管理サイトの更新履歴と思いつきネタや覚書の倉庫。一応サイト分けているのに更新履歴はひとまとめというざっくり感。
本棟:https://hazzywood.hanagasumi.net/
香月亭:https://shashanglouge.web.fc2.com/
〓 Admin 〓
「改めて自己紹介してくれんかな?」
三反田の知らせを受けた学園長は、はじめ二人を学園長室に呼び出そうとして三反田と善法寺と、たまたま居合わせた食満から却下を喰らった。
「意識回復したばかりの病人歩かせるって学園長あんた何考えてるんだ!」
「そんなこと言ったってわしは年寄りなんじゃぞ! 少し労ってくれても良かろうに」
「ほぉ、昨日まだまだ若いもんには負けんと年甲斐もなくはしゃいで、生垣とヘムヘムの小屋をぶち破ったお方の言葉とはとても思えないですね」
「ヘム!」
怨みがましいヘムヘムの一声も生徒達に味方する。三反田はまだ無惨な様を晒す庭の一角に、そんな理由だったのかと虚ろな視線をくれた。
三人と一匹の説得で渋々腰をあげた学園長は、それでも保健室に着くと威厳を取り繕うように背筋をしゃんと伸ばして尋ねた。
「わしがこの忍術学園の学園長、大川平次太秦ぢゃ。娘達よ、改めて自己紹介してくれんかな?」
ひなとひわは顔を見合わせ、後者がコクンと首を動かしてから口を開いた。
「お目にかかれましたこと、望外の喜びと存じます。わたくし遠方を旅しておりました、ひわと申します。この度は不測の事態に御慈悲をいただきましたこと、まこと感謝に堪えません」
「ひなでございます。改めまして御礼申し上げます」
相似の表情、穏やかで丁寧だけれど平淡な声。着物は変わらず藍と緋だったが、上衣は軽く羽織るだけ、装飾も取り払った今は、眠りに就いていた時よりも線の細さが際立った。
まるで、色違いの人形のように。
「ふむ、そこまで畏まられると逆に落ち着かんのう」
学園長が呟いたのは、最前の食満達とのやり取りを連想したのだろう。二人の反応は、眉根がぴくりと動いたのみ。静かなみなものように凪いだ視線は、戯れに付き合うつもりはないようだ。
「ふむ」
学園長は居心地悪げに身じろぎした。
「バサラ者のお主らならば、この時勢、引く手数多、がっぽり儲けて左団扇も夢ではなかろう。望みの城があるならば、送り届けてやらんこともないんじゃが……」
ちらり、学園長は片目で二人を見遣る。
「……その前に、ちぃとばかしお主らのバサラ技を見せて貰えんかのう」
「「学園長!」」
善法寺と食満はダブルで叫んだ!
三反田がそうしなかったのは、多少なりと学園長の思いつきに惹かれたからだったりする。少し前にひわ一人の怒気に気圧された筈だが、それとコレとはまた別のようだ。
「何考えてるんですか! 全くミーハーなんだから」
「その交換条件は明らかにおかしいでしょうが! 病み上がりなのに二人とも困惑してるじゃないですか!」
食満が指差すとおり、ひわの目は反応に惑ったように揺らいでいた。ひなは顔色を悪くして目を伏せ、着物の端をギュッと握り締めている。
「学園長」
「「──いえ」」
善法寺が説得の言葉を口にしようとするのに被さって、凛とした声が彼らの思惑を否定した。
俯いたままのひなと、視線を真っ直ぐ学園長に定めたひわと。
「今この日ノ本であたくし達の属すべき城はありません」
「帰るべき場所へ還る道筋は、わたくし達自身で見出ださなければならないでしょう」
宣言する声は変わらず平坦。だがそれはどうやら感情を押し殺したもので、二人の真摯さを損ねるものではなかった。
「ふむ……ならばどうぢゃ? 時が来るまでこの学園に身を寄せるのは」
「学園長?!」
今度の反対を含む声は、食満だけからあがった。
「なんじゃ、お主はさっきからいちいちわしの言葉に反対して」
「あの」
「なんじゃ」
「属すべき城がなくて、帰るべき場所はあるんですか?」
恐る恐るの声をあげたのは三反田。学園長は眉を上げ、二人の少女へと視線を移す。
ひなに至っては泣き出すかもと善法寺は身構えた。
ひわの右手がひなの手に重ねられる。
「今はまだ──見出だされていないけれど」
「見つけ出すと互いに誓っていますから」
ひなの顔が上がった。
涙は浮かんでいない。
その年齢の少女が見せるには深い感情を秘めた眼差しが、真っ直ぐ学園長を見据える。
二対の視線を身に受けた学園長は、珍しく真面目に彼女達を見返し──
ぽっ
頬を赤く染めて頭を掻いた。
「そんなに見つめられると照れるのう」
──がくがくがくっ
食満と三反田と善法寺は、一斉にその場にずりこけた。ついでに棚から落っこちた救急箱が、善法寺と三反田の頭に相次いでバウンドする。
「学園長ぉ……」
「珍しくシリアスだったのに……」
涙を流す最上級生をよそに、学園長はふぉっふぉっふぉと笑ってひなとひわに続けた。
「それならばなおのこと、学園に留まるのが良かろう。今なら三食昼寝にわしのブロマイド付きぢゃ!」
「……その対価としてこちらが支払うものは?」
「ひわちゃんは冷静ぢゃのう」
「……」
「…………ぅほん。そうぢゃな、お主らをばさらについての特別講師として雇おうかの」
「「「なんだってぇ?!」」」
ガバッと起き上がったうち、善法寺は先程の救急箱に手をついて再び床に転がった。それにも特にリアクションせず、二人の少女は瞬きだけで学園長へ視線を戻す。
「あたくしにバサラ能力の適性は殆どありませんが?」
「戦闘たいぷはひわちゃんの方かのう?」
「わたくしもバサラ者としては三軍以下ですが──」
水を向けられたひわも淡々と返す。ちょっぴり期待していた三反田はしょんぼりし、食満は引き攣った笑みで、こんな子供のバサラ者なんておかしいと思ったとうそぶく。ひわはちらっと食満を見た。
