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管理サイトの更新履歴と思いつきネタや覚書の倉庫。一応サイト分けているのに更新履歴はひとまとめというざっくり感。 本棟:https://hazzywood.hanagasumi.net/ 香月亭:https://shashanglouge.web.fc2.com/
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「ここが食堂。朝も昼も早い者勝ちだから気をつけてね」

 勘右衛門が導いたそこには、明るい喧騒が満ちていた。

 長屋とは別棟。保健室とも別の建物だが、全校生徒と教職員、男女の別なく利用するというだけあってそれだけでも立派な建物だ。

「遅いぞ、お前ら」
 足を踏み入れると、一つの卓を占領した青の忍び装束の少年が声をかけてきた。
 つやつやの髪を結い上げた、大福餅のような丸顔の少年だが、肩から下がスレンダーなのでどうにもバランスが悪い。

「朝っぱらから何しんべヱの顔してるんだよ!」
 兵助が突っ込むと、彼は顔に手を当てて標準仕様──雷蔵と同じ顔を作り上げる。
「この慌ただしい朝の時間に席の確保をしていただけ有り難いと思えよ」
「オススメは朝がゆセットかなー。くのたまから評判良いみたいだよ」
「おばちゃん、饂飩と焼き魚セット頼むよ!」
「あ、俺も!」
「あいよ! お嬢ちゃん達はどうするんだい?」
「えーと、雷蔵君、お先にどうぞ」
「あ、うん。どうしようかな…………朝がゆと饂飩は変だけど今日の授業は……」
 悩んでいる雷蔵を含め、誰も三郎を気にしていなかった。

「「朝がゆと冷奴で」」
 突っ込みした兵助までが注文に顔を向けると、三郎はジメジメとした空気をしょい込み、卓上でのの字を書く。
「いーんだいーんだ、私なんてはぶられて席取りのパシリに使われるくらいなんだから」
「あーもー鬱陶しい! 先に一抜けしたのはお前だろーがっ!」
 切り捨てた八左ヱ門は次に兵助を睨み、
「また朝から豆腐だとぉ?!」
「ほっとけ! つか誰かの声と重なったよな……」
「私」
「あたしはそれじゃあ朝がゆをお願いします」
首を傾げる兵助の横から自己申告したひわと、オーダーを決めたひな。何となく五年の名物五人に馴染んでいる二人を、下級生達は不思議そうに見ている。
「雷蔵も悩むなら勘右衛門達と同じのにでもしたら?」
 ひわは雷蔵に一声かけて、すたすた受取口に進む。
「おら、後ろつかえてるぞ」
「じゃあ饂飩と焼き魚にするよ」
 兵助に背中を小突かれ、雷蔵はひわの提案を採用する。ひなを先へと促す八左ヱ門。勘右衛門はよりマイペースに、既に受取口そばで人数分の白湯を用意している。
「酷いな~、みんなしてほんとに無視するのはやめてくれる?」
「三郎、朝からしつこいよ?」
 引き続きいじける三郎への止めの一撃は、意外にも雷蔵の笑顔とともに放たれた。


 他の卓に負けず賑やかな五年生プラス2のテーブルを、他の学年は遠巻きに見ていた。

 一、二年生は互いを突いて、誰か話を聞いてこいとひそひそ言い合っているが、こんなときに限って怖いもの知らずの一はが不在で、上級生への遠慮が勝った。
 三年生は数日前の人体落下事件を思い出して、あの時の二人で良いのかそれとも誰かの変装なのかと囁きあったり、こんなときに限って一番詳しいだろうクラスメートが迷子捜索で不在なのを呪ったりしていた。
 四年生の姿はなかった。混み合う時間を避けて既に校舎へ向かったようだ。

 そして、食事を終えて席を立った六年生──

「あー、食事中済まないが、ちょっと良いか?」
 空の食器の載った盆を片手に、緑の忍び装束が注目の一画に近付いた。

「あ、食満先輩、おはようございます」
「何か俺らにご用っすか?」
 雷蔵と八左ヱ門は挨拶するが、饂飩に夢中の勘右衛門と豆腐に夢中の兵助は見向きもしない。三郎に至ってはまだヤサグレ中なので、相手を一瞥した後すぐに目を反らしてしまった。ひなとひわは中間で、一先ず食事の手を止める。
 留三郎は引き攣り気味の笑みで反応の薄い面々を見、最初の二人には
「いや、お前らじゃない」
と断りを入れた。

