管理サイトの更新履歴と思いつきネタや覚書の倉庫。一応サイト分けているのに更新履歴はひとまとめというざっくり感。
本棟:https://hazzywood.hanagasumi.net/
香月亭:https://shashanglouge.web.fc2.com/
〓 Admin 〓
今日の昼の事だ。
クラスの女の子達とワイワイしゃべくりながらご飯を食べてた。
その時、どんな流れでそんな話になったのかは解らない。あたしは食後にオレンジジュースを買って戻ってきたところだったから。
「え、えっと……中在家先輩って、優しくて素敵だなぁって……」
恥ずかしげに顔を俯かせてか細い声で言ったのは、沙彩ちゃん──大人しくて、華奢で、守ってあげたくなる系女子。誰が好きとか嫌いとか、先輩カッコイイとか仲良くなりたい、とか。そんな話に混じってる事なんてあたしが知る限りこれまで一度だってなかった。
「え、中在家先輩?」
ビミョーに顔を歪めるのは、図書室でうるさくしたりして先輩に怒られたことがあるような子達。それ以外の子は、沙彩ちゃんが初めて話題に乗ってくれたことに喜んで、
「た、確かに物静かな所なんて沙彩ちゃんと気が合いそうだよねっ」
「頼り甲斐はスゴくありそうな存在感だしね!」
とかなんとかてきとーなことを言ってる。
「そ、そんなんじゃなくて、ね?」
顔を赤くした沙彩ちゃん。助けを求めるようにあたしを見てくるから、
「ほらほら、はしゃぎすぎて困らせない。ちよ子次の授業、当たるんじゃなかったっけ?」
わざとガタガタ音をたてて椅子を引きながら、視線を散らした。
「そりゃ、あんたは良いよね~、身内にあんなカッコイイのが二人もいるし」
ブーブー言われるのはいつもの事。やつらだって別に本気じゃないの解ってるから。
「羨ましいだろ」
「ちくしょー、羨ましいっどっちか寄越せ!!」
「素直でよろしい。だが断る」
いつものじゃれ合いで解散した。ホッとした沙彩ちゃんがまだ赤い顔のままで小さく「あの、ありがとう」って離れてったのが、いつもと違ったところ。
ホントにスキ、なんだろうな、なんて考えたら、少しだけモヤっとした。
「十六夜、何かあったのか?」
放課後の図書準備室。
あたしは図書委員の当番で、破損図書の修繕をしていた。間が悪いって言うのかな、当番四人で役割分担したときに、今日の相方が図書委員長──つまり、件の中在家長次先輩になっちゃったのは、さ。
いつもは意識なんてしてないのに、赤い顔した沙彩ちゃん思い出したら、先輩の事が、姿勢のよさとか爪が切り揃えられた指先とかちょっとした仕草だとかが、気になって仕方なかった。罪悪感──だと思うんだよね。大人しくて引っ込み思案なあの子のスキナヒトと二人きりでいるってことに。
それで気が散って、ついつい手が止まって。
先輩に思いきり心配そうな顔をされてしまった。
「な、何でもナイですよ? ただ最近破損図書多いなーって気になって」
「……無理をするな」
先輩は作業の手を止めて、少し迷うようにしてからあたしの頭を撫でた。
安心を誘うような大きな手。あぁ、沙彩ちゃんはこういうところが好きなのかな。
「十六夜」
慣れないと聞き取れないようなモソモソした低い声。でも、その時の言葉ははっきりと聞き取れた。
「雷蔵と、何かあったのか?」
「え?」
「……気のせいならば、それで良い、モソ」
「…………」
視線が合っていたのは、ほんの数秒だったと思う。いつものモソモソに戻ると同時に、先輩は目を伏せた。
なのにあたしは、その先輩の両目に、縫い止められてしまったみたいに動けなくなった。