「──バサラ技を何も見ないで実戦にしくじるよりは、確かに生還率には影響するかも知れませんね」
「はっ! ……はぁっ?!」
ひわの言葉を鼻で笑った食満は直後、怪訝な顔で振り向いた。
「油断、大敵」
「え? ひなちゃん?」
三反田は目を擦った。ひなは変わらずひわの隣に姿勢正しく座しているのに、いつの間にか食満の真横にもひながいて、頭巾の隙間へ花を一輪差し込んでいた。
「分身の術?! ではないみたいだね」
「御明察。蜃気のようなめくらましの術技──花は本物」
「何っ!」
淡々と言われた食満は慌てて頭に手をやる。ひなは静かに元の場所へ戻る。食満に気を取られている間に、ひわの隣の幻は消えている。
「……」
食満は花とひなを微妙な表情で見比べた。ひなは善法寺に目を向け、
「善法寺殿、あなたは冷静ですね」
「アハハ、何年か上の先輩に、よくからかわれていたからね」
「佐助先輩か……」
「「──!」」
善法寺の答えと食満の相槌で、初めて明確にひなとひわの表情が動いた。
──ふむ。
学園長は片目で二人を観察する。
単純に動揺の色を滲ませたひな、痛みのような悲しみのような色を3秒かけて飲み込んで、無表情ぶりに拍車のかかったひわ。そのひわが溜息の後に食満を冷たく見る。
「……バサラ者を見知っていながら侮るなんて、気楽者だな」
「えっ! その佐助先輩ってバサラ者だったんですか?」
「我々の三学年上だから、丁度数馬とは入れ違いかな。上月佐助先輩。バサラ者の才能を開花させて、結構立派な大名のところに就職したはずだよ」
三反田の問いに答えるのは善法寺。食満は、
「佐助先輩と才蔵先輩はバサラ技等に頼らなくても優秀な忍びだ、格が違う」
クルクルと抜き取った花を弄びながら負け惜しむ。
「その二人が共闘してもままならないことが起きるのがバサラの戦。機会があるならばバサラに慣れておいて損はないと私は思う」
「何っ?!」
「留さんっ! 二人が言うのも一理あるよ」
一定の調子で言葉を発するひわに身を乗り出した食満を、善法寺が慌てて抑える。
「てめえ伊作どっちの味方だ!」
「味方とか敵だとかそういうんじゃなくてさ」
「これからの戦は、敵にも味方にも複数のバサラ者がいるのが当たり前になっていくということ」
「学園長殿の考えは、教え子の生存率を上げる意味で不適当とは言えない──授業で対応をしくじってもやり直しはできるけれど、戦場でしくじって命の保証はないのだから」
「くっ……!」
善法寺の言葉を継いで、ひなとひわが食満を諭す。
三反田は二人の言葉を噛み締めるようにして俯いた。
忍びとしての覚悟を決めた者だけが、後半の学年へと進んで行ける。まだ三年生の彼には遠く思えていた「その先」を、いきなり目の前に突き付けられたように思えたのだ。己と同じ歳に見えるひなの言葉が特に重い。
食満と三反田の重い空気に構わず、学園長はひなとひわに向かい、
「そう言うからには、特別講師の話──」
「……お請け、します」
「微力ながら」
「それならこれからは先生と呼ばなきゃね」
ほわんと笑って、善法寺は食満の神経を逆なでした。
「傍から見て先生は変でしょう」
揃ってせんせー、せんせーと声を上げ意図なく食満をからかう善法寺と三反田を止めたのは、溜息混じりのひわの言葉だった。
「というかそもそも私は学園長殿の名しか聞いていない気がするんだけど」
「「「あ」」」
三反田の知らせを受けた学園長は、はじめ二人を学園長室に呼び出そうとして三反田と善法寺と、たまたま居合わせた食満から却下を喰らった。
「意識回復したばかりの病人歩かせるって学園長あんた何考えてるんだ!」
「そんなこと言ったってわしは年寄りなんじゃぞ! 少し労ってくれても良かろうに」
「ほぉ、昨日まだまだ若いもんには負けんと年甲斐もなくはしゃいで、生垣とヘムヘムの小屋をぶち破ったお方の言葉とはとても思えないですね」
「ヘム!」
怨みがましいヘムヘムの一声も生徒達に味方する。三反田はまだ無惨な様を晒す庭の一角に、そんな理由だったのかと虚ろな視線をくれた。
三人と一匹の説得で渋々腰をあげた学園長は、それでも保健室に着くと威厳を取り繕うように背筋をしゃんと伸ばして尋ねた。
「わしがこの忍術学園の学園長、大川平次太秦ぢゃ。娘達よ、改めて自己紹介してくれんかな?」
ひなとひわは顔を見合わせ、後者がコクンと首を動かしてから口を開いた。
「お目にかかれましたこと、望外の喜びと存じます。わたくし遠方を旅しておりました、ひわと申します。この度は不測の事態に御慈悲をいただきましたこと、まこと感謝に堪えません」
「ひなでございます。改めまして御礼申し上げます」
相似の表情、穏やかで丁寧だけれど平淡な声。着物は変わらず藍と緋だったが、上衣は軽く羽織るだけ、装飾も取り払った今は、眠りに就いていた時よりも線の細さが際立った。
まるで、色違いの人形のように。
「ふむ、そこまで畏まられると逆に落ち着かんのう」
学園長が呟いたのは、最前の食満達とのやり取りを連想したのだろう。二人の反応は、眉根がぴくりと動いたのみ。静かなみなものように凪いだ視線は、戯れに付き合うつもりはないようだ。
「ふむ」
学園長は居心地悪げに身じろぎした。
「バサラ者のお主らならば、この時勢、引く手数多、がっぽり儲けて左団扇も夢ではなかろう。望みの城があるならば、送り届けてやらんこともないんじゃが……」
ちらり、学園長は片目で二人を見遣る。
「……その前に、ちぃとばかしお主らのバサラ技を見せて貰えんかのう」
「「学園長!」」
善法寺と食満はダブルで叫んだ!
