど、かなり長い間観察する視線を感じた。アルバとシンゲンが仲間になった辺りで漸くかな、視線から冷感がなくなったのは。

 アロエリはリビエルと似たり寄ったりだった。
 流石にジャックまでは見えてなかったようだけど、本能的に異質な魔力を感じ取って、でもそれがなにかよくわからなくて、苛々したらしい。リビエルとセイロンからの情報だ。
 アロエリに関しては何がどうして緩和されたのかよくわかんないんだけど……フェアを認めたから、フェアが太鼓判押してくれた私のことも一応は容認してくれたってところかな。

 それにしても、こうまで警戒されるんじゃ、魔力を抑える事を身に付けなきゃいけないだろうな。
 そう思い立ったことも、リィンバウムに来たからこそだ。

 群島では、ジャックの存在を覆い隠すように流水の紋章を宿した。
 おまけで旋風の紋章がついてきて、瞬きの紋章は趣味だ。
 紋章師じゃない私に紋章を付け替える力はないから、これからずっと、この三つの紋章と共に生きてくことになるんだろう。
 つまり──今度はジャックだけじゃなくこの紋章についても、うまく誤魔化す方法を探さなきゃいけないわけで。もっと上位の力とか言ってたら、逆に悪目立ちしてしまう。
 殲滅者アシュタル? 聖鎧竜スヴェルグ? そんなん常駐させてたら余計警戒されるわ

 気のコントロール、ということで、その辺りはセイロン、シンゲンのシルターン組が力になってくれた。
 お礼にはやっぱりおまんじゅうを所望された。やったねカトル! 群島のおまんじゅうは世界を越える評価だよ!

 後半になると、巡りの大樹自由騎士団創成メンバーであるルヴァイドやイオスも参戦してきたので、すっかり大所帯になった。
 あれ、こんな展開だったっけ? とか思わないでもなかったけど、本人達が良いと言うのだから大丈夫なんだろう。
 魔力を抑える訓練も落ち着いてきたことだし、人数が増えたことで見直すことになった襲撃警戒班の当番ローテでは、前衛改め召喚師枠で組み込んでもらうことにした。

 出来上がった当番表を皆に見せたら、いつの間にかユキヤ=見習い召喚師の称号は皆から忘れ去られていたらしく、ブロンクス兄弟にまで「あれ」なんて顔をされた。
 確かに、標準装備が片手剣で鋼の軍団と物理で渡り合ったりもしてたけど、私、君達のお父さんの口利きで金の派閥に行ってたんだけどなぁ?
 

 そして同じ頃に、もう一つの転機があった。

 それは、ギアンの仕掛けてきた、マナ枯らしという病。生粋のリィンバウムの人間にだけは抗体がないという、ご都合主義的な病気
 トリップ時リィンバウムの存在ということになってる私の場合はどうなるかと思ったけれど、影響はなにもはなかった。マナ枯らしに苦しむ仲間達の介護や、不安がる若年召喚獣組を宥めて、解決策捜しに奔走する双子や成年召喚獣組をサポートするのが私の仕事になった。
 双子には御守りのブレスレットがあったから、それで発症を免れたんだって思われてた。私には傍目なんの根拠もなくて、そりゃあ警戒して外には出さないようにするのも道理だった。

 本当は、試してみたいことがあった。

 けど失敗すると余計に苦しめることになるから実験台になってとも言えず、とばっちりを受けた赤き手袋の暗殺者でも町外れに転がっていたら、拾ってきて実験台になって貰おうかと考えていた。召喚術やリィンバウムの術では逆効果、なら、紋章術では──?
 問題が解決した後でシャオメイに訊ねてみたら、やっぱり、回復するか悪化するか五分五分の確率だったろうって言われた。仲間で試さなくてよかった。

 だから窮地を救ったのは、定石通り、双子の祈りがもたらした慈雨。
 快癒の後で、ギアンから双子の素性──響界種であることを突き付けられ、仲間達の間には何とも言えないぎこちなくぎすぎすした空気が漂った。
 その空気を和らげたがったのか、これまで敢えてスルーしてたものが飽和してしまったのか、私は「じゃあ何でお前は平気だったんだよ!?」と仲間達から総突っ込みを貰った。

 私はものすごく大雑把に、私の置かれている境遇を明かした。
 元々召喚とか名もなき世界とかの概念がある世界だ。私がその名もなき世界のどこかから不思議な力で生まれ直した(?)存在だとしても、そのせいで距離を置かれたり疑われたりすることはなかった。むしろ、そんな事かとがっかりされた。ちょっと理不尽。
 まぁそれはそれとして。

 それぞれの不安だとか葛藤を乗り越え、結束はむしろ強くなった。

 諸々あって(狂血の呪いを掛けられたカサスに母なる海使ったら、思いがけず凶暴化が収まった。ちび共にむちゃ感謝された)和解したエニシア派ご一行を交えての最終決戦──フェアとエニシアの涙ながらの訴えとか、ライの激情を乗せた拳とかで見事ギアンを改心させることに成功した。
 助っ人に現れた超律者がライフェア同様の双子だったことには驚いたけれど、とにかく大団円。

 これで漸く家に帰れる──とは思わなかった。群島諸国での十年余りとリィンバウムでのこの十数年。経験した物事は、現代日本での「普通の生活」に帰ることへの自信を喪失させていたから。
 いや、まぁ、家に帰ることに自信も何もないんだけどさ? 

『ハッピーエンドを迎えた後、帰還を希望された方には元の世界・元の時間にお帰りいただけます』

 それが字幕の告げる条件だった。

 だとすれば、今望めば家に帰れる?

 この血に塗れてしまった私が?

 それよりもコーラル達の成長を見守ってリィンバウムに留まる方が幸せじゃないだろうか──


 そんな風に迷っている間に、視界が暗転した。

拍手[0回]

 こんな時間になんですが。ギルガメとの戦いに勝利した後でファイル確認したら、前回更新から日が開いていることに気付いたので取り敢えずあげてみます。
 トモミちゃん達とおしゃべりしてるだけのターン。

 次の更新は縁側の……アビスの下書きどうなってたっけかなぁ

拍手[0回]

プロフィール
HN:
真田霞
性別:
非公開
P R
Copyright(c) 幕間 All Rights Reserved.* Powered by NinjaBlog
* photo by 空色地図 * material by egg*station *Template by tsukika
忍者ブログ [PR]