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「ここが食堂。朝も昼も早い者勝ちだから気をつけてね」

 勘右衛門が導いたそこには、明るい喧騒が満ちていた。

 長屋とは別棟。保健室とも別の建物だが、全校生徒と教職員、男女の別なく利用するというだけあってそれだけでも立派な建物だ。

「遅いぞ、お前ら」
 足を踏み入れると、一つの卓を占領した青の忍び装束の少年が声をかけてきた。
 つやつやの髪を結い上げた、大福餅のような丸顔の少年だが、肩から下がスレンダーなのでどうにもバランスが悪い。

「朝っぱらから何しんべヱの顔してるんだよ!」
 兵助が突っ込むと、彼は顔に手を当てて標準仕様──雷蔵と同じ顔を作り上げる。
「この慌ただしい朝の時間に席の確保をしていただけ有り難いと思えよ」
「オススメは朝がゆセットかなー。くのたまから評判良いみたいだよ」
「おばちゃん、饂飩と焼き魚セット頼むよ!」
「あ、俺も!」
「あいよ! お嬢ちゃん達はどうするんだい?」
「えーと、雷蔵君、お先にどうぞ」
「あ、うん。どうしようかな…………朝がゆと饂飩は変だけど今日の授業は……」
 悩んでいる雷蔵を含め、誰も三郎を気にしていなかった。

「「朝がゆと冷奴で」」
 突っ込みした兵助までが注文に顔を向けると、三郎はジメジメとした空気をしょい込み、卓上でのの字を書く。
「いーんだいーんだ、私なんてはぶられて席取りのパシリに使われるくらいなんだから」
「あーもー鬱陶しい! 先に一抜けしたのはお前だろーがっ!」
 切り捨てた八左ヱ門は次に兵助を睨み、
「また朝から豆腐だとぉ?!」
「ほっとけ! つか誰かの声と重なったよな……」
「私」
「あたしはそれじゃあ朝がゆをお願いします」
首を傾げる兵助の横から自己申告したひわと、オーダーを決めたひな。何となく五年の名物五人に馴染んでいる二人を、下級生達は不思議そうに見ている。
「雷蔵も悩むなら勘右衛門達と同じのにでもしたら?」
 ひわは雷蔵に一声かけて、すたすた受取口に進む。
「おら、後ろつかえてるぞ」
「じゃあ饂飩と焼き魚にするよ」
 兵助に背中を小突かれ、雷蔵はひわの提案を採用する。ひなを先へと促す八左ヱ門。勘右衛門はよりマイペースに、既に受取口そばで人数分の白湯を用意している。
「酷いな~、みんなしてほんとに無視するのはやめてくれる?」
「三郎、朝からしつこいよ?」
 引き続きいじける三郎への止めの一撃は、意外にも雷蔵の笑顔とともに放たれた。


 他の卓に負けず賑やかな五年生プラス2のテーブルを、他の学年は遠巻きに見ていた。

 一、二年生は互いを突いて、誰か話を聞いてこいとひそひそ言い合っているが、こんなときに限って怖いもの知らずの一はが不在で、上級生への遠慮が勝った。
 三年生は数日前の人体落下事件を思い出して、あの時の二人で良いのかそれとも誰かの変装なのかと囁きあったり、こんなときに限って一番詳しいだろうクラスメートが迷子捜索で不在なのを呪ったりしていた。
 四年生の姿はなかった。混み合う時間を避けて既に校舎へ向かったようだ。

 そして、食事を終えて席を立った六年生──

「あー、食事中済まないが、ちょっと良いか?」
 空の食器の載った盆を片手に、緑の忍び装束が注目の一画に近付いた。

「あ、食満先輩、おはようございます」
「何か俺らにご用っすか?」
 雷蔵と八左ヱ門は挨拶するが、饂飩に夢中の勘右衛門と豆腐に夢中の兵助は見向きもしない。三郎に至ってはまだヤサグレ中なので、相手を一瞥した後すぐに目を反らしてしまった。ひなとひわは中間で、一先ず食事の手を止める。
 留三郎は引き攣り気味の笑みで反応の薄い面々を見、最初の二人には
「いや、お前らじゃない」
と断りを入れた。