何で、今日に限って。
いつもならそんなネタを振ってくるヒトじゃないのに。
そんな真剣な目で、そんなこと──
「……十六夜先輩?」
気が付くと委員会の時間は終わってた。
中等部の能勢くんが不思議そうな顔であたしを呼んで、はっと手元を見ると、修繕するはずだった本は全部綺麗に片付けられていた。
クラスの女の子達とワイワイしゃべくりながらご飯を食べてた。
その時、どんな流れでそんな話になったのかは解らない。あたしは食後にオレンジジュースを買って戻ってきたところだったから。
「え、えっと……中在家先輩って、優しくて素敵だなぁって……」
恥ずかしげに顔を俯かせてか細い声で言ったのは、沙彩ちゃん──大人しくて、華奢で、守ってあげたくなる系女子。誰が好きとか嫌いとか、先輩カッコイイとか仲良くなりたい、とか。そんな話に混じってる事なんてあたしが知る限りこれまで一度だってなかった。
「え、中在家先輩?」
ビミョーに顔を歪めるのは、図書室でうるさくしたりして先輩に怒られたことがあるような子達。それ以外の子は、沙彩ちゃんが初めて話題に乗ってくれたことに喜んで、
「た、確かに物静かな所なんて沙彩ちゃんと気が合いそうだよねっ」
「頼り甲斐はスゴくありそうな存在感だしね!」
とかなんとかてきとーなことを言ってる。
「そ、そんなんじゃなくて、ね?」
顔を赤くした沙彩ちゃん。助けを求めるようにあたしを見てくるから、
「ほらほら、はしゃぎすぎて困らせない。ちよ子次の授業、当たるんじゃなかったっけ?」
わざとガタガタ音をたてて椅子を引きながら、視線を散らした。
「そりゃ、あんたは良いよね~、身内にあんなカッコイイのが二人もいるし」
ブーブー言われるのはいつもの事。やつらだって別に本気じゃないの解ってるから。
「羨ましいだろ」
「ちくしょー、羨ましいっどっちか寄越せ!!」
「素直でよろしい。だが断る」
いつものじゃれ合いで解散した。ホッとした沙彩ちゃんがまだ赤い顔のままで小さく「あの、ありがとう」って離れてったのが、いつもと違ったところ。
ホントにスキ、なんだろうな、なんて考えたら、少しだけモヤっとした。
「十六夜、何かあったのか?」
放課後の図書準備室。
あたしは図書委員の当番で、破損図書の修繕をしていた。間が悪いって言うのかな、当番四人で役割分担したときに、今日の相方が図書委員長──つまり、件の中在家長次先輩になっちゃったのは、さ。
いつもは意識なんてしてないのに、赤い顔した沙彩ちゃん思い出したら、先輩の事が、姿勢のよさとか爪が切り揃えられた指先とかちょっとした仕草だとかが、気になって仕方なかった。罪悪感──だと思うんだよね。大人しくて引っ込み思案なあの子のスキナヒトと二人きりでいるってことに。
それで気が散って、ついつい手が止まって。
先輩に思いきり心配そうな顔をされてしまった。
「な、何でもナイですよ? ただ最近破損図書多いなーって気になって」
「……無理をするな」
先輩は作業の手を止めて、少し迷うようにしてからあたしの頭を撫でた。
安心を誘うような大きな手。あぁ、沙彩ちゃんはこういうところが好きなのかな。
「十六夜」
慣れないと聞き取れないようなモソモソした低い声。でも、その時の言葉ははっきりと聞き取れた。
「雷蔵と、何かあったのか?」
「え?」
「……気のせいならば、それで良い、モソ」
「…………」
視線が合っていたのは、ほんの数秒だったと思う。いつものモソモソに戻ると同時に、先輩は目を伏せた。
なのにあたしは、その先輩の両目に、縫い止められてしまったみたいに動けなくなった。