「ひな、ひわ、食事が終わったら吉野先生の所に連れてくから校舎前に来てくれ……いや、下さい」
 何も言わないのに、ひなに目を向けられた留三郎は語尾を訂正する。
「吉野先生?」
 ひわが首を傾げると、今度は兵助も顔をあげる。

「用具や事務管理の先生だよ。二人ともまだ備品も揃ってない部屋だったし、それでじゃないか?」
「ああそうだ。その後で小林先生と四條畷先生が授業計画について打ち合わせたいと言っていた」
「了解。引き受けた以上それなりに仕事はするわ」
 頷いたひわは食事を再開する。箸を使って一度に口へと運ぶ量は隣の兵助よりも少なめだったが、ペースは早目なので食べ終えるのは同じくらいになりそうだ。兵助はひわに説明する間手を軽く止めただけで、留三郎には目もくれない。留三郎の頬が引き攣る。
 けれど兵助の振る舞いに彼が何かを言う前に、ひなが口を開いた。

「小林先生と四條畷先生というのは、どなたですか?」
「三年と四年の実技の先生。あ、そうだ」
 今度応じたのは勘右衛門。口を付けていた丼を下ろし、留三郎の辺りに顔を向けてから思い出したような感嘆詞を持ち出すが、
「ひわさん捜してたのって昨日使ってた櫛?」
──がくっ
またもや存在をスルーされた留三郎。
 ひわの箸がまた止まる。
 豆腐の最後の一欠けらを飲み込んで、彼も「おー、そうそう」とひわに目を向けた。
 反対側では八左ヱ門が眉をひそめる。同じ顔の二人は、目だけ動かして勘右衛門を見た。

「また忘れる前に返しておけよ」
「え──」
「っまえら!」
 ガタッと二人同時に卓を揺らした。その片方に向かい、勘右衛門はへにょりとした笑みで詫びる。
「ごめんね、昨日八左ヱ門が拾ったんだけど、汚れちゃったから綺麗にして返そうと思ってたんだって」
「ほらハチ」
 兵助に促され、八左ヱ門は渋々懐へ手を入れる。
「……ほら、これ」
 ぶっきらぼうに差し出される櫛。ひなとひわは目を丸くして、痺れを切らした八左ヱ門がひわの手に櫛を押し付ける。
 ガシッと右の手首を掴み、押し込む乱暴な挙動に、留三郎の頬が先程とは違う理由で強張った。
 けれどもそうされたひわの顔に怒りはなく、
「あ──りがと……」
のろのろと胸元に引き寄せた櫛を確かめると、頬を微かに染めてたどたどしく礼を言った。

「「「──!」」」

 間近にそれを見た兵助、向けられた八左ヱ門、彼女のそんな表情を初めて見る留三郎は息を飲んだ。

 たかだか櫛一つで、その目に込めた感情の深いこと。


「よかったですね、雷蔵君」
「へ、えっ? ケホッ」
 それを見たひなが、妙に淡々とした声で言い出したので、雷蔵はおかしな声を上げて噎せてしまう。
 三郎は苦笑して雷蔵の背を摩る。

「何で雷蔵?」
「話の流れで何となく──勿論これも今は忘れて構わない話ですよ?」
「はは……ひわさんもひなちゃんもそれ?」
 力無く笑う雷蔵。ひわの予想外の表情に衝撃を受けていた留三郎は、ぎょっとして雷蔵を見た。
 兵助は勘右衛門と目を交わし、どちらからともなく肩を竦める。調子の狂った顔の八左ヱ門は、わざと音をたてて白湯を啜る。

「留三郎先輩?」
 唖然と自分達を見ている留三郎へ、三郎が声をかけた。

「ひわ姐さん達もうちょいで食べ終わりますけど」
「……」
 留三郎は肩を落とし、自らの食器を下げに向かった。

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 此処は図書の国。
 各地区に複数設立された巨大な図書館群代表を中核とした会議により運営されている民主国家である。