三反田がそうしなかったのは、多少なりと学園長の思いつきに惹かれたからだったりする。少し前にひわ一人の怒気に気圧された筈だが、それとコレとはまた別のようだ。
「何考えてるんですか! 全くミーハーなんだから」
「その交換条件は明らかにおかしいでしょうが! 病み上がりなのに二人とも困惑してるじゃないですか!」
食満が指差すとおり、ひわの目は反応に惑ったように揺らいでいた。ひなは顔色を悪くして目を伏せ、着物の端をギュッと握り締めている。
「学園長」
「「──いえ」」
善法寺が説得の言葉を口にしようとするのに被さって、凛とした声が彼らの思惑を否定した。
俯いたままのひなと、視線を真っ直ぐ学園長に定めたひわと。
「今この日ノ本であたくし達の属すべき城はありません」
「帰るべき場所へ還る道筋は、わたくし達自身で見出ださなければならないでしょう」
宣言する声は変わらず平坦。だがそれはどうやら感情を押し殺したもので、二人の真摯さを損ねるものではなかった。
「ふむ……ならばどうぢゃ? 時が来るまでこの学園に身を寄せるのは」
「学園長?!」
今度の反対を含む声は、食満だけからあがった。
「なんじゃ、お主はさっきからいちいちわしの言葉に反対して」
「あの」
「なんじゃ」
「属すべき城がなくて、帰るべき場所はあるんですか?」
恐る恐るの声をあげたのは三反田。学園長は眉を上げ、二人の少女へと視線を移す。
ひなに至っては泣き出すかもと善法寺は身構えた。
ひわの右手がひなの手に重ねられる。
「今はまだ──見出だされていないけれど」
「見つけ出すと互いに誓っていますから」
ひなの顔が上がった。
涙は浮かんでいない。
その年齢の少女が見せるには深い感情を秘めた眼差しが、真っ直ぐ学園長を見据える。
二対の視線を身に受けた学園長は、珍しく真面目に彼女達を見返し──
ぽっ
頬を赤く染めて頭を掻いた。
「そんなに見つめられると照れるのう」
──がくがくがくっ
食満と三反田と善法寺は、一斉にその場にずりこけた。ついでに棚から落っこちた救急箱が、善法寺と三反田の頭に相次いでバウンドする。
「学園長ぉ……」
「珍しくシリアスだったのに……」
涙を流す最上級生をよそに、学園長はふぉっふぉっふぉと笑ってひなとひわに続けた。
「それならばなおのこと、学園に留まるのが良かろう。今なら三食昼寝にわしのブロマイド付きぢゃ!」
「……その対価としてこちらが支払うものは?」
「ひわちゃんは冷静ぢゃのう」
「……」
「…………ぅほん。そうぢゃな、お主らをばさらについての特別講師として雇おうかの」
「「「なんだってぇ?!」」」
ガバッと起き上がったうち、善法寺は先程の救急箱に手をついて再び床に転がった。それにも特にリアクションせず、二人の少女は瞬きだけで学園長へ視線を戻す。
「あたくしにバサラ能力の適性は殆どありませんが?」
「戦闘たいぷはひわちゃんの方かのう?」
「わたくしもバサラ者としては三軍以下ですが──」
水を向けられたひわも淡々と返す。ちょっぴり期待していた三反田はしょんぼりし、食満は引き攣った笑みで、こんな子供のバサラ者なんておかしいと思ったとうそぶく。ひわはちらっと食満を見た。
「──バサラ技を何も見ないで実戦にしくじるよりは、確かに生還率には影響するかも知れませんね」
「はっ! ……はぁっ?!」
ひわの言葉を鼻で笑った食満は直後、怪訝な顔で振り向いた。
「油断、大敵」
「え? ひなちゃん?」
三反田は目を擦った。ひなは変わらずひわの隣に姿勢正しく座しているのに、いつの間にか食満の真横にもひながいて、頭巾の隙間へ花を一輪差し込んでいた。
「分身の術?! ではないみたいだね」
「御明察。蜃気のようなめくらましの術技──花は本物」
「何っ!」
淡々と言われた食満は慌てて頭に手をやる。ひなは静かに元の場所へ戻る。食満に気を取られている間に、ひわの隣の幻は消えている。
「……」
食満は花とひなを微妙な表情で見比べた。ひなは善法寺に目を向け、
「善法寺殿、あなたは冷静ですね」
「アハハ、何年か上の先輩に、よくからかわれていたからね」
「佐助先輩か……」
「「──!」」
善法寺の答えと食満の相槌で、初めて明確にひなとひわの表情が動いた。
──ふむ。
学園長は片目で二人を観察する。
単純に動揺の色を滲ませたひな、痛みのような悲しみのような色を3秒かけて飲み込んで、無表情ぶりに拍車のかかったひわ。そのひわが溜息の後に食満を冷たく見る。