何で、今日に限って。
いつもならそんなネタを振ってくるヒトじゃないのに。
そんな真剣な目で、そんなこと──
「……十六夜先輩?」
気が付くと委員会の時間は終わってた。
中等部の能勢くんが不思議そうな顔であたしを呼んで、はっと手元を見ると、修繕するはずだった本は全部綺麗に片付けられていた。
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「雷蔵、御願い付き合って!!」
部屋に飛び込んでくるなりそんなことを叫んだあたしに、雷蔵はキョトンとした顔をして、それからおっとり微笑んだ。
「どうしたの、いきなり? 買い物?僕でよければ荷物持ちに付き合うけど」
「そっちじゃなーい!」
予想通りの誤解をしてくれた雷蔵。あたしはヤツの襟首を掴んでぐいっと自分の方に引き寄せる。
「雷蔵今フリーだよね!? だったらあたしと付き合っても問題ないよね!?」
「へ、え……ええっ!?」
「何ともムードのない告白だな。下らない冗談で雷蔵をからかうな」
ガスっとあたしの頭を叩きやがった三郎は、読みかけの雑誌をあたしと雷蔵の間に差し入れる。それからその雑誌であたしの顔を押し返した。
「ぶべっ……! 何すんのよ、三郎!!」
「猛牛が雷蔵に襲いかかってるように見えたからな」
「何だとコノヤロ」
三郎は我が物顔で寛いでるけど、ここは雷蔵の部屋だ。同じイトコ同士でも、幼馴染みでもあるあたしの方が過ごし慣れた場所なんだぞ。つか、何でいるんだ。
「んで」
三郎は雑誌をベッドの上に放り出して促してきた。
「何のつもりなんだ? 突然」
「……! そ、そうだよ!! 比菜子ちゃん。理由を言ってくれなきゃ解らないよ」
唖然として固まってた雷蔵も、動きを取り戻して身を乗り出す。あたしは俯いて唇を尖らせる。
「……雷蔵が好きだから、ては思ってくれないわけ?」
「へ?!」
「そんな態度じゃなかったろう。ホレ、貴重な時間を割いて付き合ってやってるんだ、さっさとはいちまえよ」
これだから三郎はイヤなんだ。
勢いに任せて雷蔵と付き合ってるって既成事実さえ作ってしまえば、色々丸く収まるのに。
「……」
「比菜子ちゃん、流石に僕も訳が判らないままそういう「付き合う」はできないよ」
「雷蔵もこう言ってるぞ」
お前のせいだ。
けど。
「…………はぁ」
あたしは溜め息を吐いて、愛用のクッションに顔を埋めた。
ホントは聞いてほしかったのかもしれない。
三郎に見透かされたのは悔しいからそんなこと言わないけど。
部屋に飛び込んでくるなりそんなことを叫んだあたしに、雷蔵はキョトンとした顔をして、それからおっとり微笑んだ。
「どうしたの、いきなり? 買い物?僕でよければ荷物持ちに付き合うけど」
「そっちじゃなーい!」
予想通りの誤解をしてくれた雷蔵。あたしはヤツの襟首を掴んでぐいっと自分の方に引き寄せる。
「雷蔵今フリーだよね!? だったらあたしと付き合っても問題ないよね!?」
「へ、え……ええっ!?」
「何ともムードのない告白だな。下らない冗談で雷蔵をからかうな」
ガスっとあたしの頭を叩きやがった三郎は、読みかけの雑誌をあたしと雷蔵の間に差し入れる。それからその雑誌であたしの顔を押し返した。
「ぶべっ……! 何すんのよ、三郎!!」
「猛牛が雷蔵に襲いかかってるように見えたからな」
「何だとコノヤロ」
三郎は我が物顔で寛いでるけど、ここは雷蔵の部屋だ。同じイトコ同士でも、幼馴染みでもあるあたしの方が過ごし慣れた場所なんだぞ。つか、何でいるんだ。