 各地区は専門分野ごとに分類され、学術会議や系列図書館のリファレンスリクエスト等の理由なしに地区を移動することは、一部階級を除き禁止されている。
 例外は12歳未満の学童。学童は12歳の誕生日に専攻分野を申告し、所属地区が確定するまでは、分野決定の参照とすべく地区間の自由な移動が認められている。
 所属地区確定後に専攻分野を変更するには図書会議への論文による申請審議を経て、地区長の承認が必要である。

 頻繁な会議参加を求められる学者や、書籍配備の手配を行う出版者、司書は実質的に地区間移動のフリーパスを所有しているが、反面、所属地区の変更に対する制限は厳しく、ペナルティも重い。学者及び司書は地区の他図書館の所属に関しても規定されている。

 各地区間は巨大なゲートで区切られており、個人認証のゲートパスで通行できるのは本人ならびにそのパートナーに限られている。ゲートパスを欲して学者や出版者等を襲う犯罪は年々増加傾向にあり、対策を求められている。
 自由な研究のために地区間の交流開放、所属の自由化を求める運動もあったが、5年前に起きた会議維持軍による大川の掃討戦以降は下火となり、開放思想家達は地下へ潜伏したと言われている。

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 「如何しようか」フォルダに上げようかと思ったんですが、一応このシリーズの三郎(と飛鳥と七緒)の事を言ってる独白なのでサイトの方に。この子と水瀬・エンジェルスマイル・渉護君は、まだ表に出してない某少年探偵漫画の話のヒロインとサブキャラでもあったりします。(だから名前が設定されている)

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 初めて君に会ったのは雪の日の図書館。
 同じ本に二人揃って手を伸ばしたなんて少女マンガみたいな出会いだった。
 試験前、辞書に突っ伏して寝てしまった私に「ごめんね、閉館なんだ」ってすまなそうに声をかけてくれた君。
 外に出たらまた小雪がちらついていて、「寒いね」ってどちらからともなく苦笑した。あの時二人で飲んだホットチョコレートの味は、焼けつくような暑い夏の日になってもまだ鮮明に覚えている。
 君は元気にしてますか?
 今でも目一杯迷って、悩んで、そして優しい笑顔でいてくれますか?

お題bot*(@0daibot)より
雪の日、図書館、チョコレート

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 部屋に差し込む光と、雀の声でひなは目を覚ました。ふと横を向くと、ひわの姿はない。
 夜具がわりの着物は片付いており、既に起床していることが判った。

──まだ本調子じゃないのに……
 眉をひそめて、ひなも支度を整える。

 入口の引き戸を開けると、朝の空気が入るとともに、外をうろうろするひわの姿を見つけた。

「どうしたの? ひわさん」
「あ──ひな」
 声をかけると、珍しく憔悴したようなひわの顔。

「見つからないの。ここに落ちてると思ったのに」
「て、何が?」
 同じ場所にひなも降りる。途方に暮れたひわの視線は地面や叢を何度もさ迷って、そうしながら彼女は答える。

「櫛……」
「櫛?」

「あの……がくれた、……の櫛」
 所々聞き取りづらいのは、ひわが屈んで叢を掻き分けたり、土を払ったりしながら喋るからだ。それこそ、着物が汚れたり爪の間に土が入り込むのを頓着する様子もない。
 ひなは聞き取れなかった部分を脳内で補完して、
「あれ、まだ使ってたんだ?」
思い浮かべる事ができたのは、それがまだ二人同じ陣営にいた頃の出来事だったから。自分達の体感では、もう七、八年になるだろうか。それだけ古い櫛だ。

 ひわは少しバツが悪そうに目を泳がせて、
「……れは、ぃぞぅが──」
「え、何?」

──びくっと二人揃って飛び上がった。

 振り返ると、青の忍服を纏った少年が、目をぱちくりさせて二人を見ている。今度は雷蔵と三郎、どちらだろうか──ひなが迷っていると、ひわが答えをくれる。

「あ……雷蔵」

「う、うん、どうかした?」
 おっかなびっくり尋ねるのは、どうやら確かに雷蔵らしい。ひわは彼の名を呼んだ後、遠くを見るような目つきで暫し黙り込んだ。

「あの、雷蔵君、ひわの櫛を知りませんか? 倒れた時に落としてしまったようで、二人で探していたんです」
 ひわが言わないので、ひなが雷蔵へ問い掛ける。何処から聞かれたかわからないが、音に出したのが雷蔵の名前だけならば、昨日の出来事と結び付き、問題はないはずだ。