「……バサラ者を見知っていながら侮るなんて、気楽者だな」
「えっ! その佐助先輩ってバサラ者だったんですか?」
「我々の三学年上だから、丁度数馬とは入れ違いかな。上月佐助先輩。バサラ者の才能を開花させて、結構立派な大名のところに就職したはずだよ」
三反田の問いに答えるのは善法寺。食満は、
「佐助先輩と才蔵先輩はバサラ技等に頼らなくても優秀な忍びだ、格が違う」
クルクルと抜き取った花を弄びながら負け惜しむ。
「その二人が共闘してもままならないことが起きるのがバサラの戦。機会があるならばバサラに慣れておいて損はないと私は思う」
「何っ?!」
「留さんっ! 二人が言うのも一理あるよ」
一定の調子で言葉を発するひわに身を乗り出した食満を、善法寺が慌てて抑える。
「てめえ伊作どっちの味方だ!」
「味方とか敵だとかそういうんじゃなくてさ」
「これからの戦は、敵にも味方にも複数のバサラ者がいるのが当たり前になっていくということ」
「学園長殿の考えは、教え子の生存率を上げる意味で不適当とは言えない──授業で対応をしくじってもやり直しはできるけれど、戦場でしくじって命の保証はないのだから」
「くっ……!」
善法寺の言葉を継いで、ひなとひわが食満を諭す。
三反田は二人の言葉を噛み締めるようにして俯いた。
忍びとしての覚悟を決めた者だけが、後半の学年へと進んで行ける。まだ三年生の彼には遠く思えていた「その先」を、いきなり目の前に突き付けられたように思えたのだ。己と同じ歳に見えるひなの言葉が特に重い。
食満と三反田の重い空気に構わず、学園長はひなとひわに向かい、
「そう言うからには、特別講師の話──」
「……お請け、します」
「微力ながら」
「それならこれからは先生と呼ばなきゃね」
ほわんと笑って、善法寺は食満の神経を逆なでした。
「傍から見て先生は変でしょう」
揃ってせんせー、せんせーと声を上げ意図なく食満をからかう善法寺と三反田を止めたのは、溜息混じりのひわの言葉だった。
「というかそもそも私は学園長殿の名しか聞いていない気がするんだけど」
「「「あ」」」
別に更新のお知らせとかじゃなくて、時々自分でもどこに何書いているのかわからなくなるので整理も兼ねて。
東京伝奇書庫:魔人学園にハマったきっかけは幽白。刃霧さんの声優さんが演じてるゲームと聞いて購入したのでした。若旦那らぶ。でも外法帖では弥勒と霜葉の方が好きなんですよねぇ……九龍はその流れでプレイしたんですが実はクリアはしていない。黄龍の器も登場させてない状態で勢いに任せて設定を作ったのです。その勢いは今いずこ……下書きが紙ベースだったころの物なので、移転前からタイトルだけあってリンクされてないのとか、分岐小説のリンクが切れているのは力尽きたり下書きが行方不明になった残骸ですorz 【或る一日】以外は移し終えてる筈なので今後の更新確率は……
終末幻想回廊:10は実は特別好きなキャラがいなかったりした。何故か10-2で議長にハマった。でもトリップ設定ヒロインの議長の話なんてマイナーすぎて見つけられなかったので自己満足で書き始めた。彷徨ってる間に6とか他のナンバリングタイトルの話もいいなぁ、と思い始めたので10の次の場所を6にした。の割には、6の記憶がだいぶ薄くなってるのでなかなか更新できないという罠。下書きで内容が進んでるのはお約束な7なんだけど、先にそっち上げてしまってもよいのかなぁ……本命の相手とは回想の中でしか会話できていないというどうしようもないシリーズ。あ。ダブルヒロインになるのは6のエピソードだけ。
闇月の間:GPMしかやってないのですよ。何故こんなに茜好きなのか自分でもよくわからない茜×舞目標のシリーズ「だった」これこそ更新できるんかな、ゲームの記憶が薄れてるわ。トリップしてくる子は二人の関係の起爆剤にしたかったんですけどねー。
忍び返し:なんだろう……昔友達の友達がジャンル取扱いしてると聞いたときは「へぇ」で終わりだったのに。他ジャンルの話読むついでに「らん」の方の夢に手を伸ばしたら知らない名前がいっぱい→ニコ動でMAD等で大まかな外見やキャラを掴む→やっぱりよくわからないので原作を買う→つまりハマってたという変な流れが。「ばさ」の方は前述の友達が勧めてきたのでやってみてハマった。そういえば九龍も最初はこの友達から借りた気がする。ばさらんミックスにしたのは多分「小平太」つながり……?