「んで」
三郎は雑誌をベッドの上に放り出して促してきた。
「何のつもりなんだ? 突然」
「……! そ、そうだよ!! 比菜子ちゃん。理由を言ってくれなきゃ解らないよ」
唖然として固まってた雷蔵も、動きを取り戻して身を乗り出す。あたしは俯いて唇を尖らせる。
「……雷蔵が好きだから、ては思ってくれないわけ?」
「へ?!」
「そんな態度じゃなかったろう。ホレ、貴重な時間を割いて付き合ってやってるんだ、さっさとはいちまえよ」
これだから三郎はイヤなんだ。
勢いに任せて雷蔵と付き合ってるって既成事実さえ作ってしまえば、色々丸く収まるのに。
「……」
「比菜子ちゃん、流石に僕も訳が判らないままそういう「付き合う」はできないよ」
「雷蔵もこう言ってるぞ」
お前のせいだ。
けど。
「…………はぁ」
あたしは溜め息を吐いて、愛用のクッションに顔を埋めた。
ホントは聞いてほしかったのかもしれない。
三郎に見透かされたのは悔しいからそんなこと言わないけど。
【如何しようか】
このカテゴリは香月亭・縁側のどちらのメニューに並べるところを想像しても自分でしっくりこなかった話などをまとめていくスペースです。
ジャンルそのものはすでに手を出してるジャンルが中心になると思うけど節操なしにはびこる恐れも無きにしも非ず……あと、タイトル決められない奴とかも話しできた奴はカビを生やす前に上げてこうかと思ってます。だって寝かしてたって熟成じゃなくて発酵してくだけだし。
ばさらんの注意書き同様、このページの下の方に各話リンク貼ってく予定です。
このカテゴリは香月亭・縁側のどちらのメニューに並べるところを想像しても自分でしっくりこなかった話などをまとめていくスペースです。
ジャンルそのものはすでに手を出してるジャンルが中心になると思うけど節操なしにはびこる恐れも無きにしも非ず……あと、タイトル決められない奴とかも話しできた奴はカビを生やす前に上げてこうかと思ってます。だって寝かしてたって熟成じゃなくて発酵してくだけだし。
ばさらんの注意書き同様、このページの下の方に各話リンク貼ってく予定です。
夕食の支度ができたがどうするかと訪ねて来たのは茶髪の少年だった。
「……雷蔵君?」
どちらか見分けられずに(ただ一人称が違ったなとだけ思い出した)ひなが眉を寄せると、彼は曖昧な笑みを浮かべる。
「そういえばさっきひわさんもひなちゃんも僕の顔を凝視してたけど、何かあった?」
「あれは──」
──ひわが気にしていたのは何だったんだろうって……
「うん、あれは?」
ニコニコ顔で促す少年。すると下の方から、
「なんで鉢屋に答えなきゃいけない?」
「え、ひわさん!」
ひわが目を開けて、仰臥したまま少年を睨んだ。
少年は一瞬息を呑み、いびつな苦笑でひわを見下ろす。
「やだなひわさん、僕は雷蔵だよ?」
「あんたは雷蔵じゃない。雰囲気からして似ても似つかないでしょう」
ひわは断言した。
ひなは少年とひわの顔を交互に見る。
少年は顔に手を当てると、素早く動かして勘右衛門の顔を作った。
「そんなこと言われたのは生まれて初めてだ。気を抜き過ぎたかな?」
「雷蔵から滲み出る人の良さと、あんたから滲み出る胡散臭さは一目瞭然──ケホ」
「ああ、はい水ね」
勘右衛門の顔をした三郎は水差しから注いだ水をひわに差し出す。
ひなは起き上がるひわの背を支えた。
ひわは暫くじっと器を見つめてから、水を口に含んだ。
こくん、と喉が嚥下の動きを見せるのは、更に少し経ってから。
「ホントに動物的だね。格好だけ見ればお嬢さんなのに」