「え、櫛? うーん、ごめん、よく覚えていないや」
 雷蔵は記憶を辿った後、首を振った。

「あの時近くにいたのはハチと三郎だし、二人のどっちかは何か見てるんじゃないかな」
「そうですね、ありがとうございます」
 ひなは雷蔵の思いつきに頷いて礼を言った。ひわはまだ意識を遠くに飛ばしたままだ。

 雷蔵はそれを気にするように窺い見て、
「それって、そんなに大事な物だったの?」
「ええまあ……」
ひなはひわにちらりと視線をくれ、肯定する。

「大切な思い出の品、だったと思います」
「そうなんだ。それはこまったね。食堂で会えるだろうから、二人とも井戸に回ってから食堂に行って訊いてみよう」
 雷蔵は遠慮がちに笑いかける。

「そうね……」
 ひわは上の空で呟いた。それから長屋の屋根を見上げて、

「値段も年季を考えても、壊したり無くしたりしても惜しくない物かもしれないけれどね、金銭的価値と個人の価値観は必ずしも一致しないから」

「えっ?」
驚く雷蔵にやっと視線が戻る。

「今はわからなくて良いよ──もしもがあったら、「後で」見てなさいって、そこいらに張り付いてる暇人に言っただけだと思ってて」
「え、そこいらって……」
 ひなは弾かれたように辺りを見回した。

 木々の影、屋根の上、縁の下、隣室の扉──そういえばそこが誰の部屋なのかまだ聞いていない──気配を探るが、ひなには誰がどこにいるのかわからない。

 一方、雷蔵は苦笑いして肩を落とした。

「本当に気付いちゃうんだ? ひわさんてくのいちみたいだね」
「ワクワクして本気で隠れていなかったのは勘右衛門? でなくとも、あれだけガン見されてたら、気配に聡い人ならすぐ気付くでしょ」
 ひわが睨むと、木陰と扉の影から楽しそうな勘右衛門と悔しそうな八左ヱ門が顔を覗かせる。

「いつの間に……」
 ひなは驚いた。木の陰など、ひわは先程近くを探していたはずだ。その時に気付いていたなら、ひわはそれでも櫛の話を続けたろうか──雷蔵が現れた時の驚きは本当だったのに。
 ひわは髪をかきあげようとして、その手の汚れに顔をしかめ、手首で落ちかかる髪を押しやった。

「愚問だよ、ひな。あれだけガサガサ捜し回ってるのに、曲がりなりにも忍び予備軍が出てこないほうがおかしい」
「あははー、何か一所懸命だったから、声かけにくくてさ」
 勘右衛門に悪びれる様子はない。

「あ、ほら髪に泥ついちゃうよ」
 懐から取り出した手ぬぐいでひわの額についた土を払うと、勘右衛門は彼女の手を取ってその汚れを拭き取りはじめた。
 あまりにも自然な振る舞いに、ひわも暫しされるがまま勘右衛門の行動を眺めてしまう。

「……って! そのくらい自分でやるって!」
 我に返ったひわは慌てて手を引っ込めた。爪の間はともかく、腕や手の平、指の土汚れはもうほとんど拭われている。

「ははは、ひなちゃんも、はい、濡れ手ぬぐい」
「えっ? あ、兵助君」
 珍しいひわの反応を見ていたひなは、目の前に手ぬぐいを突き付けられ、ぎょっとした。
 それがまたいつの間にか現れた兵助の差し出した物だったので、ひなの声も気が抜けてしまう。素直にそれを受け取ると、腕や手についた汚れを拭き取った。

「ありがとうございます」
「……りがとう、何処で洗えば良い?」
 ひなが言うのに続けて、勘右衛門から手ぬぐいを奪い取ったひわもツンデレ気味な礼を述べる。

「じゃあ改めて、井戸に寄って朝ごはんに行こうか」
 クスクスと雷蔵が笑って、手をあまらせた勘右衛門は指をわきわきさせた後でダランと腕を下ろす。
 不覚を取った彼を、八左ヱ門が鼻で笑った。

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