雑色:
アビス:トリップのバリエーションを色々と考えてみた。これも二次創作から入った系統。mixの奴には闇月のトリップヒロインがチートキャラとして登場する。絢爛舞踏一歩手前とかはもはや人外の強さだと思う。
ヴェスペリア:二種類のトリップを考えてる。どっちの話をどっちに出そうか悩んでるけどどっちにしてもおっさん相手の話。片方のヒロインはアビスの続かない話の登場人物の友人とか無駄設定。
ふぁみれす:アニメは見てません。コミックスとサイトを見てます。ハマったきっかけを覚えていないけど、確かサイト見て本を買った順番でよかったはず。シュガー君やいなみんのもだもだをもっとモダモダにしてみたかった、相馬君が大好き。
ペルソナ:単純なハッピーエンドにならない物語が良いという人も多いと思うんですが……プレイ中はよく悪魔と戯れることにばかり意識が向いてストーリーを見失いそうになります。おかげで未だP3Pのハム子をクリアできていない。どこまでやったか忘れた。それはそれとして、いくら原作改変展開が好きな私でもぺる2と3の流れは断ち切れない(T=T)
サモン:綾は何パターンかエンディング見ました。マグナのエンディングは見たけど、トリスは途中までだった気がする。護衛獣はハサハとレシィ。3は持ってない。4はクリアしてない。でも考えてる話の出発地点は4.きっかけは忘れたけど某サイトの連載を見てソフトを買ったパターンなのは確か。小説が一編もない? 一応拍手に忍び込ませたよ。
東京伝奇書庫:魔人学園にハマったきっかけは幽白。刃霧さんの声優さんが演じてるゲームと聞いて購入したのでした。若旦那らぶ。でも外法帖では弥勒と霜葉の方が好きなんですよねぇ……九龍はその流れでプレイしたんですが実はクリアはしていない。黄龍の器も登場させてない状態で勢いに任せて設定を作ったのです。その勢いは今いずこ……下書きが紙ベースだったころの物なので、移転前からタイトルだけあってリンクされてないのとか、分岐小説のリンクが切れているのは力尽きたり下書きが行方不明になった残骸ですorz 【或る一日】以外は移し終えてる筈なので今後の更新確率は……
終末幻想回廊:10は実は特別好きなキャラがいなかったりした。何故か10-2で議長にハマった。でもトリップ設定ヒロインの議長の話なんてマイナーすぎて見つけられなかったので自己満足で書き始めた。彷徨ってる間に6とか他のナンバリングタイトルの話もいいなぁ、と思い始めたので10の次の場所を6にした。の割には、6の記憶がだいぶ薄くなってるのでなかなか更新できないという罠。下書きで内容が進んでるのはお約束な7なんだけど、先にそっち上げてしまってもよいのかなぁ……本命の相手とは回想の中でしか会話できていないというどうしようもないシリーズ。あ。ダブルヒロインになるのは6のエピソードだけ。
闇月の間:GPMしかやってないのですよ。何故こんなに茜好きなのか自分でもよくわからない茜×舞目標のシリーズ「だった」これこそ更新できるんかな、ゲームの記憶が薄れてるわ。トリップしてくる子は二人の関係の起爆剤にしたかったんですけどねー。
忍び返し:なんだろう……昔友達の友達がジャンル取扱いしてると聞いたときは「へぇ」で終わりだったのに。他ジャンルの話読むついでに「らん」の方の夢に手を伸ばしたら知らない名前がいっぱい→ニコ動でMAD等で大まかな外見やキャラを掴む→やっぱりよくわからないので原作を買う→つまりハマってたという変な流れが。「ばさ」の方は前述の友達が勧めてきたのでやってみてハマった。そういえば九龍も最初はこの友達から借りた気がする。ばさらんミックスにしたのは多分「小平太」つながり……?