「煩い。敢えて雷蔵の振りをして、ひなから話を聞きだそうとする奴の差し出してきた水を、警戒するのは当然でしょう」
「でも、飲んだ」
三郎はまた顔の前に手を遣って、雷蔵と同じ顔へ戻した。
「多少は心を開いてもらえたと思って良いのかな?」
「判断はそちらの自由」
にっこり笑顔の問い掛けにもひわは動じない。ひなはじっと、装ってしまえば区別のつかない三郎の変わり身を見つめる。ひなには、最初の雷蔵を三郎とひわが見破れた理由がわからなかった。
──滲み出る云々は本気じゃないのはわかるけど……
「じゃあ好きに捉えとくよ」
三郎も笑顔を崩さず切り返して、ちらっとひなに目をくれた。
「ひなちゃんは俺の華麗なるテクニックに夢中みたいだし」
「……妄想はそれくらいにしておいて、何の用?」
ひわの眉間に皺が寄る。三郎の笑顔が苦笑に替わり、「手厳しー」とぼやく。ひなはそこで初めて、鉢屋三郎という少年の作り物ではない少年らしい表情を見た気がした。
気を取り直して三郎は答える。
「二人は今日の夕飯どうするのか聞きに来たのさ」
「夕飯?」
「ここじゃ朝と昼は食堂のおばちゃんが作ってくれるけど、夜はグループごとに自炊なんだ。二人はまだ長屋のこともろくに聞いてないだろ? これでも気を使ったんだけど」
「その一言がなければ素直に感謝するのに……」
つい溜息を吐いたひなだった。
ひわは他のことに気を取られたようで、
「そのグループは雷蔵と竹谷の他はどうなってるわけ?」
「勘右衛門と兵助だよ」
「……その二人はい組で、あんた達はろ組だと名乗っていなかった?」
「あ」
ひなは目を瞬かせた。体調が戻っていないひわが気づいたのに、すっかり回復している自分が気付かなかったことが恥ずかしい。
三郎も目を丸くした。
「あの状況でよく覚えてたな。
下級生なんかは組ごとに当番が作るんだけどさ、上級生になると実習やら課題やらでばらばらになるから、気の合う連中でテキトーにまとめることになってんだ」
「ナルホド? あの二人も戦忍志望ってことね……」
ひわは含みのある相槌の後で独りごちる。ひなはその台詞が気になったが、三郎の目を気にして聞き返せなかった。
その代わりに尋ねるのは、
「ひわさんどうする? 動くの辛くない?」
「そうね……今日のところはお言葉に甘えておこう? 竹谷や久々知には世話をかけた礼を言ってなかったし」
「二人限定?」
「というわけでもないけど、どちらかといえば尾浜には驚かせた詫びをして、雷蔵には心配かけたことを謝る方が適当」
「うーん」
二人の会話を聞いていた三郎が首を捻った。
ひなは彼が疑問を口にする前にと、急いでひわに言う。
「行くなら早く行こう? 待たせたら悪いよ」
「そうだね──?」
「ひわさん?」
「……何でもない」
ひわは手早く髪や服の乱れを直して立ち上がった。
「……雷蔵君?」
どちらか見分けられずに(ただ一人称が違ったなとだけ思い出した)ひなが眉を寄せると、彼は曖昧な笑みを浮かべる。
「そういえばさっきひわさんもひなちゃんも僕の顔を凝視してたけど、何かあった?」
「あれは──」
──ひわが気にしていたのは何だったんだろうって……
「うん、あれは?」
ニコニコ顔で促す少年。すると下の方から、
「なんで鉢屋に答えなきゃいけない?」
「え、ひわさん!」
ひわが目を開けて、仰臥したまま少年を睨んだ。
少年は一瞬息を呑み、いびつな苦笑でひわを見下ろす。
「やだなひわさん、僕は雷蔵だよ?」
「あんたは雷蔵じゃない。雰囲気からして似ても似つかないでしょう」
ひわは断言した。