「ひな、ひわ、食事が終わったら吉野先生の所に連れてくから校舎前に来てくれ……いや、下さい」
 何も言わないのに、ひなに目を向けられた留三郎は語尾を訂正する。
「吉野先生?」
 ひわが首を傾げると、今度は兵助も顔をあげる。

「用具や事務管理の先生だよ。二人ともまだ備品も揃ってない部屋だったし、それでじゃないか?」
「ああそうだ。その後で小林先生と四條畷先生が授業計画について打ち合わせたいと言っていた」
「了解。引き受けた以上それなりに仕事はするわ」
 頷いたひわは食事を再開する。箸を使って一度に口へと運ぶ量は隣の兵助よりも少なめだったが、ペースは早目なので食べ終えるのは同じくらいになりそうだ。兵助はひわに説明する間手を軽く止めただけで、留三郎には目もくれない。留三郎の頬が引き攣る。
 けれど兵助の振る舞いに彼が何かを言う前に、ひなが口を開いた。

「小林先生と四條畷先生というのは、どなたですか?」
「三年と四年の実技の先生。あ、そうだ」
 今度応じたのは勘右衛門。口を付けていた丼を下ろし、留三郎の辺りに顔を向けてから思い出したような感嘆詞を持ち出すが、
「ひわさん捜してたのって昨日使ってた櫛?」
──がくっ
またもや存在をスルーされた留三郎。
 ひわの箸がまた止まる。
 豆腐の最後の一欠けらを飲み込んで、彼も「おー、そうそう」とひわに目を向けた。
 反対側では八左ヱ門が眉をひそめる。同じ顔の二人は、目だけ動かして勘右衛門を見た。

「また忘れる前に返しておけよ」
「え──」
「っまえら!」
 ガタッと二人同時に卓を揺らした。その片方に向かい、勘右衛門はへにょりとした笑みで詫びる。
「ごめんね、昨日八左ヱ門が拾ったんだけど、汚れちゃったから綺麗にして返そうと思ってたんだって」
「ほらハチ」
 兵助に促され、八左ヱ門は渋々懐へ手を入れる。
「……ほら、これ」
 ぶっきらぼうに差し出される櫛。ひなとひわは目を丸くして、痺れを切らした八左ヱ門がひわの手に櫛を押し付ける。
 ガシッと右の手首を掴み、押し込む乱暴な挙動に、留三郎の頬が先程とは違う理由で強張った。
 けれどもそうされたひわの顔に怒りはなく、
「あ──りがと……」
のろのろと胸元に引き寄せた櫛を確かめると、頬を微かに染めてたどたどしく礼を言った。

「「「──!」」」

 間近にそれを見た兵助、向けられた八左ヱ門、彼女のそんな表情を初めて見る留三郎は息を飲んだ。

 たかだか櫛一つで、その目に込めた感情の深いこと。


「よかったですね、雷蔵君」
「へ、えっ? ケホッ」
 それを見たひなが、妙に淡々とした声で言い出したので、雷蔵はおかしな声を上げて噎せてしまう。
 三郎は苦笑して雷蔵の背を摩る。

「何で雷蔵?」
「話の流れで何となく──勿論これも今は忘れて構わない話ですよ?」
「はは……ひわさんもひなちゃんもそれ?」
 力無く笑う雷蔵。ひわの予想外の表情に衝撃を受けていた留三郎は、ぎょっとして雷蔵を見た。
 兵助は勘右衛門と目を交わし、どちらからともなく肩を竦める。調子の狂った顔の八左ヱ門は、わざと音をたてて白湯を啜る。

「留三郎先輩?」
 唖然と自分達を見ている留三郎へ、三郎が声をかけた。

「ひわ姐さん達もうちょいで食べ終わりますけど」
「……」
 留三郎は肩を落とし、自らの食器を下げに向かった。

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【蛇足】

見ようによってはいちゃついているようなシーンを書きたかったのです。
五年はそこまで六年を蔑ろにはしないと思うんですけどまあ留さんだからな(*´~`*)
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