雑色:
アビス:トリップのバリエーションを色々と考えてみた。これも二次創作から入った系統。mixの奴には闇月のトリップヒロインがチートキャラとして登場する。絢爛舞踏一歩手前とかはもはや人外の強さだと思う。
ヴェスペリア:二種類のトリップを考えてる。どっちの話をどっちに出そうか悩んでるけどどっちにしてもおっさん相手の話。片方のヒロインはアビスの続かない話の登場人物の友人とか無駄設定。
ふぁみれす:アニメは見てません。コミックスとサイトを見てます。ハマったきっかけを覚えていないけど、確かサイト見て本を買った順番でよかったはず。シュガー君やいなみんのもだもだをもっとモダモダにしてみたかった、相馬君が大好き。
ペルソナ:単純なハッピーエンドにならない物語が良いという人も多いと思うんですが……プレイ中はよく悪魔と戯れることにばかり意識が向いてストーリーを見失いそうになります。おかげで未だP3Pのハム子をクリアできていない。どこまでやったか忘れた。それはそれとして、いくら原作改変展開が好きな私でもぺる2と3の流れは断ち切れない(T=T)
サモン:綾は何パターンかエンディング見ました。マグナのエンディングは見たけど、トリスは途中までだった気がする。護衛獣はハサハとレシィ。3は持ってない。4はクリアしてない。でも考えてる話の出発地点は4.きっかけは忘れたけど某サイトの連載を見てソフトを買ったパターンなのは確か。小説が一編もない? 一応拍手に忍び込ませたよ。
「……ここ、は……」
もう一人が目を覚ましたとき、保健室にいたのは三反田一人だった。
勿論、ひなは変わらず寝台に臥していたが、深い眠りの底にあるようだった。
「あっ!気が付いたんだね!」
「生き……てる……?」
嬉々として枕元に近づく三反田の声が聞こえないように、彼女は茫洋とした表情で呟いた。
三反田はそれに気を留めることなく、動いたことで彼女の額からずり落ちた手ぬぐいを拾い上げる。
「ひなちゃんの話聞いたけど、地割れから学園の上にワープしたんでしょ? 大きな怪我はなかったけど、ひわさんなかなか気が付かないから心配してたんだ」
じゃぶじゃぶ、手ぬぐいを冷水に浸して絞り上げる。三反田が喋っている間、彼女は手を眼前に伸ばし、握ったり開いたりを繰り返した。
「……ひな?」
それからこぼれ落ちた名は何故か困惑を含んで、三反田は冷たい手ぬぐいを彼女の額に戻してやりながら、そっと身体をずらして反対で眠るひなの姿を見せた。
「ひな──?!」
「ひなちゃんは眠ってるだけだよ」
「ひな……ういう……こと……?」
ひなの姿は目に入っただろうに、彼女はかえって探るように辺りに目を走らせる。ここにいたのが善法寺であれば、それがひなと同じ反応だと気付いただろう。けれどひなの目覚めたときにはバサラ者という言葉に気を取られていた三反田は、単純に高熱の名残の不安と片付けてしまった。
「二人は僕達が鍛練してる校庭に落っこちて来たんだよ。ひなちゃんから事情を聞いて、学園で養生してもらうことになったんだ」
「……そ、う」
「──?!」
彼女は睫を伏せた。
普通の体勢ならば悲しみを堪えでもしているように見えたかも知れない。けれど、寝台で仰向けになっている今は、冷たく座った彼女の瞳が隠されることなく三反田の目に映る。
──お、怒ってる?!
三反田は冷汗が噴き出すのを感じた。普段怒らない善法寺や立花を怒らせた時のような冷気。相手は病人なのに、三反田は身動きできなくなる。
「……ひな。本当は起きてるでしょ」
「え?」
呪縛が解けたのは、彼女が目を閉じてゆっくり息を吐きだした後。思いもかけない呼び掛けにきょとんとして、三反田は背後を振り返った。
「今起きたばかりだよ」
「ええーっ?!」
それにしてはぱっちり開いたひなの両目。
驚いた声をあげる三反田に、ひなは少し困ったように笑って言った。
「多分どなたか先生にお知らせした方がいいんじゃない?」
「あ……うん」
体よく三反田を追い払ったひなは、するりと寝台を抜け出した。
「飛鳥さん!」
「待って、今の状況どうなってるか──」
「全部はわからない……けど、多分あの世界の過去に来たんだと思うの」
「過去?」
眉をひそめるもう一人は、額の上から手ぬぐいを取り上げて上体を起こした。
しゃらん、と首飾りが涼やかな音を立てる。物いいたげな視線が胸元に下りたが、彼女はすぐにひなを向いた。
ひなはコクリと頷く。
「出立する前に髪を整えてくれた人が、あたし達同様若返って当たり前に生徒をしてた──いくらあたしでも顔も名前も覚えてる政宗さんお気に入りの部下の人」
「それで?」
「バサラ者をみんな知ってる。だけど知ってると言っても都市伝説みたいな、属性装飾がどんなものかも良く知らないレベル。バサラ者が活躍始めてそんなにたってないみたい」
「それで、コレ」
彼女は着物の衿を摘んだ。
赤い着物は寝崩れてよれていたが、転落したその時から変わらない重ねのままだ。
「……それで、「ひな」と「ひわ」ね」
ひなはまた頷いた。
「悪い人達じゃないと思うけど、忍びの学校で今あたし達の名前がバサラ者として広まったら、ややこしいことになりそうだから」
「了解。伊達の髪結いがいるってことは、ここは奥州?」
「それが……」