ひなは少年とひわの顔を交互に見る。
少年は顔に手を当てると、素早く動かして勘右衛門の顔を作った。
「そんなこと言われたのは生まれて初めてだ。気を抜き過ぎたかな?」
「雷蔵から滲み出る人の良さと、あんたから滲み出る胡散臭さは一目瞭然──ケホ」
「ああ、はい水ね」
勘右衛門の顔をした三郎は水差しから注いだ水をひわに差し出す。
ひなは起き上がるひわの背を支えた。
ひわは暫くじっと器を見つめてから、水を口に含んだ。
こくん、と喉が嚥下の動きを見せるのは、更に少し経ってから。
「ホントに動物的だね。格好だけ見ればお嬢さんなのに」
「煩い。敢えて雷蔵の振りをして、ひなから話を聞きだそうとする奴の差し出してきた水を、警戒するのは当然でしょう」
「でも、飲んだ」
三郎はまた顔の前に手を遣って、雷蔵と同じ顔へ戻した。
「多少は心を開いてもらえたと思って良いのかな?」
「判断はそちらの自由」
にっこり笑顔の問い掛けにもひわは動じない。ひなはじっと、装ってしまえば区別のつかない三郎の変わり身を見つめる。ひなには、最初の雷蔵を三郎とひわが見破れた理由がわからなかった。
──滲み出る云々は本気じゃないのはわかるけど……
「じゃあ好きに捉えとくよ」
三郎も笑顔を崩さず切り返して、ちらっとひなに目をくれた。
「ひなちゃんは俺の華麗なるテクニックに夢中みたいだし」
「……妄想はそれくらいにしておいて、何の用?」
ひわの眉間に皺が寄る。三郎の笑顔が苦笑に替わり、「手厳しー」とぼやく。ひなはそこで初めて、鉢屋三郎という少年の作り物ではない少年らしい表情を見た気がした。
気を取り直して三郎は答える。
「二人は今日の夕飯どうするのか聞きに来たのさ」
「夕飯?」
「ここじゃ朝と昼は食堂のおばちゃんが作ってくれるけど、夜はグループごとに自炊なんだ。二人はまだ長屋のこともろくに聞いてないだろ? これでも気を使ったんだけど」
「その一言がなければ素直に感謝するのに……」
つい溜息を吐いたひなだった。
ひわは他のことに気を取られたようで、
「そのグループは雷蔵と竹谷の他はどうなってるわけ?」
「勘右衛門と兵助だよ」
「……その二人はい組で、あんた達はろ組だと名乗っていなかった?」
「あ」
ひなは目を瞬かせた。体調が戻っていないひわが気づいたのに、すっかり回復している自分が気付かなかったことが恥ずかしい。
三郎も目を丸くした。
「あの状況でよく覚えてたな。
下級生なんかは組ごとに当番が作るんだけどさ、上級生になると実習やら課題やらでばらばらになるから、気の合う連中でテキトーにまとめることになってんだ」
「ナルホド? あの二人も戦忍志望ってことね……」
ひわは含みのある相槌の後で独りごちる。ひなはその台詞が気になったが、三郎の目を気にして聞き返せなかった。
その代わりに尋ねるのは、
「ひわさんどうする? 動くの辛くない?」
「そうね……今日のところはお言葉に甘えておこう? 竹谷や久々知には世話をかけた礼を言ってなかったし」
「二人限定?」
「というわけでもないけど、どちらかといえば尾浜には驚かせた詫びをして、雷蔵には心配かけたことを謝る方が適当」
「うーん」
二人の会話を聞いていた三郎が首を捻った。
ひなは彼が疑問を口にする前にと、急いでひわに言う。
「行くなら早く行こう? 待たせたら悪いよ」
「そうだね──?」
「ひわさん?」
「……何でもない」
ひわは手早く髪や服の乱れを直して立ち上がった。
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