聞かれたひなの顔が曇る。「飛鳥」と呼ばれた「ひわ」は、片手に弄んでいた手ぬぐいを水桶に放り込んだ。
ひなは眉を八の字に下げつつ、自分の転落した状況と現在地を説明する。
「いつきちゃんが落ちなかったのは、良かった。けど、播磨や但馬に近い、政治的緩衝地帯……?」
「小競り合いはあるけど、内部で割と完結してるって。飛鳥さんいつか言ってたじゃない? バサラ屋の拠点ももしかしたらこういうところにできたんじゃないかって」
「だけどここの連中はバサラ者に関して無知……過去、だからか…………そうか」
「飛鳥さん?」
「私が地割れに呑まれたのは、「ここ」に来る途中だったみたいだ」
彼女は言いながら、身につけていた属性装飾を一つ一つ外しはじめた。ひなは慌てて問う。
「え、どういう?!」
「瀬戸内や常陸方面から、復活した魔王軍が緩衝地帯への進軍を画策しているって情報が入ってね、表向きな理由が十分作れるアイツと私が緩衝地帯側の代表勢力に会いに行くことになっていたんだ」
「それがホントなら、いくらなんでも二人じゃ危険じゃない!」
「いつきちゃんと二人で津軽潜入した日向さんには言われたくな──」
彼女は口を閉ざして額を押さえた。
「いつきちゃんが同行者? あいつら絶対早まりそうだ……」
「そんなこと……! ナイデスヨ、多分」
口では否定するが、ひなの顔は青ざめている。指摘した側はなお難しい顔で、
「結果的にこっちが軍を動かさなかったのは正解だけど、パピヨンがなぁ……四郎様や筧さん達に期待するしかないか」
「それで、飛鳥さん達の名分て?」
「……アイツの恩師に、報告」
「──何がなんでも、元に戻って、帰らなきゃ、ね」
答えを聞いたひなは、神妙に呟く。属性装飾をすべて外し終えて、もう一人は沈んだ瞳を瞼に隠した。
「そう。もう一度十代から十年近くもやり直すつもりはない。還る方法を見つけるまで、例え二人だけの時でも、ひわとひなと呼び合った方がいい。飛鳥も日向も、あの場所で生きるべき名前なんだから」
天井裏に潜んでいた四條畷先生達は、目を見交わすと音も立てずにその場を離れた。
「先生、今の話どう思われますか?」
声に出すのは、別棟の屋根まで移動してから。問われたシナ先生は今も若い姿で、流麗な眉を寄せて応じる。
「あの子達、くのいち教室に来てほしいくらいだけれど、そうも行かないみたいね」
「シナ先生?!」
ずっこけたのは小林先生と土井先生だ。四條畷先生は確かに、と頷いて、
「怒気で冷静さを失わせ、虚を突き悟らせず数馬を追い払ったあの怒車の術は見事でした」
「そういうことを論じている場合ではないでしょう。あの二人が信頼に値するかどうか──ひなという娘、学園長に嘘をついていたわけですよね」
「あの子達が信頼に値するかどうかなんて、今すぐ決める必要はないでしょう。潜入調査に出た者ならば、語れないことがあるのは当然。私達の目の前で装備を解いたのは、こちらを一応信用するという意思表示のようですよ」
シナ先生はニッコリと土井先生に笑顔を向ける。
「やはり先生はお気づきでしたか」
土井先生の眉間にシワが寄る。
「ひわというあの娘の話、あれは半ば我々に聞かせるためのものだと気付いた上で、様子を見たいんですね」
「あれで単なる怒気なんだから、末恐ろしい。監視をするにも護衛するにも人数を割ける忍たまの方がいいというところですか」
小林先生も苦笑混じりに納得の頷きを返した。
この場での会合など、決定権はない。けれど、学園長はきっと同じことを決めているだろう、と土井先生は胃の腑の辺りを手で押さえた。
もう一人が目を覚ましたとき、保健室にいたのは三反田一人だった。
勿論、ひなは変わらず寝台に臥していたが、深い眠りの底にあるようだった。
「あっ!気が付いたんだね!」
「生き……てる……?」
嬉々として枕元に近づく三反田の声が聞こえないように、彼女は茫洋とした表情で呟いた。
三反田はそれに気を留めることなく、動いたことで彼女の額からずり落ちた手ぬぐいを拾い上げる。
「ひなちゃんの話聞いたけど、地割れから学園の上にワープしたんでしょ? 大きな怪我はなかったけど、ひわさんなかなか気が付かないから心配してたんだ」
じゃぶじゃぶ、手ぬぐいを冷水に浸して絞り上げる。三反田が喋っている間、彼女は手を眼前に伸ばし、握ったり開いたりを繰り返した。
「……ひな?」
それからこぼれ落ちた名は何故か困惑を含んで、三反田は冷たい手ぬぐいを彼女の額に戻してやりながら、そっと身体をずらして反対で眠るひなの姿を見せた。
「ひな──?!」
「ひなちゃんは眠ってるだけだよ」
「ひな……ういう……こと……?」
ひなの姿は目に入っただろうに、彼女はかえって探るように辺りに目を走らせる。ここにいたのが善法寺であれば、それがひなと同じ反応だと気付いただろう。けれどひなの目覚めたときにはバサラ者という言葉に気を取られていた三反田は、単純に高熱の名残の不安と片付けてしまった。
「二人は僕達が鍛練してる校庭に落っこちて来たんだよ。ひなちゃんから事情を聞いて、学園で養生してもらうことになったんだ」
「……そ、う」
「──?!」
彼女は睫を伏せた。
普通の体勢ならば悲しみを堪えでもしているように見えたかも知れない。けれど、寝台で仰向けになっている今は、冷たく座った彼女の瞳が隠されることなく三反田の目に映る。
──お、怒ってる?!
三反田は冷汗が噴き出すのを感じた。普段怒らない善法寺や立花を怒らせた時のような冷気。相手は病人なのに、三反田は身動きできなくなる。
「……ひな。本当は起きてるでしょ」
「え?」
呪縛が解けたのは、彼女が目を閉じてゆっくり息を吐きだした後。思いもかけない呼び掛けにきょとんとして、三反田は背後を振り返った。
「今起きたばかりだよ」
「ええーっ?!」
それにしてはぱっちり開いたひなの両目。
驚いた声をあげる三反田に、ひなは少し困ったように笑って言った。
「多分どなたか先生にお知らせした方がいいんじゃない?」
「あ……うん」
体よく三反田を追い払ったひなは、するりと寝台を抜け出した。
「飛鳥さん!」
「待って、今の状況どうなってるか──」
「全部はわからない……けど、多分あの世界の過去に来たんだと思うの」
「過去?」
眉をひそめるもう一人は、額の上から手ぬぐいを取り上げて上体を起こした。
しゃらん、と首飾りが涼やかな音を立てる。物いいたげな視線が胸元に下りたが、彼女はすぐにひなを向いた。
ひなはコクリと頷く。
「出立する前に髪を整えてくれた人が、あたし達同様若返って当たり前に生徒をしてた──いくらあたしでも顔も名前も覚えてる政宗さんお気に入りの部下の人」
「それで?」
「バサラ者をみんな知ってる。だけど知ってると言っても都市伝説みたいな、属性装飾がどんなものかも良く知らないレベル。バサラ者が活躍始めてそんなにたってないみたい」
「それで、コレ」
彼女は着物の衿を摘んだ。
赤い着物は寝崩れてよれていたが、転落したその時から変わらない重ねのままだ。
「……それで、「ひな」と「ひわ」ね」
ひなはまた頷いた。
「悪い人達じゃないと思うけど、忍びの学校で今あたし達の名前がバサラ者として広まったら、ややこしいことになりそうだから」
「了解。伊達の髪結いがいるってことは、ここは奥州?」
「それが……」
聞かれたひなの顔が曇る。「飛鳥」と呼ばれた「ひわ」は、片手に弄んでいた手ぬぐいを水桶に放り込んだ。
ひなは眉を八の字に下げつつ、自分の転落した状況と現在地を説明する。
「いつきちゃんが落ちなかったのは、良かった。けど、播磨や但馬に近い、政治的緩衝地帯……?」
「小競り合いはあるけど、内部で割と完結してるって。飛鳥さんいつか言ってたじゃない? バサラ屋の拠点ももしかしたらこういうところにできたんじゃないかって」
「だけどここの連中はバサラ者に関して無知……過去、だからか…………そうか」
「飛鳥さん?」
「私が地割れに呑まれたのは、「ここ」に来る途中だったみたいだ」
彼女は言いながら、身につけていた属性装飾を一つ一つ外しはじめた。ひなは慌てて問う。
「え、どういう?!」
「瀬戸内や常陸方面から、復活した魔王軍が緩衝地帯への進軍を画策しているって情報が入ってね、表向きな理由が十分作れるアイツと私が緩衝地帯側の代表勢力に会いに行くことになっていたんだ」
「それがホントなら、いくらなんでも二人じゃ危険じゃない!」
「いつきちゃんと二人で津軽潜入した日向さんには言われたくな──」
彼女は口を閉ざして額を押さえた。
「いつきちゃんが同行者? あいつら絶対早まりそうだ……」
「そんなこと……! ナイデスヨ、多分」
口では否定するが、ひなの顔は青ざめている。指摘した側はなお難しい顔で、
「結果的にこっちが軍を動かさなかったのは正解だけど、パピヨンがなぁ……四郎様や筧さん達に期待するしかないか」
「それで、飛鳥さん達の名分て?」
「……アイツの恩師に、報告」
「──何がなんでも、元に戻って、帰らなきゃ、ね」
答えを聞いたひなは、神妙に呟く。属性装飾をすべて外し終えて、もう一人は沈んだ瞳を瞼に隠した。
「そう。もう一度十代から十年近くもやり直すつもりはない。還る方法を見つけるまで、例え二人だけの時でも、ひわとひなと呼び合った方がいい。飛鳥も日向も、あの場所で生きるべき名前なんだから」
天井裏に潜んでいた四條畷先生達は、目を見交わすと音も立てずにその場を離れた。
「先生、今の話どう思われますか?」
声に出すのは、別棟の屋根まで移動してから。問われたシナ先生は今も若い姿で、流麗な眉を寄せて応じる。
「あの子達、くのいち教室に来てほしいくらいだけれど、そうも行かないみたいね」
「シナ先生?!」
ずっこけたのは小林先生と土井先生だ。四條畷先生は確かに、と頷いて、
「怒気で冷静さを失わせ、虚を突き悟らせず数馬を追い払ったあの怒車の術は見事でした」
「そういうことを論じている場合ではないでしょう。あの二人が信頼に値するかどうか──ひなという娘、学園長に嘘をついていたわけですよね」
「あの子達が信頼に値するかどうかなんて、今すぐ決める必要はないでしょう。潜入調査に出た者ならば、語れないことがあるのは当然。私達の目の前で装備を解いたのは、こちらを一応信用するという意思表示のようですよ」
シナ先生はニッコリと土井先生に笑顔を向ける。
「やはり先生はお気づきでしたか」
土井先生の眉間にシワが寄る。
「ひわというあの娘の話、あれは半ば我々に聞かせるためのものだと気付いた上で、様子を見たいんですね」
「あれで単なる怒気なんだから、末恐ろしい。監視をするにも護衛するにも人数を割ける忍たまの方がいいというところですか」
小林先生も苦笑混じりに納得の頷きを返した。
この場での会合など、決定権はない。けれど、学園長はきっと同じことを決めているだろう、と土井先生は胃の腑の辺りを手で押さえた。
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